第1.5話 聖明と僕
第一話の後日談的なお話
瑠璃の件から一夜明け、僕と聖明は庭で向き合う形で立っていた。
「今から何をするの?」
「風真の身体を安定させる。今のままではいつ消えてもおかしくない。」
僕は悪魔に生み出された人工天使だ。
聖明の妹・瑠璃の魂の半分を内蔵している。
「魂が半分の状態で動いていることが奇跡なんだ。ましてや人格まで形成しているのは未知の領域。」
「私は――君に消えてほしくない。」
そんな気はしていた。
瑠璃が言っていた「魂半分で動けると思っているの」と――
「だから、私の魔力で補い、術式を埋め込む。」
聖明は聞いたことない言語で何かを唱え始める。
すると僕と聖明の足元に魔法陣が現れ、温かみのある光の粒子が身体を包む。
僕は心地よさに目を瞑る。
身体に聖明の想いが入ってくる。
彼の必死な想い。
生きていてほしい、救いたい、大切にしたい。
強くて、温かくて、熱を帯びた気持ちが伝わってくる。
「は…ッ!」
聖明の苦しそうな声に瞼を開く。
魔法陣は消え、聖明が地面に膝をついている。
「聖明!?」
「問題ない…魔力が切れただけだ…。」
そう言うとフラフラしながらも立ち上がる。
「…これで一時凌ぎにはなるはずだ。
君の中に入れた魔力と術式は古代魔法に該当する。」
「古代魔法…?」
「人形に術者の魔力と想いを入れ、新たな疑似生命を生み出す禁術だ。応用で君の生命維持に使っている。
気分が悪いかもしれないが、今の君は半分天使で半分は私の人形になった、という感じだ。
本来の人形とは違って元々人格があるから、私が君の意識に介入したり、操ることはない。
私が生きている限り、半自動的に魔力を共有し提供し続ける形になる。」
とんでもない話に僕はどこから飲み込めばいいかわからなかった。
とりあえず言えることは…
「聖明…気持ちが、その、少し熱烈過ぎて恥ずかしかった。」
僕に入り込んだ想いが、凄い強過ぎて、恥ずかしく感じるぐらいだった。
それを聞いた聖明は吹き出すように笑う。
「な、なんだよ!」
「いや、てっきり人形にしたことを怒られると思ってたから…。」
「怒るわけないよ。僕のためにしてくれたことだし。」
想いには少し驚いたけど、そもそも人工天使だ。
半分人形という存在になったところで大して変わりないだろう。
「そうか。...今の私にしてあげれるのはこれぐらいだけど、いつか、きっと、助けるから、それまでは一緒にいてほしい。」
彼は苦笑しながら手を差し出す。
「違うだろ、お互いに助け合うんだ!僕も聖明を助けたいんだからな!」
僕は聖明の手を掴み握手をする。
すると彼は優しい顔で微笑む。
「さて、次は風真のことについてわかったことを話そう。」
「うん!受け止める覚悟ができてるの!」
昨日は聖明に言われ、身体検査や様々な質問されたりと色々調べられた。
それで何かがわかったんだろう。
「まず風真の知識についてだ。
恐らく君の一般常識や学力は瑠璃の知識を継承しているようだ。彼女生前の知識を保有していると思っていい。
要は年相応の知識を持っていた。」
「あ、なるほど。」
言われてみれば知識がなければ言語も話せなかっただろう。
それを思うと納得ができる。
「ただ…。」
「ん?」
彼が表情を曇らせ、言葉を一旦止めると思い立ったかのように再び口を開く。
「瑠璃は魔力は多いが魔法が苦手だった。
そのせいで魔法学が疎かだ。風真の知識もそれに準じてしまってる…っ!」
「うわ…。」
更に納得してしまった。
知識があると言われたけど魔法については本当に分からない。
感覚的なものは感じるけど、具体的に何をどうするとか、魔法の使い方がどうとか、分からない。
「この世界において魔法は生活の一部で必須科目だ。
身を守るためにも使えるようにしておかないと困る。」
「うん、そんな気がしてた…。」
聖明は割と深刻そうな顔をして頭を抱えている。
なんとなく瑠璃の時にも苦労していたんだろうな、と思う。
「ということで、私が魔法を教える。これから風真がひとりでも身を守れるよう指導していきたい。良いだろうか?」
「うん!僕に魔法を教えて!」
助け合うと言ったら手前、弱いままではダメだ。
