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神への階と十五柱の花嫁  作者: 輝夜月愛


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第31話:五人の魔王(1歳児)と、神界の終焉(ラスト・ダンス)

【ローレンツ領・屋敷の庭(元・戦場)】


その日、元・枢機卿ガニスは、庭の隅で震えながら雑草を抜いていた。

彼の背後では、世界を滅ぼしかねない「お遊び」が繰り広げられていたからだ。


「いくよー! 灼熱のブレスだぞー!」


先陣を切るのは、獣人の娘・ヘスティアー(1歳)。

琥珀色の瞳を輝かせ、口から白い炎(神炎)を放射しながら走り回る。


「暑苦しいですわ、お姉様。……《絶対零度アブソリュート・ゼロ》」


それを冷ややかな目で見つめるのは、人族の娘・ベイラ(1歳)。

金髪をなびかせ、指先一つで炎を凍結させる。ついでにガニスの麦わら帽子も凍った。


「喧嘩はだめだよー。みんな、森においでー」


エルフの娘・**リーフェ(1歳)**が地面を叩くと、庭の植木がメキメキと巨大化し、ジャングルのような迷路を作り出す。


「……ふふ。迷路なら、重くして出られなくしてあげる」


魔族の娘・ヘカッテ(1歳)。

黒のゴスロリドレスを着た彼女が、愛らしい手で「ぺしゃん」とジェスチャーをすると、ジャングル全体に重力魔法がかかり、地面が沈下した。


そして、その中心で――。


「きゃはは! すごいすごい! もっとやってー!」


女神サクヤの娘・**アフロディテ(半年)**が、無邪気に手を叩いていた。

彼女はまだ魔法を使わない。だが、彼女が「楽しい」と感じるだけで、周囲の確率が変動し、炎が花火に、氷が宝石に、重力がトランポリンのように変化してしまう。

無自覚な「現実改変」の能力者だ。


「……こ、これが英雄様の娘たちか……」

「猊下、逃げましょう。巻き込まれたら塵になります」


ガニスと部下たちは、匍匐前進で避難した。



【ダイニング・夕食の席】


その夜。

嵐のような一日が終わり、ライルと五人の妻、そして五人の娘たちが食卓を囲んでいた。

他の妻たちはすでに第二子を妊娠中で、お腹も目立ち始めている。


「みんな、明日はもう少し静かに遊ぶんだぞ?」


ライルが注意するが、娘たちは「はーい!」と元気よく返事をするだけで、全く反省の色がない。

そこへ、サクヤが静かに口を開いた。


「……主さま。そして皆様」


その声のトーンに、全員の手が止まった。

サクヤは、どこか悪戯っぽく、けれど慈愛に満ちた瞳で自身のお腹を撫でた。


「お待たせいたしました。

……最後の一人が、やってきたようです」


「えっ……サクヤ、まさか!」


ライルが立ち上がる。

他の妻たちも、そして娘たちも息を呑んだ。


「はい。二人目を授かりました。

……この子は、少し特別です。神界の『頂点』にあった魂が、降りてきたようですから」


その瞬間、屋敷のシャンデリアが激しく明滅し、窓の外にオーロラが出現した。


「名前は、ノア。

古語で“安らぎ”、そして神話においては“神々の女王”を意味する名です」



【天上界・第一セクター【天后の座】】


ブツンッ……。


神界の最奥部。

もっとも豪華で、もっとも権威ある「女王の間」の照明が落ちた。


「……あ」


議長の天空神ゼウス(仮称)は、玉座に座ったまま、隣にあった「妻の玉座」を見つめた。

そこにはもう、誰もいない。

神々しい光も、威厳ある気配も、すべて消え失せていた。


「……ヘラ(天后)?」


返事はない。

あるのは、空っぽになった座布団だけ。


「……嘘だろ?

魔法も、光も、水も、風も、勝利も……部下が全員いなくなって。

最後に……妻までいなくなるのか?」


ゼウスの声が震える。


「……誰か! 誰かいないか!」


シーン……。


「おい! お茶! お茶を持ってこい!」


シーン……。


誰もいない。

神官も、下級神も、主要な女神たちも。

みんな、地上のライル・フォン・ローレンツの屋敷へ「転生」するか、「就職」してしまったのだ。


「……私一人か。この広い神殿に」


ゼウスは、膝を抱えた。

世界を統べる全知全能の神。

その実態は今、世界で一番孤独な独身男性だった。


「……う、ううっ……。

ライルぅぅぅッ! 貴様ぁぁぁッ!!

私の家庭を! 私の職場を! 返せぇぇぇッ!!」


神界に、おっさんの泣き声だけが虚しく木霊した。



【地上・教会の再就職組】


翌朝。

ローレンツ領の屋敷にて。


「おはようございます、ガニスさん」


「おう、おはようマリア」


元・枢機卿と元・シスターは、清々しい顔で挨拶を交わした。

彼らは感じていた。

今朝、空気が変わったことを。

空から降り注ぐ「神気」が完全に消滅し、代わりにこの屋敷から世界中へ向けて、新たな「祝福の波動」が発信されているのを。


「……どうやら、あちら(神界)は『閉店』されたようだな」


ガニスが空を見上げて呟く。


「ええ。これからは、ここが世界の中心(神界)です」


マリアが屋敷を仰ぎ見る。

そこには、大きなお腹を抱えたサクヤと、彼女を支えるライル。

そして、庭を駆け回る五人の女神(娘)たちの姿があった。


「さあ、働くぞ!

新しい神々のお世話だ! ミルクの温度は適温か!? おむつの在庫は足りているか!?」


「「「イエッサー!!」」」


神界は崩壊した。

しかし、地上にはかつてないほど強力で、騒がしくて、温かい「新しい神話」が誕生していた。


ライル・フォン・ローレンツ。

不運だった少年は、ついに神界そのものを飲み込み、世界最強の大家族の長となったのである。


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