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異世界空中活劇!  作者: 八針来夏
第三章『陰謀編』
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第十八話『臨時木こり集団』

「ふわぁ……」


 目を覚ます。

 昨晩はハーレムを作っている夢を見た。淫夢ではないけど、しかし似たようなものとも思える。エクエスにあんなこと言われたり、ルコッチャに密着されたりした影響であろうか。

 着替えを済ませ、お布団をたたんで水で顔を濯ぐ。

 空はまだ日の光が差し込み始め、未だ夜は開けきっていない早朝の時間帯。風が冷たく水で塗れた頭から眠気を吹き飛ばしていく。

 そうしていると、同じく目を覚ました直後のエクエスの姿があった。


「あ、あの。シオン。おはようございます」

「うん。おはよう」

「その、その……昨日はすみません。なんだか恥ずかしい事を言ったような気がするのですが、良く覚えていなくて」


 忘れているならそれはそれで好都合である。

 僕は頷いて答えた。


「大丈夫。弱音を吐くぐらいには信用されていると思えば嬉しいもんさ」

「あ……確かに……そんな事を言った記憶が」


 そのまま『優しくしてください』という台詞は忘れてください。

 僕はそのまま軽い準備運動をすると――朝の支度を始めるミルカさんに話しかける。


「すみません。ボアレス族長はこの時間だと、もう起きてますか?」

「大丈夫ですよー? 族長は元々里一番の狩人で、この時間帯にはもう起きています。そ、ん、な、事よりー」


 とミルカさん、まるで近所の奥様のようなニヤニヤした笑顔を浮かべた。


「お姉ちゃんの味はどうでしたー?」

「何もありません」


 僕は年長者として、そんな事を言い出すミルカさんの頭を小突いた。

 ぺろりと舌を出す彼女であったが――首を捻って考える。


「あんなにすっきりした顔のお姉ちゃん、初めて見たのに……」


 これ以上追撃されるのは面倒なので、僕は先にボアレス族長と話をするため進んでいった。




「お時間をいただきありがとうございます。ボアレス族長」

「気になさらず。お客人よ、何の御用かな」


 ボアレス族長は特にいかめしい表情を浮かべるでもなく、狩りの準備の手を止めて僕に話してくれる。

 僕は木々の深い場所を指差した。平地で、しかし鬱蒼とした木々で埋め尽くされたている。


「昨日、僕たちが乗ってきた船は昼頃、もう一度こちらに参ります」

「ふむ? あの空中に浮かんでいた不思議な船の事か」

「はい。それで、あの木々を伐採して。船を着陸させるための空間を作りたいのですが」


 ボアレス族長は笑った。

 それは……ものを知らない馬鹿を見る呆れと、哀れみの入り混じった軽侮の笑顔だった。


「……まったく、平地の方は愚かな事を仰る。我々高地人(ハイランダー)が鋼の斧を全力で打ち込んでも容易に排除できないあの木々を、昼までに切り倒すと仰るのか?」

「はい。行っても構いませんか?」


 ボアレス族長は、馬鹿な相手の無謀な振る舞いを止める発言をしようとしたのだろう。

 けれども僕の確信に満ちた台詞に少し気分を害したように、唇を捻って唸った。


「好きにすればよかろう」

「ありがとうございます」


 よし。言質ゲットだぜ。

 僕はそのままボアレス族長の下を去り――この木々の上に作られた家々を結ぶ踊り場で軽く素振りをするレグルスさんたちを見つける。

 

「君か。昨日の件は残念だったな」

「気にしていませんよ」


 レグルスさんも、首都ガランシューでの塩不足は知っているのだろう。その交渉が失敗した事も聞いているはずだ。


「ところでレグルスさん。本日はお暇で?」

「仲間が少し治療の必要がある。それに昨日の戦いで疲労もたまっているからな。今日と明日は回復に専念して、俺は少し軽めの運動で流すつもりだ。予定は空いてるぞ?」

「ああ。じゃあ一つ仕事の依頼をしたいのですが」

「ふむ」


 僕はなるべく良い笑顔で尋ねた。


「報酬を払いますので、ちょっと開拓を手伝ってもらえませんか?」




 高地人(ハイランダー)の住む高地。

 そこもまた『魔力(マナ)は高度が高ければ高いほど濃密になる』というこの世界の重要な法則にしたがっているため、濃密なマナ濃度を有する。

 高密度のマナは人間以外にも影響を及ぼす。

 火蜥蜴の氏族が『鋼木』と呼ぶ、高地特有の木々もその一種だ。

 地下茎で根を伸ばす植生は竹に近い。

 強烈な繁殖力で他の植物の成長を許さない生命力は、海を渡ってきた外来種の侵略を思い起こさせる。

 そんな植物であるためか、伐採も困難。

 例え一日仕事で『鋼木』を切断して、切り株を引き抜き根を排除してもすぐに根を伸ばしてくる。

 僕は昨日の話を聞いて、この木々の排除こそが火蜥蜴の氏族にとっての長年の宿願であると感じていた。

 

