第5話 魔法生物と薬の素材(中編)
診療所に入ると、まだ何人かの患者さんが玄関近くの待合所のソファに座っていた。
――しまった、まだ診察時間だったのか。
すると奥からシルロ先生の声が聞こえてくる。
「風真、お疲れ様じゃの! まだ少しかかるのでな、上で待ってておくれ!」
「わかりました!」
僕は手短に返事をして、ささっと二階へと駆け上がる。
そして、聖明の様子を見るために病室のドアをそっと開け、中へ入った。
部屋の中は静かで、ぱっと見た限り、聖明は眠っているようだった。
僕は部屋にあるソファに荷物を置いて、そっと彼のそばへと歩み寄る。
よく見ると、点滴が二種類も繋がれていたが、珍しく魘されることもなく、穏やかに眠っている。
――よかった。
心から、そう思った。
僕がいつも見てきた聖明は、眠っている間によく魘され、時には涙を流しながら、誰かに謝り続けていた。
……きっと、それは妹の瑠璃のことだ。
僕の魂の片割れであり、聖明が心から愛し、大切にしていた妹。
今では悪魔になってしまい、彼を苦しめようとしている。
「……聖明、きっと二人で、助けようね」
聖明は、瑠璃の魂を助けるために、そして僕の命を守るために、必死に戦っている。
あの人にとって、この旅はきっと、辛い決断の連続だ。
出会った頃にはすでにボロボロだったのに……今も、無理をしてでも立ち上がって、僕や瑠璃のために歩き続けている。
僕は、そんな彼に、なにか報いることができるのだろうか。
せめて、今だけは――
「……風真?」
聖明の声にはっとする。
「あ……ごめん、起こしちゃった?」
「いや、大丈夫だよ。ずっと寝てたから……むしろ、久しぶりによく眠れた気がする」
彼はそう言ってゆっくりと上半身を起こし、こちらに向き直った。
僕も、近くにあった丸椅子に腰を下ろし、彼と向き合う。
「聖明、今日ね、一人で魔法生物の素材をたくさん採ってきたんだ!
教えてもらった通りにやったら、うまくいったんだよ!
それに……転移魔法も、一人で成功させられたんだ!」
……そのとき、聖明がふわりと目元を緩めて、優しく笑った。
とても穏やかで、本当に嬉しそうな笑顔だった。
「すごいな、風真は。あっという間に成長しちゃうね」
そう言いながら、彼は僕の頭を優しく撫でてくれた。
恥ずかしいけれど、その手が心地よくて、思わず目を閉じる。
「うん! 聖明の教え方が上手だったからだよ!」
そのとき、不意に額に柔らかな感触を感じた。
驚いて目を開けると、聖明が、僕のおでこにキスをしていた。
「へっ!?」
「ありがとうね」
想定外の出来事に、顔が一気に熱くなるのを感じる。
「えっ!? なんで!? え、キスって!?」
「ん?」
聖明は、いつも通りの穏やかな笑顔で首を傾げる。
「いや、おでこにキスって、普通じゃないよ!?」
「んー? 家族なら、普通でしょ?」
僕は固まった。
……え? 家族? 僕が?