少しでも聖明に頼りにしてもらえるようになりたい。
「よし、最初は魔法の基礎基本から学んでいこう。
それがわからないと魔法を使うのも危ないからね。」
――この日から僕は聖明と魔法を学ぶ日々が始まる。
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魔法には光・火・風・水・土の五代要素があり、天使が標準で備えている属性であることを知った。
その中でも適正属性があり、適正外の属性の行使は難しいこと。
日常生活レベルであれば五代要素は誰でも使えること。
闇属性のみ悪魔・魔人・魔物・魔族などが使役する属性であること。
堕天使は闇を含める全属性使用可能なこと。
因みに僕の適正属性は風・水・光。
特に風との相性がいいようだ。
「基本的に魔法は詠唱を必要とする。
詠唱することにより魔力の具現化、イメージの固定、現実への干渉が行われる。
例えば、水を手に出したい時
――大気に宿る水よ、現れろ。」
聖明の手に丸い球体の水が現れる。
「魔力を練り上げ、大気にある水を集めるイメージを作り上げ、現実で形にする。
魔法都市の学校では教えやすいよう、みんな同じ詠唱を教えているけど、ぶっちゃけ詠唱の内容はなんでもいい。
肝心なのは魔力を形作るイメージが大事だ。
大規模な魔法になればなるほど魔力を練り上げ、イメージ固定するのが難しい。
だから高度な魔法になると詠唱は必須になる。」
納得しながらも少し疑問を覚える。
「聖明、あんたって基本的に無詠唱じゃない?」
そう、彼が詠唱をしているところをあまり見たことがない。
日常生活においても無言で火を起こし、水を出し、風を操る。
「ああ、慣れてくると大概は魔法の詠唱もいらなくなる。
特に日常生活レベルであれば詠唱するほうが珍しいぐらいだ。
ま、実践交えたほうが感覚的にも分かりやすい。」
聖明はそう言うと僕の後ろに立ち、肩に手を置く。
「念の為、初歩から始めよう。私が補助をする。目を瞑って。」
僕は言われるがまま目を瞑る。
「魔力に意識を集中させて」
聖明の手から温かな感覚を感じる。
これが多分、魔力だ。
同じ温かさを体内に感じ、意識を集中させる。
「うん、上手いね。
そのままイメージをするんだ。大気に含まれる水を集めるイメージ。手を上げて、そこに魔力と一緒に集めるんだ。」
僕は両手を前に出し、イメージする。
魔力を手に集め、大気に漂っている水の粒子を集めるイメージ。
「イメージ魔力をそのままで、今から言う詠唱続けて。
――大気に宿る水よ、現れろ。」
「大気に宿る水よ、現れろ。」
手の先が少し熱い。
「目を開けて。」
僕は目を開くと手にはイメージした通り水の球体が漂っていた。
これが魔法。
「うん、安定してて良いね。上出来だ。」
僕は嬉しくなり軽く振り返り、聖明の顔を見る。
「聖明、ありが…」
お礼を言いかけ僕は止まってしまう。
改めて近くで彼の顔を見たけど、瞳が綺麗すぎて思わず魅入ってしまう。
「ん?どうしたの?」
「な、なんでもない!」
あまり近くで顔を見るのはやめよう。
何か心臓に悪い。
「風真はセンスが良いね。
……瑠璃と一緒だったらどうしようかと思った…。」
一瞬で目から光が消える。
どれだけ下手だったんだろう…。
「コントロールも良さそうだし、魔力を練る速度も問題ない。
あとは色んな魔法を学んで練習して、モノにしていけば良い。」
聖明は楽しそうに歩きながら手に水を出し、鳥や花の形を作り、宙に浮かべ、動かした後、雨に替え虹を作る。
魔法って綺麗なんだな。
「うん、少しずつ練習して使えるようになるね!」
「そうだね、基礎基本の魔法については瑠璃が持っていた魔導書があるからそれを使って覚えると良い。
分からないことは私が全部見るから、気軽に言ってほしい。」
そう言うと彼は手を上げる。
すると、二階の窓から本がふわっと飛んでくる。
聖明はそれを取るとパラッと本を開き確認した後に僕に手渡す。
「これから始めていこう。」
「ありがとう。」
その本には日常生活で使う魔法から初級の魔法が記載されていた。
とりあえずは、これをマスターするところからだ!
