表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神への階と十五柱の花嫁  作者: 輝夜月愛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/42

第17話:森の悲鳴と、風の邂逅

《奈落の王墓》攻略から数週間後。

ライルは、ローレンツ領の東端に広がる「迷いの森」の近くを訪れていた。

Sクラス冒険者としての依頼ではなく、領主代行としての視察だ。


「……静かすぎるな」


馬の手綱を握りながら、ライルは呟く。

隣には、完璧な乗馬服に身を包んだサクヤが並走している。


「ええ。風が止まっています。……森が何かを恐れているような気配ですね」


サクヤが目を細めた瞬間だった。

森の奥から、微かだが、しかし切迫した悲鳴と、爆発音が聞こえた。


「――ッ! 行こう、サクヤ!」


「はい、主さま!」


ライルは迷わず馬を飛ばした。

道なき道を、「運命視」で最短ルートを見極めながら疾走する。

枝葉が顔を打つより早く、風が勝手に道を切り開いていく。



森の開けた場所で、惨劇は起きていた。


「ぐっ……! 姫様、お逃げください!!」


エルフの護衛騎士たちが、血まみれで倒れている。

彼らを取り囲んでいるのは、武装した人間の集団。

その装備は不揃いで、目つきは凶悪。違法な「奴隷狩り」の盗賊団だ。


そして、彼らが追い詰めている大木の根元には、一人の少女がいた。

月光を織り込んだような金色の髪に、深い森の色をした瞳。

エルフ族の中でも一際強い魔力を持つ、高貴な少女――セレナだ。


だが、彼女の足は折れ、杖も砕かれている。


「へへへ……上玉だ。このエルフなら、王都の闇オークションで城が建つぞ」


盗賊のリーダーらしき男が、下卑た笑いを浮かべて網を構える。

さらに悪いことに、彼らは禁忌の魔導具を使っていた。

少女の背後から、彼らが召喚した魔物《毒吐き大百足ポイズン・センチピード》が、涎を垂らして迫っていたのだ。


「……っ、来るな! 森を汚す者たちよ!」


セレナが気丈に叫ぶが、魔力切れの体では風の刃一つ起こせない。


(お父様、お母様……ごめんなさい……)


百足の鎌首が持ち上がり、盗賊の男が手を伸ばした、その時。


ヒュオォォォォォッ!!


突如として、暴風が吹き荒れた。

ただの風ではない。大気そのものが意思を持って、少女を守るように渦巻いたのだ。


「な、なんだぁ!?」


盗賊たちが吹き飛ばされる。

そして、風の中心から一人の少年が舞い降りた。


蒼銀の軽鎧を纏い、手には透き通る青い刀身の剣――《シルフィード・エッジ》。

ライル・フォン・ローレンツだ。


「……森の静寂を乱すな」


静かな、しかし絶対的な王の声音。


「あぁ? なんだガキが! やっちまえ!」


リーダーがけしかけると、巨大な百足がライルに襲いかかった。

鋼鉄をも砕く顎が迫る。

セレナは悲鳴を上げそうになり――息を呑んだ。


ライルは、見てすらいなかった。

ただ、剣を軽く横に薙いだだけ。


「――《風牙・絶空》」


カマイタチすら生ぬるい。

真空の刃が空間を走り、百足の巨体を一瞬で「肉片」へと変えた。

血の一滴すら、ライルには届かない。風が全て弾き返したからだ。


「ヒッ……!? バ、バケモノ……!」


盗賊たちが腰を抜かす。

ライルは彼らに冷ややかな視線を向け、剣先を向けた。


「消えろ。二度とこの森に足を踏み入れるな。

……次は、風が許さない」


その背後に、巨大な風の精霊王の幻影がゆらりと立ち上がる(サクヤによる幻術の演出付き)。

盗賊たちは恐怖にかられ、我先にと逃げ出した。


静寂が戻る。

ライルは剣を収めると、うずくまるセレナの元へ歩み寄った。

先ほどの覇気は消え、心配そうな少年の顔に戻っている。


「大丈夫ですか? ……ひどい怪我だ」


「あ……あなたは……?」


セレナは呆然としていた。

エルフにとって、風は神聖な友。

その風が、この少年にかしずいていた。まるで、彼こそが風の王であるかのように。


「ただの通りすがりです。……じっとしていて」


ライルは彼女の前に膝をつくと、懐からポーションを取り出そうとした。

だが、それより早く、追いついてきたサクヤが背後から手をかざした。


「《神域再生ディバイン・ヒール》」


温かな光がセレナを包み込む。

折れた足の骨が繋がり、裂けた皮膚が塞がり、魔力が満ちていく。


「え……? こ、こんな高度な治癒魔法、見たことが……」


「私の主さまが助けた方です。傷跡一つ残すわけにはいきません」


サクヤが微笑む。

セレナは立ち上がり、ライルを見つめた。

助けられた感謝だけではない。魂の奥底が震えている。


(神木様が言っていた……『風を統べ、女神を連れた王が現れる』と。

まさか、この方が……?)


セレナは震える手で、ライルの袖を掴んだ。


「あ、あのっ……!

わたくしは、この森を統べる族長の娘、セレナと申します。

どうか、お名前を……! 命の恩人のお名前を教えてください!」


その瞳は潤み、頬は高揚で赤く染まっている。

吊り橋効果などではない。種族の本能が「この男だ」と叫んでいたのだ。


「ライルです。ライル・フォン・ローレンツ」


「ライル様……」


セレナはその名を噛み締めるように復唱すると、エルフにとって最上級の敬意と求愛を示す仕草――自分の耳に触れ、相手の胸に額を当てる――を行った。


「このご恩は、生涯忘れません。

……必ず、お礼に伺います。わたくしの“全て”を懸けて」


こうして、運命の歯車が噛み合った。

ライルにとっては「たまたま通りがかって助けた」だけの出来事。

だがエルフたちにとっては、「風の精霊王に愛された伝説の勇者の降臨」だったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