「風真。私はね、君のことを家族だと思ってる。大切な弟のように感じてるよ」
「……弟……」
「うん、それでいて、大切な友人でもある」
そう言って、聖明は僕をそっと抱き寄せた。
心地よい温もりが、胸に染みる。
……ずるいよ。
僕は悪魔に作られた人工天使で、魂だって瑠璃の半分からできていて。
“家族”なんて、一生持てないものだと思っていたのに。
なのに、聖明は、こうも簡単に、僕にそれを与えてくれる。
僕にとって聖明は、命の恩人で、優しくて、でもどこか頼りなくて、それでいてすごく強くて……
いつだって、僕を助けてくれる存在だった。
……もし、家族ってものが本当にいるのなら、きっとこういう人なんだろう。
兄や父みたいな、誰よりも信じられる存在。
「……聖明、僕、人工天使だよ……?」
「そんなこと、関係ないよ」
「……瑠璃の魂を持ってるんだよ……?」
「風真は、風真だ」
「……聖明、本当に、僕が家族でいいの……?」
「ずっと、家族だと思ってたよ」
……ダメだ。涙が溢れて止まらない。
僕は聖明を抱きしめ返し、声を上げて泣いてしまった。
ずっと、どこかで不安だった。
僕は、ただの紛い物の命。
もし、聖明が瑠璃を選べば、僕はすぐに消されてもおかしくない存在なんじゃないかって。
そんなこと、ないって思いたくても、どこかで恐れていた。
だけど、今。
聖明はちゃんと、僕のことを一人の人間として、友人として、家族として、見てくれていた。
その事実が、こんなにも嬉しいなんて――思いもしなかった。
僕が泣き続ける間、聖明はただ優しく僕の背を撫でてくれていた。
言葉もなく、静かに、そっと、抱きしめてくれていた。
ーーー
僕が泣き終える頃、病室のドア越しにノック音が響いた。
「そろそろ、ええかのう」
その言葉の調子からして、僕が泣いていたことに気づいて、配慮してくれていたのだろう。
僕はそっと聖明から身を離し、彼の顔を覗き込んだ。
「風真、大丈夫?」
「う、うん……」
聖明のパジャマを見ると、左肩のあたりがぐっしょり濡れていた。
僕が思いっきり泣いたせいだ。
……正直、恥ずかしいし、少し気まずい。
「シルロ先生、大丈夫ですよ」
聖明がそう声をかけると、ドアがガチャリと開く。
「ふぉっふぉっふぉっ、若いってええのう」
そんなことを言いながら、シルロ先生は杖をついてゆっくりと中に入ってくる。
「さてさて、聖明先生。顔色もずいぶん良くなったようじゃな。眠れたみたいで何よりじゃ」
「……おかげさまで」
「爺さん、全部じゃないけど、素材採ってきたよ。ソファーに全部置いてある」
僕がそう言ってソファーを指さすと、先生はのそのそと移動し、鞄を開けて素材をチェックし始めた。
「これはまた、たくさんいいものを集めてきたのう! これなら薬も色々作れそうじゃ」
「やった!」
思わず嬉しくてガッツポーズを取る。
「残りの素材は、明日以降でもいい?」 「ああ、問題ないぞ」 「よし!」
次はアース・ドラゴンとトレントを狙っていくぞ!
今の僕なら、きっとやれる。……なんでもできる気がする!
「すぐに薬を調合したいところじゃが、まずは夕食にしようかのう」
そう言うと、ドアからリリーが入ってきた。
手にはトレーを持ち、その上には見慣れない取っ手付きの陶器の器が乗っている。
「聖明先生。おぬし、西洋料理があまり得意ではなかろう」 「あ……」
聖明は驚いたような顔で固まる。
「その髪色、東洋人の血が入っておるじゃろう?
東洋人からすると、西洋料理は味が濃いからのう。弱った胃にはきついかもしれん。
そこで、“お粥”を用意してみたのじゃ」
「教えてもらって、私が作ってみました。
東洋料理とは盲点でした……少しでも召し上がれたらと思います」
リリーがトレーをソファ前のテーブルに置き、蓋を開ける。
すると、湯気の立つ、ふわふわとしたスープのようなお米料理が現れた。
「あっ、これ……僕が、聖明に初めて作ってもらった料理だ!」
あのとき――僕が聖明の家の近くで倒れていたとき、助けてもらって、作ってくれた食事。
とても優しい味がしたのを、今でもよく覚えている。
「……まさか、土鍋があるとは……」
聖明は思わずクスッと笑った。
「この街は大きいからのう。東洋の鍋や調味料、食材を売っておる店もあるぞ。
あとで場所を書いた紙を渡しておくかの。……まあ、とりあえず食べてみるといい」
リリーが器にお粥をよそい、木のスプーンと一緒に聖明へ手渡す。
彼は少し嬉しそうな顔でそれを受け取り、そっと息を吹きかけながら口に運ぶ。
「……美味しい」
安心したような表情で、聖明は続けてもう一口を食べた。
その様子に、リリーと僕は思わず目を合わせて微笑んだ。
「さて、風真には別のご飯を用意しておいたぞ。わしと一緒に食べようかの」
「あ、ありがとう!」
僕はシルロ先生のあとについて3階の居住スペースへと向かった。
後ろでは、リリーと話しながらお粥を食べる聖明の笑顔があって……
その姿が、なんだかとても嬉しくて、胸が温かくなった。
ーーー
「よし、今日も頑張るぞ!」
そう生き込んでいる僕は再び精霊の森を訪れていた。
ここに来る前、一応、診療所にも顔を出してきた。
朝早めだったせいか、聖明は寝たままだった。
シルロ先生は早起きで朝から3階の丸窓の前で体操をしていた。
外から丸見えだったので少し笑ってしまった。
「さて……アース・ドラゴンとトレントかあ……。
アース・ドラゴンは開けた所じゃないといないだろうな。大きいし、普段は甲羅だけ出して他は地中に埋まっていることが多い……トレントは木に紛れてるからな……」
僕は先にトレントを探すために木々が多そうな場所へと足を踏み入れる。
トレントは普通の木と見分けがつきにくい。
あいつらは普通の木に擬態し、近づいた生き物を根っこで絡め取り、対象の魔力を捕食する。
過去に一度だけうっかり聖明が捕食されかけたことがあった。
あの時は流石に聖明も驚いて変な声上げてたっけ……直ぐに僕が根っこを切って助けたけど「お嫁にいけなくなる」とか意味の分からないこと言いながら半泣きしてたのを覚えてる。
「あ、魔力か!」
今の出来事を思い出し、ピンと来る。
トレントは魔力に惹かれる。
ならわざと魔力を解放して、この様子を見てみればいい。
僕は地面に手を付いて、意識を集中させる。
そして、徐々に地中に魔力を流し込んでみる。
少しずつ範囲を広げて流し続けると奥の方で変にゆらゆら動く木を発見。
ーーあれだ!
