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神への階と十五柱の花嫁  作者: 輝夜月愛


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第2話:【詫び石は最強の幸運と女神様】

次に気づいたとき、僕は見知らぬ空間にいた。


真っ白で、何もない。音も風も匂いもない。

無音の虚無に立ち尽くす僕の前に、ひとりの老人が現れた。


銀髪、長いひげ、荘厳なローブ。

神話から抜け出してきたような、そんな雰囲気を持つ老人だった。


「……まずは、申し訳ない。君の人生、不幸の連続だっただろう?」


そう言った老人の言葉は、どこまでも静かで、それでいて確かな後悔に満ちていた。


「え……?」


「本来なら、君はもっと平穏な人生を送るはずだった。

だが、神界での“魂割り当てシステム”において、ひとつ――重大な手違いが起きた」


――魂割り当てシステム?手違い?


「君に割り当てられるはずの“平凡かつ小さな幸運”の因子が、別の魂と入れ替わってしまったのだ。

その結果、君は本来受けるはずだった幸運を全て失い、“極端な不運体質”として人生を歩むことになってしまった」


何を言っているのかわからなかった。

でも……今までの人生を振り返ると、あまりに“説明がつきすぎて”いた。


「それって……僕の人生が不幸だったのは、“神のミス”ってことですか?」


老人は深く頷いた。


「――まったくもって、その通りだ。心から、すまない」


そう言って、彼は地面に片膝をつき、頭を垂れた。


神が、人間に――いや、“死んだただの不運な高校生”に頭を下げた。


その事実の重さが、ようやく僕に、現実を飲み込ませた。


「……じゃあ、もう一度やり直せるんですか?」


僕の問いに、老人は再び顔を上げ、神々しい光の扉を背後に出現させた。


「もちろんだ。だが、ただやり直すだけではない。

今度こそ、君に本来与えられるはずだった幸運……いや、それ以上の“最高等級の幸運加護”を授けよう」


老人の手のひらから、眩い黄金の光が舞い上がる。

まるで祝福の羽のように、空間に降り注ぐ輝き。


「君に与える加護の名は――《運命改変・至高運》」


「運命、改変……?」


「そう。“君の周囲で発生するすべてのランダム要素”は、最良の結果をもたらす方向へと“自動修正”される。

出会いも、戦闘も、選択も、すべてが“君にとってもっとも有利な結果”になるよう導かれるだろう」


思わず、口元が引きつった。

不幸の化身とまで言われたこの僕に、幸運を与えるなんて。

まるでコントのような話だ。


「……いくら幸運でも、剣で刺されたら、普通に死にますよね?」


僕は率直に、そして正直に聞いた。

どれだけ運がよくたって、致命傷を受けたらアウトだ。

“幸運”だけじゃ防ぎきれない事態なんて、いくらでもある。


老人――神は、目を細めて静かに頷いた。


「確かに。君の言うとおりだ。

幸運は確率を引き寄せる力にすぎず、“物理的な死”そのものを防ぐわけではない。

……だからこそ、我々は君に“守護者”を与えることにした」


「守護者……?」


神はゆっくりと振り返ると、空間に向かって右手をかざした。

その先に、銀と金の紋様が編み込まれた壮麗な扉が現れる。


「神界において最も新しく生まれた存在――

我が末娘、女神コノハナサクヤを“護衛”として遣わそう」


その名前を聞いた瞬間、胸の奥がふっと温かくなった。

扉が、ゆっくりと開く。


光の中から、ひとりの少女が静かに歩み出た。


「……はじめまして、主さま。護衛を務めます、コノハナサクヤです」


その姿を見た瞬間、僕は言葉を失った。


まず目に飛び込んできたのは、プラチナシルバーの髪だ。

光そのものを織り込んだような銀糸は、艶やかに流れ落ち、彼女の膝の裏まで届くほどのストレートロングを描いている。

顔周りの髪だけは両サイドですくい上げられ、プラチナのリボンで結われたツインテール・ツーサイドアップが、歩くたびに愛らしく揺れていた。


顔立ちは、この世の美醜の概念を超越していた。

陶器のように滑らかな白い肌に、宝石を埋め込んだような深く澄んだサファイアブルーの瞳。

その瞳が、まっすぐに僕を見つめている。


そして、その肢体もまた、芸術品のように完成されていた。

身長は僕よりも高い、およそ175cm。

驚くべきはそのバランスだ。腰の位置が異常に高く、股下は見た目でも身体の半分以上――90cmはあるだろうか。すらりと伸びた脚線美は、人間離れした美しさを放っていた。


服装は、彼女の神秘性を際立たせつつも、どこか扇情的だった。

身に纏っているのは、肌の白さを強調する深紅のキャミソールワンピース。

その下には、ふわりと広がる超ミニのチュールスカート。

歩くたびに揺れる裾からは、その長い脚が惜しげもなく晒されている。


豊かな胸元(B90)からくびれたウエスト(W50)、そして滑らかな曲線を描くヒップ(H90)へ。

完璧な黄金比率が、薄い布一枚越しに主張していた。


「……き、君が、僕の護衛?」


あまりの美しさに、裏返った声が出てしまう。

コノハナサクヤは、サファイアの瞳を細めて、優雅にカーテシー(膝を折る礼)をした。


「はい。未熟な身ではありますが、この身命を賭して、主さまをお守りいたします」


その声は鈴を転がすように美しく、それでいて絶対的な忠誠心を感じさせた。


神が、呆然とする僕を見てニヤリと笑う。


「どうだ、気に入ったか?