僕はワクワクしていた。
何もなかった僕は名前を貰い、こうやって知識与えてもらっている。
全てが新鮮で、僕にとっては大冒険のように感じて楽しくて仕方ない。
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僕は毎日、庭で魔法の練習をした。
少しでも早く、少しでも強くなるために。
聖明はその間、何やら忙しそうに家の中で書類を見たり、誰かと通話をするようになった。
いつも優しい彼だが、通話をした後は眉間に皺が寄り、時として話している相手と喧嘩しているような声を上げている。
僕は少し気になってそばで見守ってくれていた聖明の使い魔であるリリーに声を掛ける。
「リリー、聖明って最近、何やってるの?
何か仕事?してるのかな。」
そもそも仕事してるのか不安だ。
出会った当初は自殺願望者で、他者と関わっている気配などなかった。
そもそも医者のはず。ずっと家にいることが変だと思う。
「…風真様、主は、三年間、失踪していたんです。」
「はい!?失踪!?」
驚きのあまりに声が裏返ってしまう。
「主は心に傷を負い、死に場所を求めておりました。
誰にも邪魔されないよう、家を精霊界の狭間であるここに移動してまで人知れず死のうとしていました。」
出会ったばかりの頃を思い出し胸がズキッと痛む。
「そのため、誰にも見つからず、失踪していたのです。
ですが、あなたが現れた。主ひとりであれば他者と関わることなく生きることは容易です。
――しかし、風真様は違う。
不死でもなければ、今の状態を打開する術を探さなくてはいけません。そのためには外に出るしかありません。
主は...過去に向き合うためにも、昔の友人を頼って復帰をしようとしているようです。」
僕は書類を読みながら頭を抱えている聖明を見る。
聖明は僕のために、辛い過去と向き合うために頑張っているんだ。
「よし、僕も頑張らないと!ねえ、リリー、練習相手になってくれる?」
「喜んで。」
リリーはそう言うと闇を纏いながら大きくなり人の姿へと変わる。
紫紺の瞳に聖明と同じ黒い髪。
闇を彷彿とさせる服を身に纏い姿を現す。
人型のリリーは聖明とどこか似た雰囲気で優しく微笑む。
「では、よろしくお願い致します。」
「うん、よろしくね!」
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気づけば太陽は夕日色に染まり、肌寒くなる。
僕とリリーは色んな魔法を練習し家に入ろうとしていた。
「風真様は覚えが早いですね、同学年までの魔法でしたらほぼマスターしておいでです。」
「聖明やリリー教え方が上手いおかげだよ。」
そう言いながらリビングに足を踏み入れると――
聖明が倒れている。
「は!?聖明!?」
僕は驚き聖明に駆け寄る。
そんな僕を他所にリリー小さくため息を吐く。
「またですか。」
「へ!?また!?」
「主は不死をいいことに、生活能力が皆無なんです。
不死なだけで疲労は溜まるというのに...改善してほしいものです。」
さらっと言い抜けるリリー。
僕は普段の聖明を思い返しながら口を開く。
「聖明て、いつも早起きだよね?僕より早く起きてるし。」
「それは寝てないだけですね。」
更に記憶を辿る。
「料理は三食しっかり作ってくれるよ…?」
「風真様の分を作って主は食べてないですね。精々コーヒーを飲む程度です。」
更に日常を思い出してみる。
「お風呂はしっかり入ってるじゃん!?」
「そこは何故かしっかりしてるんです。清潔感と衛生面は譲れないそうです。」
僕は頭を抱える。
この人、しっかりしてそうで、もしかして色々ダメなんじゃ…。
「このまま放置もいけませんね。主、起きてください。」
リリーは聖明をを突いてみるが、反応がない。
「仕方ありませんね、寝室に持っていきましょう。」
