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神への階と十五柱の花嫁  作者: 輝夜月愛


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第34話:国王の胃痛と、謁見の間の怪獣たち

【レギュラント王城・玉座の間】


「……嘘だろ?」


国王アルセイド三世は、震える手で羊皮紙を持っていた。

宰相が持ち込んだそれは、隣国フォルデアからの公式な親書。

そこには、国王の署名入りでこう書かれていた。


『我が国フォルデアは、本日をもってローレンツ公爵家の“お庭(私有地)”となることを宣言する。

すべては、偉大なる幼女ヘスティアー様のために』


「……お庭?」


国王の声が裏返った。

隣国が滅んだのではない。一人の幼女に「譲渡」されたのだ。

しかも、その幼女は自分の国の貴族ライルの娘だ。


「これでは、ライルが余より広い領土を持つことになるぞ!?

いや、それ以前に『庭』ってなんだ! 国だぞ!?」


「へ、陛下! 落ち着いてください!

ライル公爵が到着されました! 娘御たちも一緒です!」


「通せ! ……いや、胃薬を持ってこい! 大量にだ!」



【謁見の間・怪獣来襲】


重厚な扉が開くと、ライルが青ざめた顔で入ってきた。

その後ろには、きらびやかなドレス(と強烈な神気)を纏った五人の娘たちが続いている。


「へ、陛下……。この度は、うちの娘が……その……」


ライルが冷や汗を拭いながら跪く。

だが、主役の娘たちは跪くどころか、興味津々で玉座の間を見渡していた。


「わあー! ここが王様のおうち?」

火の**ヘスティアー(8歳)**が、赤いドレスを揺らして走り出す。


「……趣味が悪いですわ。金ピカすぎて目が痛い」

氷の**ベイラ(8歳)**が、国王の冠を見て辛辣な批評をする。


「空気が悪いね。……森にしちゃおうか?」

森の**リーフェ(8歳)**が、床の大理石をコンコンと叩く。


「……天井、高いね。落とそうかな」

闇の**ヘカッテ(8歳)**が、ボソリと呟く。


そして、一番幼い女神の娘・**アフロディテ(7歳)**は、護衛の近衛騎士たちの前でニコニコしていた。

「お兄ちゃんたち、遊んでくれる?」

その笑顔を見た騎士たちが、全員鼻血を出して倒れた。「ぐはっ……尊い……!」


「ひぃぃぃッ! 近衛兵が全滅したぁぁッ!?」

宰相が悲鳴を上げる。


国王は頭を抱えた。

「ラ、ライルよ……。娘たちを……制御できんのか?」


「無理です陛下。今朝も『お遊戯』で山を一つ更地にされました」



【議題:隣国どうすんの?】


気を取り直して、本題に入る。

国王は咳払いをして、フォルデアからの譲渡書を掲げた。


「ライル。単刀直入に聞くが……お前、王になる気はあるか?」


「ありません! 絶対に嫌です!」


ライルが食い気味に否定する。


「しかしだね! お前が隣国のオーナーになってしまった以上、形式上、お前は余と同格……いや、実質的な国力では上になってしまうんだよ!」


「そこをなんとか! 『預かり地』とかにして、陛下が管理してくださいよ!」


「嫌だよ! あんな『溶岩の国』、維持費だけで国庫が破綻するわ!」


大人が醜い押し付け合いをしている横で、娘たちが飽き始めていた。


「ねえパパ、まだー?」

ヘスティアーがライルの袖を引っ張る。

「退屈だわ。……ねえ、あの椅子(玉座)、座り心地よさそう」


ベイラが玉座を指差す。

国王がギクリとする。


「こ、こら! あれは王様の椅子だぞ!」


「ふーん。……じゃあ、もっといい椅子を作ってあげる」


ベイラが指を鳴らした。

パキキキキキッ!!

玉座の間の空気が凍りつき、国王の尻の下に、突如として巨大な「氷の玉座」が出現した。


「ひゃぁぁぁっ! 冷たぁぁぁい!!」

国王が飛び上がる。

「夏仕様ですわ。感謝なさい」


「感謝できるか! 痔になるわ!」


すると今度は、リーフェが動いた。

「じゃあ、お花畑にしてあげる!」

ドゴォォォン!!

床の大理石を突き破り、極彩色の巨大食虫植物(ラフレシア的なもの)が生い茂る。

「く、臭い! 謁見の間がジャングルに!」


「うるさいなー。燃やせばいいんでしょ?」

ヘスティアーが白炎を吹く。

「ぎゃあああ! 城が燃えるぅぅッ!」


「……重力遮断」

ヘカッテが呟くと、燃え盛る家具や悲鳴を上げる大臣たちが、無重力で宙に浮いた。

カオスである。地獄絵図である。



【結論:国家ぐるみの隠蔽(解決策なし)】


「た、助けてくれぇぇぇッ!!」

宙に浮きながら、国王が泣き叫ぶ。


ライルは溜息をつき、娘たちを一喝した。


「いい加減にしなさい!

パパは今、大事なお話をしてるんだ!

お城を壊したら、おやつ抜きだぞ!!」


『おやつ抜き』という最強の呪文。

娘たちはピタリと止まった。


「……ちぇー」

「……わかったわよ」


魔法が解除され、大臣たちがドサドサと落ちてくる。

国王はボロボロの姿で、氷の玉座(溶けかけ)にへたり込んだ。


「……ぜぇ、ぜぇ……。

わかった、ライル。もういい……」


国王は悟りの境地に達した目で言った。


「フォルデア国は、形式上『レギュラント王国の属領』とする。

だが、実質的な統治権は……君の娘、ヘスティアーに与える」


「えっ、でも……」


「いいんだ! 誰も文句は言わん!

ていうか、言えるかあんなバケモノ(失礼)に!!」


国王は涙目で叫んだ。


「その代わり! これ以上領土を増やすなよ!?

絶対にだぞ!?

これ以上、余の胃をいじめるな!」


「は、はい! 肝に銘じます!」


ライルは深々と頭を下げた。

だが、その背後で――。


執事が入室してきた。

顔面蒼白である。


「へ、陛下……。ご報告が……」


「なんだ! 今、取り込み中だぞ!」


「はっ……。たった今、東の港町より早馬が……。

ライル様の次女・ユリィナ様が、海を割って『海底都市』を発見し……」


「……発見し?」


「その……深海族の王から、**『国家譲渡の誓約書(石版)』**を預かってきた、と……」


シーン……。

謁見の間に、重苦しい沈黙が流れた。


国王が、ゆっくりとライルを見た。

ライルは、視線を逸らした。


「……ライルくん?」


「ち、違います陛下! 僕は何も知りません!」


「約束したよなぁぁぁッ!?

今度は海か!? お前んちは陸海空制覇する気かぁぁぁッ!!」


国王の絶叫が城内に木霊する。

こうして、レギュラント王国は、国王の胃壁と引き換えに、なし崩し的に「世界帝国」への道を歩み始めたのである。


次回、東の海で**「パパにお魚をあげたかっただけなのに」**編。

セレナの次女・ユリィナ(6歳)による、無邪気な海洋征服が幕を開ける。


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