僕は身体強化をし、一気に近くまで飛び込む。
すると魔力に反応したのか、トレントは地中から根を出し、触手のように動き僕を捕らえようと伸びてくる。
僕は手足に風魔法を纏わせ、触れようとする根を次々と切り落としていく。
切り落とした根はボトッと落ち、動きを止める。
トレントは何本か切られるとのそのそと逃げるように移動を開始する。
無駄に殺す必要はない。
僕の目的は根っこだけだ。
僕は地面に落ちた根っこを全て回収し、持ってきた紐で括りカバンに入れる。
「よし!大漁大漁!
確か……トレントの根っこって疲労や倦怠感に効く薬が作れるとか言ってた気がする。」
風邪の引き始めや治りかけ良いって言いながら調合してたな……。
次、調合する時はもう一度教えてもらおう。
「さて、次は本命、アース・ドラゴン!
広いところを探してみるか!」
僕は軽快な足取りで森を駆けていった。
ーーー
目が覚めたとき、玄関のほうから風真の「いってきます!」という元気な声が聞こえてきた。
私はぐっすり眠っていたようで、昨夜は夢も見ずに熟睡できたらしい。
「トイレ……」
点滴スタンドを手に、私はのそのそと病室を出てトイレに向かう。
用を済ませて出てくると、ちょうどシルロ先生が現れた。
「ホッホッ、よく眠れたかの?」
「あっ、おはようございます、シルロ先生。ええ、よく眠れました」
「うんうん、昨日よりも顔色がずいぶん良くなっておるな。
体力も少しは戻ってきたようじゃ。様子を見るに、風呂にも入って問題なさそうじゃの。
患者用の浴室があるから、さっぱりしてくるといい。終わったら食事じゃな」
先生は病室の向かいにある扉のほうを目で示す。
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて入ってきますね」 「うぬ!」
私は病室へ戻ると、点滴を外して替えのパジャマと下着、タオルを準備する。
その間に、猫の姿をしたリリーが現れて、私の膝にちょこんと乗った。
「主、お風呂の間に食事の準備を手伝ってまいります」
「あっ、リリー、おはよう。……うん、お願いね」
「承知」
そう言って、リリーは肩からひらりと飛び降り、人の姿になって部屋を出ていく。
私も荷物を持って浴室へと向かう。
服を脱ぎ浴室に入ると、木で作られた浴槽にお湯が張られていた。
木の香りが心地よく、自然と気持ちが和らぐ。
まずは身体を洗おうと鏡の前に立つと、久々に見る自分の顔に気づく。
確かに、以前よりも血色が良くなっていた。
湯船に浸かる前から、頬がほんのりと赤らんでいる。
肌も少し艶が出ている気がする。
「うわー……食事と睡眠って大事だったんだな……」
自分でも医者としてどうかと思うようなことを口にして、思わず肩を竦めて苦笑する。
私は早めに頭から爪先まで綺麗に洗い流し、湯船にゆっくりと浸かった。
――正直、こんなにもゆっくりと休み、人間らしい生活をするのは、久しぶりな気がする。
瑠璃が死んで、悪魔になって、みんなから逃げて……
あの頃は、ただ死ぬためだけに日々を過ごしていた。
お風呂には毎日入っていたけれど、それ以外はまるで人間らしい生活なんてしていなかった。
食事も睡眠も取らず、ただ己を殺す方法ばかりを考えて、実行し続けていた。
風真に出会ってからは、少しずつご飯を食べるようになり、眠る努力もするようになった。
でも――
食べれば吐いてしまい、眠れば悪夢を見る。
起きて、風真と一緒にいる時間だけが、唯一の癒やしだった。
「……駄目な大人だな……」
私は湯船から身体を引き上げ、タオルで手早く拭いてパジャマに着替える。
短くなった髪を乾かしながら、ふと口にした。
「やっぱり短いと乾くの早いな」
三年前は、母に似た黒髪を胸下まで伸ばしていた。
けれど――
瑠璃の血が付いて、何度洗っても落ちない気がして、切ってしまった。
もう髪を伸ばす理由もない。そう思っていた。
だけど……
「……"君"が好きだと言った髪がないって知ったら……悲しむのかな……」
