第8話 代表者会議
ミオンは、その時を待っていた。
最強魔女の執務室にて。
ミオンはシルクとナオと共に、“道”が繋がる瞬間を待つ。
「来た」
一瞬、セレナの魔力が執務室に充満し、急速に凝集して扉を象る。
後ろの2人が、息をのむ音が聞こえた。
「行こうか」
ミオンは、さながら戦場に赴く戦士のような気持ちで扉を押し開ける。
〇〇〇
視界が光で埋め尽くされ、それが晴れると、そこは真っ白な大理石で作られた会議室に出た。
代表者会議の会場は、セレナの幻影魔法で作られる。
会場の仕様はセレナの気分次第なので、毎回様相が違うのだ。前回の代表者会議の会場は、森の中だった。
会議室の中には、この空間を作り出したセレナともうひとり。
「今回は早かったね、ヒイラ」
「ミオン、来たのか」
すでに席に座っていた亜麻色のショートヘアと海色の瞳を持つ騎士服姿の《《女性》》は、チラリと目だけでミオンを振り返った。
ミオンは彼女の隣に座り、後ろにシルクとナオを控えさせる。
人類の代表者・勇者ヒイラ。
ミオンにとっては、最も付き合いの長い代表者の1人である。
ミオンはヒイラが比較的落ちついていることを確認してから、円卓の12時の位置に座るセレナを見た。
「セレナも久しぶり」
「お久しぶりですー」
精霊の代表者・精霊女王セレナ。
相変わらず、表情が変わらず感情が読みにくい。会話をしていても、空気をつかむようなやりにくさを感じた。
これ以上話すこともないので、ミオンはヒイラに視線を戻す。
「ヒイラ、この前も言ったけれど、魔族とは」
「分かっている!だから――――その言葉を口にするな。耳が穢れる」
「分かってるなら、いいけど」
ヒイラの魔族への忌避感は根深い。
この様子じゃあ、今回の代表者会議でもミオンは神経を尖らせ続けなければならないだろう。
はあ、ともれそうになったため息をなんとか飲み込んだとき、新たに2つの扉が開いた。
「おや、すでに3人おそろいでしたか」
「やっほー!みんな元気ーっ?」
1人は、長くまっすぐな髪をおろした生真面目そうな雰囲気の壮年の男性。外側に向かって先端が尖っている耳が特徴的だ。
もう1人は、大きな犬歯をおしげもなくさらし、ボサボサの髪揺らす少年。ネコ科特有の細長い瞳孔を細めた笑みからは、野生動物の獰猛さも子どものような無邪気さも感じられる。
エルフの代表者・エルフの王ヴィルトゥエル。
獣族の代表者・獣王リアン。
ミオンの彼らへの印象は、ヴィルトゥエルは真面目すぎるのがたまに傷な常識人、リアンは自由奔放なムードメーカーといったところ。
ミオンは、この2人が早々に来てくれてほっとしていた。
現代の代表者が集まる場では、この2人がいないとお通夜のような空気になってしまうのだ。
セレナは無表情で我関せずといった感じだし、ヒイラは常に気を張り詰めて親交を深めようという雰囲気ではない。
他の3人はもっとひどい。仲良くしようという心持ちがほとんど感じられないのだ。
そんなことを考えると、これからはじまる代表者会議がより憂鬱になっていく。
その時、扉がひとつ、開いた。
「あ~~~~っ、もお~~~~~~~っ。なんでまだ僕が代表者会議に出てるんだよ~~~~~っ」
その男は、そんな奈落の底まで響き渡るような嘆きとともに現れた。背が老人のように曲がり、目の下にくっきりと隈を浮かべる生気のない彼は、こちらを一瞥もせず席に座った。
悪魔の代表者・悪魔の王オリヘン。
「オリヘン、久しぶりですね」
「オリヘンー!会えて嬉しいぜ!」
「いやだいやだいやだ。次の代表者会議こそ、シャルル様を見つけて連れ戻す。絶対にそうする」
ヴィルトゥエルとリアンが挨拶をしているのに、全くもって会話を交わそうとする意志を感じない。
脇目も振らず、ぶつぶつと口の中で訳の分からないことをつぶやいている。
相変わらずだが、どうにかならないのかとも思う。
ふと、空気が変わった。
ハッとして横を見れば、ヒイラが殺気を放ち始めていた。
表情や姿勢は変わらないのに、全身からほとばしるピリピリとした空気が会議室全体に広がる。
ヒイラの様子の変わりようで、ミオンも、他の代表者たちも、誰が来たのかを察する。
ミオンが後ろに控えるシルクとナオが心配になって視線だけ後ろに向けたとき、扉がひとつ、開いた。
「へえ?みなさまお揃いじゃあ、ねえか」
狼のたてがみのような黒髪と黒曜石のような瞳は、獲物を見るような目で私たちを見回す。
ヒイラの殺気が膨れ上がるのを感じて、ミオンは咄嗟に彼女の腕をつかんだ。
「ヒイラ」
「・・・・・・」
「ヒイラ」
「・・・・・・ふぅ」
私が腕をつかむ力を強めると、ヒイラは1度ちらりとミオンを見るとほんのり殺気を収めてくれた。
魔族の代表者・魔王ヴァイス。
ヴァイスはきょろきょろとさまよわせていた視線をミオンとヒイラに固定すると、ニィと野獣のような笑みを浮かべた。
ぞわりとした悪寒が、ミオンを襲う。
だが、そんなことはおくびにも出さずに、目をそらさないように努めた。
ヴァイスの席は、ヒイラの真向かい。
まっすぐそちらに行けば良いのに、ヴァイスはわざわざミオンとヒイラの方向へ足を向けた。
「よお。ミオン、ヒイラ」
「久しぶりね、ヴァイス」
「・・・・・・」
「おいおい、ヒイラは無視かよ?」
ヴァイスはヒイラの神経を逆なでするような笑みをわざと見せ、顔をのぞきこむ。
ヒイラは表情を一切変えず、目に敵意と殺意をありありと宿してヴァイスを見返した。
「その薄汚い口で、私の名前を呼ぶな。害虫ごときが」
「・・・・・・ふぅん?」
ヴァイスはヒイラの言葉に、より一層、笑みを深める。
2人の間に、ばちり、と火華が散ったように見えた。
まずい、止めるか。
ミオンが口を出しかけた、その時
「はいー。そこまでですー」
今まで黙っていた精霊女王セレナが、立ち上がってぱちりと手を叩いた。
「ヴァイスくん、席に戻ってくださいー」
「・・・・・・チッ」
さすがのヴァイスも精霊女王相手には下手を打てないのか、素直に下がる。
ヒイラもそれ以上深追いはせず、ミオンは密かに胸をなでおろした。
「では、始めましょう、と言いたいところですがー。まだ、1人来ていませんねー?」
セレナがちょうどその存在を話題に出したとき、最後の扉が開く。
扉の先からはずんずんと足音を響かせる巨体が、姿を見せた。
ドラゴンの代表者・竜王ナダ。
ナダは一言も口にすることなく、無言で最後の席に座った。
誰も彼に声をかけることはなく、ただただ彼が席に座るまでを見守る時間が流れた。
「それでは、そろったようですねー」
円卓につけられた席が全て埋まったのを確認し、セレナは宣言する。
「代表者会議を始めましょうー」




