第11話:夏休みの宿題はA+ランク ~余裕と笑顔の殲滅戦~
夏休みも残り数日となったある日。
ライルたちは、ローレンツ領にあるもう一つの難所、A+ランクダンジョン《嘆きの古城》を訪れていた。
そこは、かつて魔王軍の砦だった場所がダンジョン化したもので、徘徊する魔物はすべて武装したアンデッド騎士や、高位の悪魔たちだ。
「――お茶が入りましたよ、主さま、フィリア様」
崩れ落ちた城壁の上で、サクヤが優雅にティーカップを差し出す。
足元には、ついさっき倒されたばかりの《首なし騎士》の鎧が転がっているが、彼女は気にする素振りもない。
「ありがとう、サクヤ。……うん、香りがいいな」
ライルは汗ひとつかいていなかった。
手にした聖風剣を軽く振るうと、刀身に付着していた黒い瘴気が風に散らされる。
「本当においしいですわ。……あ、ライル様。あそこの柱の陰に、まだ《死霊魔術師》が隠れていますけれど」
フィリアがクッキーをかじりながら、無邪気に指差す。
その指先から、パキィンという音と共に極細の氷の針が放たれた。
「ギャァァッ!?」
隠れていたリッチは、詠唱する間もなく眉間を貫かれ、氷像となって砕け散った。
「ナイス、フィリア。魔力探知の範囲、また広がった?」
「ええ。この古城全体なら、目を閉じていても把握できます」
フィリアは誇らしげに胸を張る。
以前の《試練の回廊》での必死さはもうない。
今の二人にとって、A+ランクの魔物など「動く的」でしかなかった。
「さて、休憩も終わりましたし、最上階のボスに挨拶に行きましょうか」
サクヤが手際よくティーセットを片付ける。
最上階、「玉座の間」。
待ち受けていたのは、三つの頭を持つ合成魔獣。
獅子、山羊、蛇の頭を持ち、それぞれの口から猛毒と炎を吐き散らす、このダンジョンの支配者だ。
「グルルルルォォォォ!!」
キマイラが咆哮し、三人を威圧する。
だが――
「あら、元気な猫ちゃんですね」
「毛並みが悪いわ。ブラッシングしてあげないと」
「じゃあ、僕が爪を切ってあげようか」
三人は顔を見合わせ、楽しそうに笑った。
「行きますよ、お二人とも。タイムアタックです。昨日の記録は3分でしたが……」
「今日は2分で終わらせるよ」
ライルが地を蹴る。
疾風のような速さでキマイラの懐へ。
獅子の頭が噛み付こうとするが、ライルはその牙の隙間を「運命視」で見切り、鼻先を足場にして跳躍する。
「フィリア!」
「はいっ! ――《氷結・拘束》!」
空中のライルに呼応するように、フィリアが杖を振る。
床から伸びた氷の鎖が、キマイラの四肢を瞬時に縛り上げ、動きを封じた。
「ギャッ!?」
「終わりだ! ――《風牙・断空》!」
ライルの剣が、空中で風の刃を巨大化させる。
一閃。
獅子、山羊、蛇――三つの首が同時に宙を舞った。
ドサァッ……。
巨体が崩れ落ちる。
戦闘開始から、わずか1分40秒。
「ふぅ。新記録だな」
ライルが剣を収めると、フィリアが駆け寄ってハイタッチをする。
サクヤは懐中時計を確認し、満足そうに頷いた。
「お見事です。A+ランクも、もはや準備運動にしかなりませんね」
三人は崩れた玉座に腰掛け、夕日を眺めた。
この夏、彼らは地獄を見た。限界を超えた。そして、最強の「家族」になった。
「……帰りたくないな、学園」
ライルがぼやくと、フィリアがクスッと笑う。
「でも、帰らなくては。わたくしたちの『伝説』を、世界に見せつけないといけませんから」
「そうですね。それに……王都では、面白いイベントが待っている予感がします」
サクヤの意味深な言葉に、ライルは苦笑した。
この女神の予感は、百発百中で当たるのだ。
「お手柔らかに頼むよ、女神様」
こうして、少年と少女と女神の、熱い夏休みは幕を閉じた。
最強の実力を引っ提げ、彼らは再び王都へと帰還する。




