11.
「あ〜駄目だなこれ、全然開く気配が無いわ」
イルが言うには、この“龍の卵”は、出っ張りや摘みを特定の手順で操作することで開くらしい。
押す。回す。引く。捻る。
思いつく限りのことは全部試してみた。
だが、龍の卵はうんともすんとも言わない。
カチリとも鳴らないし、びくともしない。
「……これ全部試すとか無理だろ」
動かせる箇所が多すぎるのだ。
規則性があると言われても、その規則に辿り着くまでいったい何百何千と試行を繰り返さなければいけなくなる。
試しに一度、地面に叩きつけてみたが、
「いや硬すぎだろこれ……」
傷一つ付かなかった。
どんだけ頑丈なんだよ。
もしかしたらあの箱の中に何か手がかり的なものが書いてあるかもしれないな。
呆れながら歩いていると、不意に声をかけられた。
「やあ、ジン君。手元ばかり見て歩いていると危ないですよ」
「あ、すいません、ノマ先生。あれ?こんな所でどうしたんですか?」
和やかな笑顔を携えて、いつもの先生としたカチッとした服装ではなく、動きやすそうなゆったりめの服装だ。
俺と母さんが暮らす家は村の端っこに建っている。
この辺りまで来ると周りに何軒か家はあるが、学校や村長さんの家の周りに比べるとかなり数は少なく、道も一本道になっている。
あっちから来たって事は俺の家の方に何か用事でもあったのかな。
「ああ、いえ。何でもジン君の家にここ最近何度も湧き土が起きていると聞きましたので、勝手ながら様子を見に来たのですが……おや?それはもしかして龍の卵でしょうか?珍しいですね。ちょっと見していただいても?」
「あ、なんかそうみたいですね。俺はさっき知ったんですけど」
まんま俺の家に用事があったわけか。
ていうか、龍の卵ってそんなに珍しい物なのか?母さんは懐かしむくらいであんまり反応無かったけど。
「ほほう、これはこれは。なるほど、そういう事でしたか。いや、にしても凄いですね。こちらはいったいどちらで?」
いろいろ考えながらも、何か一つ納得がいったようで返してくれた。
「これは父さんから送られてきたんです。今朝母さんから渡されたんですけど……」
「なるほどなるほど。いつ頃からご自宅にあったか分かりますか?」
「俺が卒業試験を受ける時期に合わせて送られてきたみたいなんですけど…細かい時期までは……」
「そういう事ですか、なるほど。いろいろと合点がいきましたよ」
ノマ先生は一人でどんどん話が進んでいってるみたいだが、全くついていけてない。
というかいったい何の話をしてるんだ?
「ああ、すいません。ちなみにそちらは開けて中の物を確認してみましたか?」
「いえ、さっきからいろいろ試してるんですけど全然開かなくて」
「どういった事を試されましたか?」
「押し込んだり回したり捻ったり。一回だけ叩きつけちゃいましたけどその時に壊れちゃいましたかね?」
「なるほど、それくらいなら壊れる事は無いと思いますから大丈夫ですよ。火で炙ったり、水に浸けてみてもいいかもしれませんね。後は喋りかけてみるとか、開いてくださいって」
「いや、それ本気ですか……?」
意外とぶっ飛んだ開け方を教えてくれたが、そんなやり方で毎回開けることになるかと思うとけっこう大変だな。
でもそれだけ貴重な物って事か?
「それで中の物が何か心当たりがあるんですか?」
「多分、いや十中八九その龍の卵の中身は“神石”だと思いますよ」
「………え?本当ですか!?」
「ええ。余程間違いは無いと思います」
「はあああ!?」
「いや〜びっくりですね。ですがおかげで湧き土の謎が解けました。その子が影響してた様ですね」
神石ってあの神石か?
頭が追いつかない。
何やらノマ先生はすっきりした様子で落ち着いているが、本当に父さんはとんでもない発見をしてたってのか。
神石はその昔世界中に降り注いだ隕石で一つ一つがとんでもない力を秘めているって話だが、そうそう簡単に見つけれる物じゃない。
かなり地中や海底の深くにあったり、逆にとんでもなく高い山の上や雲に乗って空を旅してる物もいると聞いた事がある。
そして、たまたま地上に顔を覗かせている物の周りは、決まってその力に吸い寄せられた危険な生き物(人も含まれる)が集まっているか、超自然的な現象が起きていて並大抵の生物が近づけなくなっているって話だ。
そんな中の一つを持って帰ってきてたのか。
「な、なんでそんな言い切れるんですか?」
「その首飾りから、僅かですが神気が漏れていますからね」
「神気……?」
「ええ。私は少しだけ、それを感じ取ることができるので」
何か今さらっととんでもないことを言わなかったか?
「龍の卵はかなり特殊な代物でしてね。非常に頑丈な入れ物ではあるのでほとんどの方は宝石やそれこそ代々伝わる品などを入れて保管しているのですが、一つ変わった特性もあるのですよ」
変わった特性?
めちゃくちゃに硬いだけじゃないってのか?
「神石の影響を封じることができるのですよ」
ノマ先生は、ほんの少しだけ間を置いた。
「それでも漏れ出している。つまり中身は、相当な純度の“発生種”の神石でしょう」
「な、なるほど」
「その首飾りとこの村の地下にある神石によって、ジン君の家の下の土達が急激に神気が蓄えられて頻繁に湧き土が起きる様になっていたのでしょう」
さすが元護衛隊。
こんなヒョロっとした頼りなさそうな見た目だけど、やっぱり凄い人だったんだな。
神気を感じ取る事が出来るなんて村の中では聞いた事がない。
「それにしても龍の卵に入れてあるのに神気が漏れ出すとは相当な純度の神石ですね。ジン君は何も感じないですか?」
そう言われれば、首飾りが脈打つ様な感覚があった様な気がしたが、ただの気のせいだと思っていた。
改めて目をつぶって意識を集中させてみるとほんのり手のひらの周りに違和感を感じなくもないか?
「なんとなく?」
「そうですか。ジン君は先天的な覚醒者ですし、コツさえ掴めば直ぐに分かる様になりそうですけどね」
そう言われても、今まで力を使った時に神気の流れとか気にした事なんか無かったしな。
「そうだ。俺もノマ先生にちょっと用があって学校に行こうと思ってた所だったんですよ!これから学校でそのコツも一緒に教えてもらえないですか?」
「そうでしたか。このままここで立ち話もなんですからね、学校に移動して良かったら少しお教えしましょう」
「本当ですか!ありがとうございます!」
もし神気の流れをちょっとでも感じ取れるようになれば、この龍の卵を開ける糸口が少しは分かるかもしれないな。
一度家に帰り昼飯を食べてから学校に向かうことにした。
帰ったらとりあえず、龍の卵を水桶に浸けて、台所で火で炙ってみないとな。