独りごちてから浴室を出る。
病室に戻り、使い終えたパジャマなどを片付けていると、リリーが戻ってきた。
「主、朝食をお持ちしました。
今日も東洋料理を学んで作ってまいりました。お口に合うと良いのですが」
リリーはテーブルに丁寧に食事を並べている。
「ありがとう。お世話になってばかりだね」
「いえ、主に仕えることが私の至福です。お気になさらず」
私はソファーに腰を下ろし、食事をいただくことにする。
豆腐入りの味噌汁に、柔らかいご飯、小さな魚の切り身が焼かれている。
「固形物も少しならいけるかと思い、準備いたしました」
「うん、嬉しいよ。いただきます」
私は一口ずつ、よく噛んでゆっくり食べていく。
味噌の懐かしい香りに、ほっと心がほどける。
……こういう味だったな――と、しみじみ思う。
失踪してからは、ろくに食事もしていなかったし、東洋の料理なんて本当に久しぶりだった。
食後、少し胃に痛みを感じたけれど、吐くことなく完食できた。
それだけで、ほんの少し感動する。
薬もきちんと飲み、ふぅと息を吐くと、隣でリリーがお茶を淹れてくれていた。
香ばしい緑茶の香りが立ちのぼる。
「全部、食べられましたね」
「うん……リリーやシルロ先生、風真のおかげだね」
自然と笑みがこぼれると、リリーも優しい表情で微笑んでくれた。
その顔を見て、また少しだけ心があたたかくなる。
「聖明先生、よいかのう」
そう声をかけながら、病室に入ってきたのはシルロ先生だった。
「はい、大丈夫です」
「うぬ、体調が良ければ、昨日話していた薬の調合を一緒にやってみようかと思っての」
「……抑制剤の改良、でしたね。
もし、より良いものが作れるのなら……ぜひお供させていただければ嬉しいです」
「ホッホッ、それは頼もしい。
では、三階に来てくだされ。今日はほかの薬もいろいろ作るつもりじゃ。ついでに手伝ってくれると助かるのう」
「私でよろしければ」
先生が頷き、部屋を出ていく。
私も動きやすい格好のほうが良いと思い、医療用の制服に着替え直す。
着替え終わる頃、リリーがネコの姿になって肩に乗ってくる。
「リリーも来るかい?」
「にゃーん」
私はふわふわの毛を指で撫でながら、三階へと向かうことにした。
ーーー
「おお、あれはアース・ドラゴンっぽいの発見!」
僕は木の上に登り、少し開けた場所を見渡していた。
よく見ると周りと雰囲気が少し違う箇所がある。
魔石があり、草花生えて入るが次の色が違う。
少し宝石のような輝きを見せている土。
大きさや範囲的にもアース・ドラゴンと合致している。
僕は身体強化で軽々と地面まで降りて、近くまで気づかれないように近寄る。
さて、どうしたものか。
鱗を取るためには地面に埋もれた本体を出さなくてはいけない。
その上、確実に敵と見なされ戦闘になるだろう。
聖明ならともかく僕の魔法では甲羅の魔法無効を打ち破るのは難しい。
叩き起こして、どうにか懐に入り鱗を引き千切って逃げるしかないだろう。
しかし、相手はドラゴン。
簡単にはいかないだろう。
僕は気合を入れて魔力を練る。
身体強化、防御力強化、風魔法による見えない鎧に、速度アップ……
「よし!!!」
僕は高く宙に飛び上がり、アース・ドラゴンの近くに拳を振り下ろす。
「おりゃああああ!」
地面が割れ、アース・ドラゴンの顔が見える。
「ガアアアアアアア!」
ドラゴンは突然の攻撃に咆哮あげ、地面から這い出てくる。
そして、鋭い眼光で僕を捉えると口を開ける。
「え!?」
口に魔力が集まり、そのエネルギーが光線となって飛んでくる。
「マジか!!!」
僕は身体強化で素早く避ける。
光線が放たれた先にあった岩や木々は丸を描いて消えており、プスプスと焦げたような煙を放っている。
ーーあれは……一撃でも当たったら大怪我だ。
僕は態勢を立て直し、大きく深呼吸をする。
相手は動くは遅い。
首の向きだけ気を付けて一気に懐に入る!そうしよう!
