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こちら“元“最強御一行さまです!  作者: 茉莉花菫
第2章
124/124

第9話 瘴薬

 ミオンは、静かに代表者の面々を見回す。

 代表者たちの真ん中には円卓があり、12時の方向に座るセレナから、次の順番で時計回りに座っていた。


 精霊の代表者・精霊女王セレナ

 エルフの代表者・エルフの王ヴィルトゥエル

 魔族の代表者・魔王ヴァイス

 獣族の代表者・獣王リアン

 ドラゴンの王・竜王ナダ

 人類の代表者・勇者ヒイラ

 魔法使いの代表者・最強魔女ミオン

 悪魔の代表者・悪魔の王オリヘン


 現代の代表者が一堂に会するこの会場は、一般人が下手に触れることができない異様な空気で満ちていた。

 そんな中、ミオンの懸念は自身の後ろに控えている2人にあった。

 ミオンにとって、この空間は日常のひとつであり、なんでもないことではあるが、シルクとナオは違う。

 この2人を代表者会議に連れてきたのは初めてで、特にナオに関しては他の代表者に会うことすら初めてのことだ。

 シルクは何度かヒイラと顔を合わせている。

 まあそれでも、ヒイラは同じ人間であるので、今シルクも大丈夫かと言われたらそうではないが。

 特に・・・・・・と視線を終始ニヤニヤとした笑みを崩さないヴァイスをちらりと見る。

 魔族であるヴァイスは、ミオンにとって第1に警戒すべき存在だ。

 どんな出方をするかも分からないし、下手にヒイラを刺激されても困る。

 ミオンは、人類と魔族の衝突をできるかぎり避けたい。

 他にも特殊なのはナダとオリヘンだ。

 ナダは基本一言もしゃべらず、ただ威圧感だけを放っている。オリヘンは、比較的話ができるとはいえ、常にぶつぶつ呟いている変人だ。精霊と肩を並べる悪魔でもあり、正直1番得体がしれない。