 もしこの木がなければ、畑を作って安定した食料自給ができるだろう。

 狩猟よりも農耕のほうが多くの人口を支える役に立つのは歴史が実証している。




「さぁここで秘密兵器の出番だー」


 ザスモーを纏った僕。レグルスさん、そして怪我が少なく暇を持て余していた冒険者パーティの面々は、なるべく地面の平たい森の中にいた。

 頭上の木々で陽光を遮られ、うっすらとした輝きが枝からこぼれ落ちてくる。その中で僕は――ザスモーの腕で巨大な鋼の円盤を握り締めた。


「そいつは……」

「僕の飛翔甲冑(メイル)であるザスモーに搭載した工具、メタルセイバーです」


 レグルスさんの言葉に答える。

 僕はどすどすと重々しい足音と共にザスモーを木々の近くに移動させ、スイッチを入れる。

 機械的な高速回転の異音が鳴り響く中、それを頑丈な鋼木の一般に押し付ければ、じゃりりりりりと激しい擦過音を響かせて凄い勢いで木屑が舞い散る。


「鋼のように硬いといっても。所詮は木。本当に鋼のように硬いわけもない。

 そんなただの植物が、本当に鋼鉄を切断するために作られたメタルセイバーで切断できない訳がない」


 一本を伐採し、ザスモーの腕一本で受け止め、そのまま安全な方向へと転がす。

 どっすんっ、と足元にさえはっきりとした衝撃が伝わる。

 

「……こうもあっさり切断できるものか」

「そういう風に作りましたから」


 僕はそう言いつつ。続けて二本目の木の切断に取り掛かる。

 その間レグルスさんとそのお仲間は頑丈そうな棒を取りだしてきた。それを切り株の下のほうにしっかりと固定させる。


「えいっ」「やぁ!」

 

 掛け声と共に力を込める。梃子の原理でめきめきと土がめくれ上がり、切り株が転がり出る。

 そうしている間にも僕はザスモーのメタルセイバーで木々を切断を繰り返していく。


 こうして……太陽が徐々に真上近くまで近づく午前11時頃には既に大量の鋼木が小山の如く積み立てられ、大量の切り株が掘り起こされた。

 

「腐れ枯れ落ちよ、大いなる地の輪廻の流れの一つとなれ。腐敗(コンテージョン)」

 

 未だに土の中で生存している根には腐敗を促進する魔術を加えて完全な土への変化を促進させる。

 そうして開拓作業が完全に終了する頃には――火蜥蜴の氏族の人々が大勢遠巻きに見つめていた。その様子を見ながらも僕はレグルスさんの持ってきていた水筒のお茶のご相伴に預かる。

 レグルスさんは言った。


「ひと財産だな」

「ん? 何がです」


 首を傾げる僕。なんだか奇怪なものを見るような目のレグルスさん。え、なんかしましたっけ、僕。


「……高地で採取される木々は高級建材となる。お前、それも知らずに伐採したのか」

「だって昨日の船が着陸するのに邪魔だったじゃないですか。……あれ? この木ってもしかして高く売れます?」

「……ああ」


 ……僕はちょっと黙った。

 高地の濃密なマナに浸された植物は、平地の人々にとっては高級建材として珍重されるのだとか。

 しかし木の一本を山の頂から伐採して伐採し人の住まうところまで持っていくのは困難なため……大きな川の流れに乗せて落とすという手法がなければ難しいそうだ。


「鉄製の斧でも容易に斬れない鋼木は間違いなく最高級の建材になる。お前が切ったのはそれを見越しての事だと思ったが」

「あー」


 知らない間に特産品を開拓してしまった。

 こうして僕は無重力金属の開発に加え、また収入を増やしてしまったのであった。

 金って、あるところにはドンドン集まってくるもんだなぁ。



 「それともうひとつ。お前は魔女(ヘクセ)なのだな?」

 

 ……レグルスさんの、どこか恐る恐るといった問いかけに僕は言葉を詰まらせた。

 ここのところ、忙しかったからすっかり忘れていたが……そういえば、彼ら冒険者の人たちには知られているのだった。

 もしあそこにいた冒険者のチームが、一度面識のある傷だらけの鎧(スカーメイル)と猛攻(ラッシュ)の人々でなければ誤魔化せたかもしれないが。

 どうするべきか。

 僕の桁外れともいえる魔力量。それでいて本来男性には使用不可能なはずの飛翔甲冑(メイル)を扱える才能。

 それは、どうしても帝国初代皇帝(お兄ちゃん)の存在を人々に思い出させかねない。

 だが僕の思案顔を見て、レグルスさんは少し慌てた風に言った。


「あ、いや。すまん。お前のその秘密をどうこうしようという気はない。

 俺達は君に命を助けてもらった。いつどこで命を落としてもおかしくはない俺達は、だからこそ命の借りには命で返す。

 俺を含めた全員に誓約(ゲッシュ)を掛けてもらっても構わん」


 僕は思わず目を見張る。

 以前バルロフ総帥と契約を交わすための書面を交わしたが、誓約(ゲッシュ)はアレと同種の制限を掛ける魔法だ。

 しかし、もし破ろうとするなら凄まじい激痛を発するため、おいそれと手を出せる魔術でもない。僕は首を振った。


「そこまでしても構わないとまで言う、あなたの言葉を信じます」

「ありがとう」


 僕としても他人に呪いめいた拘束を行うより信じるほうが気持ちが軽い。

 この口数少ない誠実な壮年の男性を、僕は信じることとした。

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