第39話 買い出しpart2
「ついたわよ、リツキ」
僕を包んでいた緑色の光がそっと霧散し、僕はゆっくりと目を開けた。
1番はじめに目に入ったのは、わいわいと賑わう商店街。ただし、いつもの商店街ではない。
お祭りかなにかだろうか、蜂蜜色の花がいたるところに飾られている。
「ここって」
「ええ。ハーフェンよ」
僕はアイヴィーさんの答えに軽くうなずき、目をまたたく。
ハーフェン、か。最近ハーフェンとはなぜか縁がある。
師匠と買い出しに来たときに一悶着あったり、ウィクシスでその名前をよく聞いたり。
そして、この前の人攫いの一件。
結局、あの場で実行犯は全員捕まえられたらしいが、正直僕は黒幕は他にいると思っている。
その黒幕がどこにいるのか、何が目的なのか、まだ分かっていない。
・・・ただ、多分、師匠たちは何か隠している。
僕の勘だけど、ウィクシスからの帰り、アサヒさんの様子が少しおかしかった。
何か考え込んでいるというか、いつもより口数も少なかったし、・・・なんというか、アサヒさんの笑顔の光がいつもより2レベルくらい落ちていた。
このタイミングでハーフェンに連れて来られたってことは、やっぱり・・・
「さ、リツキ!買い出し行くわよ!」
僕のもんもんとした考えはアイヴィーさんの声によって打ち切られる。
アイヴィーさんはスッと僕の手を取り、前に引く。
僕は彼女の笑みに誘われるように一歩を踏み出して
「って、なんなんですかここ!?」
「なんなん、って、屋根の上だけど?」
「そんな当たり前みたいに言わないでくれますか!?」
僕は眼下に広がる光景にぎょっとして身をのけぞらせた。
僕が今いるのは緑色の屋根の上、下には商店街を行き交う人々。
これ、今、そのまま歩き続けてたらそのまま落下一直線だった。
「アイヴィーさん、僕のこと殺すつもりですか・・・?」
「あら、リツキならこれくらい平気でしょ?」
「平気じゃないですよ??」
正確に言えば魔法を使えなければ、だが。
不意打ちで魔法を急に行使できるほど器用じゃない。
僕はアイヴィーさんの顔を恨めしげに見つめて、はたと気づいた。
「アイヴィーさん、そういえば、それ。耳どうするんですか?」
「え?ああ、これね」
アイヴィーさんの耳はエルフ特有で、外側にいくにつれ尖っている形をしている。
アイヴィーさんは自信の耳を覆い隠すように触れた。
「これは、幻影魔法をかけるから大丈夫よ」
アイヴィーさんが耳をなでるようにその手を離した。
「・・・へ」
僕はじわりと目を見開く。
その手の下にあった耳は、人間のような丸みのある形になっていた。
アイヴィーさんは、くすくすと艶やかに微笑む。
「ふふ、これなら現役の代表者にでも遭遇しない限りバレることはないわ」
「すごい、ですね・・・」
じっくりと観察しても普通の耳にしか見えない。
これほど精緻な幻影魔法は初めて見た。
僕が思わず魔法に見とれていると、アイヴィーさんにむんずと腕をつかまれた。
「さ!降りるわよ!」
「へ、へあ!?」
アイヴィーさんはなんの躊躇いもなく、屋根の上から大胆に飛び降りる。
腕をつかまれた僕も、そのまま引きずられるように下へ落ちた。
「うあああああ・・・・あ?」
僕は反射でギュッと目をつむるが、いくら待てども予測していた衝撃がこない。
おそるおそる目をあけると、灰色の地面が視界いっぱいに映った。
僕は息をのみ、勢いよく上体を起こす。
そのまま頭上をあおぐと、楽しそうに笑うアイヴィーさんと目が合った。
「・・・これは、一体」
「あら、簡単な話よ?着地するすんぜんに浮遊魔法をかけて衝撃を殺したの」
「なる、ほど・・・?」
そんなに瞬時に魔法って展開できるものなのだろうか?
とにかく、一度その疑問は置いといて、僕はぱんぱんと足のほこりをはたいて落としながら立ち上がる。
そこでふと、違和感を感じた。
周囲をぐるりと見回して、その違和感の正体にすぐに気づく。
誰も、僕たちのことを気にしていないのだ。
急に屋根の上から人が落ちてきたにもかかわらず。
ここは商店街のど真ん中、激しい人の往来がある道だ。
なのに、誰1人として僕たちを気にする人がいない。
「あの、アイヴィーさん。僕たち透明人間にでもなったんですか?」
もはや虚無、という気分でアイヴィーさんに問うと、アイヴィーさんは信じられないようなものを見る目で僕を見てきた。
「そんなわけないでしょう。ただの幻影魔法よ」
へえ、ただの幻影魔法。へえ。
この大多数の人間に違和感を抱かせないような幻影魔法ね。へえ。
僕は思考を停止した。
「アイヴィーさん、まずは何を買いに行きますか?」
「そうね。まずは野菜からいきましょう!」
のりのりなアイヴィーさんとすでにげっそりとした僕の買い出しが始まった。