「持って…!?」
リリーが聖明を軽々と担ぎ上げる。
細身の身体でなんたる力。
「…風真様、これは魔法です。」
「え?魔法なの?」
「身体強化魔法です。でなければこんなに大きな主を持ち上げるのは無理です。」
それはそうだよな…聖明って結構、身長が高い。
僕が162cmとか言ってたから差を考えると180cmはありそうな人だ。
慎重が高い分、細身とは言え、それなりに重いだろう。
「リリー、今度、僕にもそれ教えて。何か...同じ用途で使いそうな気がする。」
「承知しました。」
リリーは聖明を担ぎながら歩き始める。
僕落ちていた眼鏡を拾い、一緒についていく。
リリーが聖明をベッドに寝かそうとしていたので、眼鏡を棚に置き、布団を整えたりして手伝う。
聖明は眠っているようで、小さな寝息が聞こえる。
「これも入れておきましょう。」
そう言うとリリーは聖明の宝物であるテディベアを彼の横に忍ばせる。
「主はこの子がいるほうがよく眠れます。」
リリーの横顔がとても優しく、聖明を見る目は愛おしいそうだった。
きっと大好きなんだろうな。
「さて、主が寝てしまったので今日は私が夕食を作ります。
風真様は主が起きても寝かしつけてください。こういう時ぐらいしか寝てくださいませんから。」
「あ、うん、わかった。」
リリー微笑むと廊下に消えていく。
僕はベッド横の椅子に座り、何となく聖明を見る。
普段は凄い大人の人って感じしてたけど、こうやって見ると案外、顔が幼く見える。
眼鏡で印象が違うぐらいだからかもしれない。
「なさい…。」
聖明がなにか言っている。
「聖明?」
「ごめ、なさ…ごめん…。」
何やら一生懸命謝り、目からは涙が溢れ出し始めている。
きっと過去のこと思い出してるんだろう。
僕は指で涙を拭ってやる。
普段、何もないような顔で僕に微笑んでくれているけど、きっと過去の傷は何一つ癒えていない。
まだ出会って少ししか経ってないけど、僕は優しい聖明が好きだ。
少しでも元気になってほしいと思う。
「僕も頑張るからね、聖明。」
太陽が沈み辺りが暗くなる。
今だけでも幸せな夢を見てほしい。
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「くそ...私が悪かったのは認めるが、この仕事量は…。」
朝起きると眉間に皺を寄せながら、書類の山を睨んでいる聖明が、リビングで唸っている。
「聖明、おはよう。」
「…風真、おはよう。」
僕に気づくといつものように優しく微笑む。
「どうしたの?難しい顔して。」
僕は聖明の横に座る。
書類に難しそうなことがいっぱい書いてある。
「…実は私、三年間失踪しててね…。」
「あ、リリーから聞いた。」
「…そうか。」
凄く複雑そうな顔をしている聖明。
多分、言い出しにくかったんだろう。
「まあ、無断欠勤してたんだ。仕事を復帰したいと願い出たら許可は出たんだ。」
「凄いね、普通、クビになるよね。」
「はは…そうだね…。」
聖明は遠い目をする。
三年間失踪している男を採用するとかどれだけ寛大なのやら。
「まあ、その復帰の条件っていうのかな?魔法都市に帰る前に幾つか仕事してこいと命じられてね。
それが、まあ、酷いものが多くて…仕方ないと言えば仕方ないのだけど。」
聖明は唸りながら額に手を当てる。
「風真、私の仕事は特殊なんだ。
今から言うことは大事なことだから覚えておいてほしい。」
聖明は改まって話し始める。
「私は闇魔法を使って人を癒す精神科医みたいなものと言ったことがあったと思う。」
「うん。」
「正式には闇魔法医療科、通称カゴノトリという組織に所属している。
この組織は堕天使のみで構成され、闇魔法を使い心の闇や侵食された身体を癒すのが主な業務だ。
ただ、特殊なのが軍事業務も担っている。」
「医者が軍事業務?」
軍医とか、そういうのだろうか?