 シルクとナオを守るのは、ミオンしかいないのだ。


 〇〇〇


 ナオは、この空間に漂う言いようのない空気の重さに、じっとりとした汗をかいていた。

 今回の代表者会議では、おそらくナオの証言が必要になるだろうとのことでミオンに連れられたが、ナオは早くも気持ちが折れてしまいそうだった。

 ミオン曰く、代表者会議に2人までなら従者を伴っても良いことになっているらしい。

 実際に、ヴィルトゥエルやリアン、ヴァイスは従者を2人ずつ連れていた。

 ナオやシルクと同じように主人の後ろに控え、じっと直立不動を保っている。

 彼らは、ナオと同じような気持ちでいるのか、直接聞いてみたくもあるが、それは不可能だろう。

 隣のシルクさんはさすがのポーカーフェイスだが、こめかみにつたう汗が、決して余裕などないことを物語っている。

 円卓を囲う代表者から溢れる強者のプレッシャーに押しつぶされそうになりながら、ナオはなんとかその場で立っている状態だった。

 ナオが必死に耐えている間にも、代表者会議は続いていく。


「今日の議題はー、瘴気についてなのですー」


 セレナがそう口にした途端、会議室の空気がピリッと張り詰める。

 ナオは一瞬、呼吸ができなくなったかと思った。


「瘴気とは・・・・・・最近は、収まっていると聞いていましたが」

「瘴気は瘴気でも、瘴気そのものについてではないのですー」

「俺、わっかんねーや!」


 セレナの曖昧な言葉に、ヴィルトゥエルは眉根を寄せる。

 リアンはニカッと笑って後頭部に手をあて、ゆらゆらとイスを揺らした。

 その他の面々は、静かにセレナの次の言葉を待つ。


「最近、妙な薬が見つかったのですー。・・・・・・そうですよねー?ミオンー?」


 代表者の視線が一斉に、ミオンの方に向けられる。

 ミオンはその視線にひるむことなく、淡々と受け止め、無表情にセレナを見た。


「やっぱ、知っていたんだ。いや、知らないはずはないか」

「はいー。精霊は、世界中にいるのですー」

「それに、魔法使いは精霊がいないと魔法を使えないわけだからね。魔法都市ヴィザレットにも特別見えていないだけで、どこにだっているんでしょ」

「その通りですー」


 ミオンは一度ため息をつくと、すっと立ち上がる。

 そして、覚悟を決めたような瞳で話を始めた。


「実は、この前の魔法大会で、変な薬を確認したの」

「変な薬・・・・・・?」

「おいミオン、その話は私も知らないのだが」

「ごめんねヒイラ。隠していたわけではないけど、慎重になるべきことだと思ったから」


 師匠はそこで一呼吸おくと、きっぱりとした声であるひとつの事実を口にする。


「その薬は、人や動物に意図的に瘴気を纏わせる物だった」

「は・・・・・・!?」

「・・・・・・っ」

「!?」


 代表者たちはそれぞれの反応を見せる。

 事前に知っていたセレナは無表情。

 驚愕したように目を見開くのはヴィルトゥエルとヒイラ。

 あまりピンときておらず首をかしげるのはリアン。

 ニイと口角をつり上げたのはヴァイス。

 ナダは相変わらず腕を組んで目を閉じており、オリヘンはぶつぶつと呟き続けていた独り言をピタリと止めた。


 その中で、真っ先に口を開いたのはヒイラだ。


「なんだ、その話は!」

「ヒイラ、だから今から説明を」

「人や動物に、と言っていたな。動物の他に影響があるのは、人類だけなのか!?それとも、他種族も・・・・・・!?」

「ヒイラ、落ち着いて・・・・・・」

「これが落ち着いていられるか!・・・・・・まさかっ」


 ヒイラの瞳が、一直線にヴァイスへ向けられる。

 その視線の意味など、わかりきっている。

 ――――その薬は、魔族がしかけたものなのではないか。


「ヒイラ!!」


 ミオンが特段大きな声を出して、まっすぐにヒイラを見下ろす。

 ヒイラも徐々に冷静さを取り戻したのか、バツの悪そうな顔をした。


「いいから、話を聞いて」

「・・・・・・悪かった」


 ミオンはほっとしたように息を吐き、改めて全員に向き直った。


「まず、この薬の効果範囲だけど・・・・・・不明だよ。今まで薬を使用されたのが、人と動物だけだったから、少なくとも人と動物には効くって分かってるだけだし」

「・・・・・・」

「他にも分かっているのは、漆黒の丸薬であるということと、それをのむと魔獣のように瘴気を纏うということだけ。私たちはこの薬を、瘴薬と呼んでる」


 しん、と沈黙が部屋に落ちる。

 その沈黙を破ったのは、へらへらと笑っているヴァイスだった。


「なるほどなぁ。で?犯人は魔族とでも言いたいのか?」

「そんなことは言ってない。まだ、分からないことだらけだよ」

「いーや、犯人を決めつけてはいなくとも、疑ってはいるねぇ。なにせ、瘴気も魔獣も魔族のくにでしか見られていない。だがなぁ、進化の過程で、瘴気がある土地でも暮らせるようになったのが、魔族っていう種族ってだけなんだよなぁあ?」

「そんなことは分かってる。・・・・・・知ってる」

「ふぅん?ま、ミオンはそうなのかもしれねえなぁ。けど・・・・・・そっちの勇者様は違うみてぇだなぁ」


 ミオンは、ヴァイスの言葉にハッとして横を見る。

 ヒイラは、憎悪がありありとにじむ瞳でヴァイスを睨めつけていた。


「ヒイラ!」

「ちっ」


 ヒイラは舌打ちをし、顔をそむけてしまった。

 ヴァイスはなにがおかしいのか、ケタケタと笑い声を上げる。

 ナオは一連の流れを、冷や汗をしたたらせながら見守っていた。

 全てのやりとりが、緊張感をはらんでいる。

 ひとつ間違えたらぷっつりと途切れてしまいそうな糸を、ミオンが綱渡りしているのだと、ナオも察していた。

 周りの代表者たちは、ミオン・ヒイラ・ヴァイスの会話に口を挟む気配はない。


「今のところできるのは、瘴薬のことを全員把握して、充分気を付けてと忠告することだけ。今後も、調査は続けていくつもり」

「よく、分かりましたー。ミオン、報告ありがとうございますー」


 セレナに声をかけられ、ミオンは腰を下ろそうとする。

 が、その動きは途中で止められてしまった。


「ですがー、ミオン、まだ言っていないことがありますねー?」


 セレナのガラス玉のような瞳がミオンを捉える。精霊女王の言葉に逆らうことは出来ない。

 ミオンは観念したようにため息をつき、再び姿勢を正した。

 一方のナオは、ドクドクと心臓の音が嫌に大きく耳に響いていた。

 ――――いよいよだ。

 ミオンはできうる限り、この流れは避けると言ってくれていたが、やはりこうなった。

 ナオは手汗がにじむ手を握りしめ、しっかりと前を見据える。


「瘴薬の、人類最初の被害者だと思われる人を連れてきたの。――――ナオ」

「はい」


 代表者たちの視線が痛い。

 彼らの放つプレッシャーが、僕に一点集中する。

 それでも、ナオはくちびるを噛みしめて、一歩、前に踏み出した。

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