今はまだ生まれたばかりでこの姿だが……彼女は“成長”する女神だ。

お前の幸運と、経験次第で、その姿はより神々しく、より美しく変化していくだろう」


「へ、変化……?」


「ああ。髪はより長く、背はより高く、力はより強大にな。

育て方次第で、世界を傾けるほどの美姫になるぞ」


神の言葉に、コノハナサクヤは少し恥ずかしそうに頬を染め、プラチナの髪を指で弄んだ。


「父様、あまり主さまを困らせないでください……。

でも、主さま。私は、あなた様のために強くなります。

いつか、あなた様にふさわしい、最高の女神となれるように」


その言葉と、はにかんだ笑顔。

僕は直感した。

この理不尽な不幸の連続だった人生の最後に、とんでもない“大当たり”を引いたのだと。




神が、そんな僕の戸惑いに重ねて告げる。


「誤解のないように伝えておこう。

サクヤは、単なる“護衛役”ではない。

彼女は、神界の中でも特異な力を持っている」


神は手をかざし、空間に“神位表”と呼ばれる透明な一覧表を浮かべた。


その中で、サクヤの名は異質な場所に刻まれていた。


《階位外》──すなわち、計測不能。


「……サクヤの力は、既存の神格レベルでは計れない。

物理攻撃への絶対回避結界、対魔障壁、空間跳躍能力、時間遅延処理……

いずれも神界の中核級に匹敵、もしくはそれ以上だ」


「え、ええ……」


「つまり、彼女が傍にいる限り――

どれだけ致命的な攻撃を受けても、“君は死なない”。

君は、安心して新しい世界で生きればよい。彼女が“全てを引き受ける”」


……それ、もはやチートとかそういう次元じゃない。


「さあ、時が来た」


神が手をかざすと、空間がゆっくりと揺らぎ、世界に“地”と“空”と“重力”が戻ってくる。


「君は、新たなる世界に転生する。

その地位は――“ローレンツ伯爵家の第一子”。

人族の名門貴族家の長男として、生を受けるだろう」


「……長男ってことは、将来の当主ですか?」


「その通り。だが、慌てることはない。

君の“幸運”と“守護者”が、すべての道を切り開いてくれるはずだ」


コノハナサクヤ(通称:サクヤ)が、一歩こちらに近づいて手を差し出した。


「行きましょう、主さま。

今度こそ、あなたにふさわしい人生が始まるのです」


僕は、その手を取った。


強くて、温かくて、まるで“運命”そのものに導かれるような――

そんな確かな手だった。


光が僕らを包み、世界が弾けるように転じていく。


こうして僕は、

“最高等級の幸運”と“最強の女神”を携え――

異世界の貴族の長男として、二度目の人生を歩み始めたのだった。



――光の奔流に包まれたかと思った次の瞬間。

まるで深い水面に沈み込むような感覚が、全身を満たした。


熱くもなく、冷たくもない。

ただ、すべてが“やり直される”ような、静かで、神聖な気配。


どこまでも広がる光の海の中で、僕の意識はゆっくりとほどけていった。

――これが、転生というものなのか。



……そして、意識が戻った。


最初に感じたのは、ふわりとした柔らかさ。