「今、現在進行形で天使は悪魔の脅威にさらされている。
その脅威から人々を守り争いを無くすのを目標に掲げたのが大天使が率いる組織、エクソシスト。
エクソシストは国の軍であり、それ以外にも多岐に渡り業務は色んな分野に分かれている。
その分かれているうちの一つが私が所属しているカゴノトリでもあるんだ。
カゴノトリは唯一、闇を操り癒せる集団だからね。
悪魔との大きな戦闘があると招集されて軍として動くことになる。」
思ったより物騒な組織に所属している。
僕は少し緊張し始める。
「まあ、他にもあるけど大まかな業務は医療と軍事と思ってほしい。
因みに私は医者としては医大の元・教授。
軍だとカゴノトリ元・指揮官。」
「は?」
サラッと最後、とんでもないこと言ったな、この人。
「いやいや、待って!教授で指揮官って!?凄い偉い人じゃん!」
「元、だよ、元。」
彼は口元を隠し、視線を逸らす。
「今は...彼が代わりをしてくれてる。」
その一言だけは、何故か触れてはいけない気がするほどに重い雰囲気だった。
「ま、ここからが本題で。」
「まだ何かあるの!?」
一気に入ってくる情報量に若干パニックになりそうだ。
「エクソシスト・カゴノトリ共にパートナー制が義務付けられているんだ。
魔法都市に戻るまでの間、私にはパートナーがいない。
そこで風真、君に仮ではあるけどパートナーをお願いしたい。」
聖明は真剣な眼差しで言う。
僕は想像打にしてなかった内容に狼狽える。
「でも、力不足じゃ…。」
そうだ、僕は最近になって魔法を知って使えるようになった程度存在だ。
急にパートナーと言われても荷が重い。
「カゴノトリにおいてのパートナーの最低限の条件は何だと思う?」
「へ?」
「堕天使を戦闘不能もしくは封印することができること条件だ。」
僕はビクッとする。
堕天使を倒すってこと?
この場合だと…聖明を倒すことが条件…。
「風真も知っての通り、堕天使は時として暴走する。だから、いざという時、堕天使を止めるパートナーが必要となる。
私を封印する方法を教える。
それだけ知っているだけで仮とはいえパートナーとして承諾は出る。」
「ま、待ってよ!封印ってそんな酷いこと...!」
彼は困ったような顔で微笑む。
「風真、君を助けるためにも情報が必要だ。
カゴノトリは国家の組織だ。戻れば情報が入りやすい。
だから、頼む。酷なことを言っているは分かる。」
聖明は本気で僕を助けようとしてくれている。
そのために組織に戻り、自身の過去と向き合おうとしている。
…ここで僕が尻込みしてどうする。
「...わかった。僕がいざっていう時は聖明を止める。
だから、教えて!聖明を倒す方法!」
「……ありがとう。」
聖明は少し傷ついたような顔で微笑んだ。
彼のことだ、僕に無理をさせることを気にしてるんだろう。
…不器用な人だ。
「…とりあえず、朝ごはんにしよう。」
「あ、聖明も食べるんだぞ!また倒れられても困る!」
「はは…。」
今日も何気ない一日が始まる。
でも、確実に前に進んでいる。
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――1週間後
僕は聖明から色んなことを学び、最低限の実力と知識を身に着けた。
この短期間でよくやったと思う。
「せーめー、準備できたよ!」
僕は腰に一冊の魔導書をぶら下げ、玄関から聖明を呼ぶ。
「少し待ってくれ!」
2階から声が聞こえる。
暫くするとトランクケースを片手に聖明が降りてくる。
いつもと違う制服のような黒い服。
「久々に着たから少し手間取ってしまってね。」
恐らく仕事着だ。
彼はにこりと笑うと外に踏み出す。
「じゃあ、行こうか。」
「うん!」
ここからだ。
ここから僕達の冒険が始まる。