僕は勢いよくドラゴンに駆け寄る。
すると先程の光線が次から次へと飛んでくる。
思ったより連射速度が早い。
僕は全身を使いながら避けつつ、どんどん近寄っていく。
たまに髪や服にチリっと光線が当たり冷や汗が出る。
しかし、ここで狼狽えたら、それこそ死ぬかもしれない。
僕は自身の前に風の防御壁をいくつも展開しつつ、更に進んでいく。
ドラゴンが光線を蓄え始めたタイミングで、短い足の下にスルリと入り込み足を掴む。
「ごめん!」
僕は持っていたナイフで大きな鱗を1枚剥いで、急いでドラゴンから距離を取る。
するとドラゴンは大きな雄叫びを上げ、ドスンと音を立てながらその場に倒れ込む。
「やったか!?」
手には鱗があり、透明感ある赤色が宝石のようにキラッと輝いている。
「ガアアアアアアアッ!」
「!?」
アース・ドラゴンは更に大きな声を上げると、甲羅に上に乗っていた魔石や花草が弾け飛び、甲羅が激しく光る。
「え、何!?」
光が収まると、自身から力が抜け、かけていた魔法が全て解かれていることに気づく。
「げ、マジか!」
アース・ドラゴンギロッとした目が僕の方を向く。
慌てて身体強化を掛け直そうとするが、魔法を阻害されているのか上手くいかない。
ーーあ、これ、全力で逃げたほうがいいやつだ。
再び光線が飛んでくる。
僕は必死になって光線を避けながら走り逃げる。
「うわああああっ!ごめんってばあああ!!!」
逃げ惑ってる中、楽しそうな声が聞こえる。
『この前の人間だ!』『楽しそうな遊びしてる!』
『またお菓子持ってないかな?』『今日はキャンディーがいいわね!』
ピクシーがそばにいる。
一か八か、僕は交渉を持ちかける。
「君たち、キャンディーあげるから、僕を安全な場所に連れてって!」
するとピクシー達は笑い出す。
『やった!』『キャンディー大好き!』『この人間を違う場所に持っていけばいいんだね!』『適用に飛ばしちゃおう!』
すると急に足が宙に浮き、勢いよく空に吹っ飛ぶ。
「はあ!?」
『キャンディーありがと!』『またね!』『次はスコーンがいいわ!』『チョコもいいなあ』
そんな声が聞こえなくなると同時に自然落下を始める。
まさかに空中で手放されたらしい。
「ちょ、それは、死ぬってええええ!」
僕はどうにか魔力を練り直し、地面に激突する寸前で風魔法で不時着する。
ゴロゴロと転がり最後には大きな岩にぶつかり止まる。
「いったああああ!!」
手に持っていた鱗はどうにか無事。
しかし、全身を強く打ってしまい、うまく身体が動かせない。
「しくったなあ……」
とりあえず、カバンに鱗を入れカバンにあったはずのキャンディーを確認すると中身はカラ。
しっかり持っていたようだ。
ピクシーと交渉する時はもう少し気をつけようと心底思った。
暫く休んでから立とうとするが、どうやら右足を捻っているらしく、足を着くと激痛が走る。
「うっ!ここから帰るのは……大変だな……」
空に打ち上げられたのもあり現在地が分からない。
転移魔法を使いたくても魔力残量が怪しい。
適当な木の棒を見つける、持っていた紐を使い足を固定する。
何もしないよりマシだ。
もう少し治癒魔法が使えればよかったんだけど、現在練習中でまだ使いこなせない。
僕はおぼつかない足取りで、周囲に風魔法による探知魔法を張り巡らせ歩くことにした。
「日没までに帰れるといいなあ……」
僕はトボトボと重い足取りで再び精霊の森を進み始めた。
ピクシーはきっと可愛い!