絹のような肌触りに包まれた、自分の小さな身体。


ゆっくりとまぶたを開けると、そこにあったのは――


壮麗な天蓋付きベッド。

天井は高く、彫刻が施された柱が四隅を支えている。

窓から差し込む朝の光が、大理石の床に柔らかな輝きを落としていた。


聞こえてくるのは、鳥のさえずり。

そして、どこか遠くから聞こえる馬の嘶きと、庭を手入れする者たちの足音。


見渡す限り、現代日本とはかけ離れた世界だった。

まさしく“異世界”だ。


だが、それよりも何よりも――


「おぎゃあ……おぎゃあ……!」


――泣き声?


……いや、これ、自分の声だ!


あわてて状況を把握しようとするも、体はあまりに小さく、動きもおぼつかない。

手を伸ばせば、それは赤ん坊のようにぷにぷにしていて、反射的に口に指をくわえてしまいそうになる。


(ま、まさか……赤ん坊に転生……!?)


混乱している間に、部屋の隅で控えていた壮年の男が、顔を紅潮させて駆け寄ってきた。


「お、おぼっちゃまが……! お生まれになられたぞ!!

我らがローレンツ伯爵家に、ついに、ついに正統なる後継ぎが!!」


声は震え、目には涙。

彼の言葉が、現実を突きつけてくる。


――僕は、貴族の家に生まれたんだ。

それも、正真正銘の“嫡男”として。


現代での冴えない不幸な人生。

そのすべてを抱えて死んだあの日の僕が、今――


“運命の中心”にいる。


(……これは、まさかの人生大逆転……?)


天井を見上げながら、自然と笑みがこぼれた。

眩しい光がまぶたの奥まで差し込んできて、温かさが胸に満ちていく。


この世界では、孤独じゃない。

虐げられることもない。

神が言っていたように、今度こそ“幸せな人生”が始まるのだ。


そして――

その隣には、そっと控えているひとつの存在。


乳母の装いをした、銀髪の女性。

髪を後ろでまとめ、素朴なエプロンドレスに身を包み、控えめな微笑みを浮かべている。


けれど、その目はあまりに整いすぎていた。

肌は雪のように白く、瞳にはどこか神秘的な光が宿っている。


「……主さま、ようこそ。この世界へ」


他人に聞かれぬよう、耳元で囁くその声は、転生前の神界で聞いたあの少女の声と、まったく同じだった。


「……サクヤ……?」


小さな声が、自然と漏れる。


彼女は柔らかく微笑んだ。


「はい。私はどこまでも、主さまの護衛にして従者。

この命が続く限り、主さまをお守りいたします」


そこにいたのは、間違いなく“女神”だった。

この世界の誰にも知られることなく、けれど絶対的な守護として存在する、僕だけの神。


その姿を見つめながら、僕は――

生まれ変わったばかりのこの身体の中で、

人生という名の大冒険の始まりを、静かに実感していた。


(……よし、今度こそ、やってやる)


運命に見放された少年は、

今、運命に祝福された貴族の息子として、生を歩み出す――


――その傍らには、決して離れることのない、最強の女神を従えて。


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