第七話『狩ってこそ、華』
先日は更新できず申し訳ありませんでした。
冒険者チームである『傷だらけの鎧』と『猛攻』の暫定的リーダーとなっている、冒険者レグルスは内心叫んだり腹を立てたり大声を上げたい気持ちを一先ず心に閉った。
「怪我をした奴は?」
「二人。足はやられてない」
「休んで治療と行きたいがな、悪いがそうも言ってられん。歩きながら治療だ。時間を稼ぐ、キスカ! お前は仲間を連れて退避を!」
「無理するんじゃないよ、レグルス!」
まったく、どうしてこんな事になるのか、と呪いたくなる。
前回、金払いの良い絶世の美少年に割りのいい報酬を貰った上、あの帝国剣聖バルロフ卿と知り合う機会さえできた。
腕前も重要だがコネクションもまた生き残る上では有利に働く。
実際、美少年からの報酬で彼らのチームメンバーは、バルロフ卿とのコネを利用して新合金でできた武器防具を新調し、意気揚々と活性水の採取ミッションを引き受けたのだ。
「それがなぜ、出産期を避けて入ったこの時期に、ワイバーンが攻撃的になっている……!!」
四メートル近くの体躯、鋭い爪牙。堅牢な龍鱗。そして口蓋より発射される致命的な炎の息吹。
ワイバーンほど『割りに合わない魔獣』はそうは存在しないだろう。……本来、高地人が時折ワイバーンの体の皮を剥いだり、体内で精製した鋼鉄の爪や牙を売ったりするように、ワイバーンは金になる。
ガアアァァァァァァ!!
鋭く繰り出される爪牙を盾で避けながら、相手の鷲掴みを避けるように斧を奮う。
ワイバーンが『割りに合わない』のは、やつ等が空を飛ぶからだ。そして地上より遙かにマナの密度が濃い空中に舞い上がれば――奴らは豊富な魔力を糧に、魔力障壁を展開する。そうなってしまえば……『地上』と『空中』というマナの濃度において文字通り天と地ほどの差を覆す大威力魔術でもない限り、やつらを倒せない。
今は――まだこちらを『餌』と認識しているから、ワイバーンはその爪と牙で自分達を殺し、『食おう』としている。
だが、もし下手に殺し損ねた場合、ワイバーンはこちらを危険と見做し――魔女の対地攻撃魔術と同規模の攻撃を仕掛けてくるのだ。
「鎧や武器を新調しなければ、もう死んでたろうが……!」
レグルスは唇を噛んだ。
冒険者という家業が、どれほど綿密に計画を立て、十分な準備を行って挑もうとも……予想外のアクシデント一つで生命の危機に陥るとは理解していた。だがやはり理解していても、死ぬかもしれないと思えば腹の奥底から湧き上がってくる激怒がある。
「お前……俺を餌だと思っているのか……!」
ワイバーンが爪と牙で襲い掛かってくるのは、ブレスで消し炭にせずとも殺して食える『獲物』だと思っているからだ。
初撃の奇襲で敵に不意を突かれなければ、十分に勝算があった相手如きに舐められている。獣
「舐めずに全力で来い……!」
盾を打ち鳴らして相手の注意を惹きつける。こういう場合は相手が知能を持たない獣であることが有難い。
仲間は脱出し終えたか? もう安全圏まで離脱したか? ……そう思った瞬間――向こう側で爆炎が広がるのを見る。……仲間が逃げた方向。それも知能のないはずの獣の癖に、炎で退路を塞ぐかのような狡猾な炎の息吹を放ったのだ。
キスカの念話が頭の中に鳴り響く。
『くそっ! 退路を断たれた! レグルス、合流する!』
だが……念話とはこういう時不便なもので、キスカの思念を受け取ったレグルスは、同時に彼女の心に広がる絶望と諦観の双子の存在に気づいてしまっていた。
別チームのリーダーとして信頼していた彼女が諦めようとしている。離脱しようと魔力も体力も使い果たし、もう生還は絶望的と諦めてしまったのだろう。
仲間の絶望がレグルスの心にひたひた忍び寄っていた絶望をより強く意識させる。
ゆえにこそ――これまで捌ききれていたワイバーンの爪牙が、がっちりと盾に食い込む。傷が刻まれた。
「くそっ、離せ!!」
レグルス自身や仲間を守ってきた大盾。新品であるからこそ、即座に手放すべきタイミングでの決断をし損ねたレグルスは、その身をワイバーンに捕まえられたまま空中へと運び去られようとする。
「こいつ……!!」
ワイバーンの口蓋がまるであざ笑うように震えた。
ある程度高度をとってしまえば――後は爪や牙で斬殺する必要もない。
爪を離せばそれだけで――相手が地面に叩きつけられて絶命する、それを理解する程度の知能は獣にもあった。背筋を走る怖気。冒険者という家業ゆえ、いずれ無残な最期が訪れるかもしれぬと覚悟はしていたが、それでも徐々に遠ざかる地面に対する心細さや、生命としての根源的な恐怖には抗い難かった。
『レグルスーーーーー!!』
キスカの悲鳴のような思念が、彼の頭に突き刺さった。
喉奥から溢れそうになる無様な悲鳴を噛み殺し、せめて一太刀入れて死んでやる――そう思った瞬間だった。
『盾を構えて、身を硬く!!』
どこかで聞いたような気がするその声が誰なのか。
だが何者であるか考えるより、レグルスは己の脳裏に突き刺さった誰かの念話に込められた、こちらを助けようとする救命の意志に従い――足を突き出し、敵によって空中から投げ落とされることより、ワイバーンに蹴り足を叩きつけ、自ら落下する事を選んだ。そして盾の影に身を隠す。
なぜかは分からない。
だがそうするべきであると、戦士の直感が告げていた。
黒い人型の弾丸が、飛ぶ。
あちこちから火を噴きながら、弓から放たれた矢よりも遙かに早い速度で飛んでくる何か。
一瞬であった。
その黒い人型が、まるで膝を騎兵槍のように構えてワイバーンの顔面に蹴りを叩き込めば、ぐしゃりという鈍い粉砕音と共に、奴の頸部を捻じ切ってみせたのだ。
同時に一瞬の浮遊感の後に、重力という抗えない魔手に引きずられ、墜落死という結末を目指して落下を始める肉体に耐え難い怖気が走ったその瞬間――再びあの黒い人型が接近し、その装甲で覆われた片手でレグルスの腕を掴み、淡い魔力の燐光とともに魔術を発動する。
「風よ、其の身でかの人を受け止めよ、大地が敵ではない事を示せ。落下制御」
「お前はっ……?」
驚愕がレグルスの喉奥を貫いた。
黒い髪、黒い飛翔甲冑。
「悪いが、事情の説明はなしだっ!!」
そして、一度も剃刀を当てたことのないような中性的な絶世の美貌。
少し前に引き受けた、あの割の良い仕事の依頼人である少年の紅顔がそこにあり――彼はレグルスの身を守る魔術を掛けると、すぐさま踵を返して、他のワイバーンに襲い掛かった。
敵を狙いながら僕は考えている。
彼女ら 魔女騎士にとって、飛龍種は一種の登竜門だ。
ワイバーンは生来の強固な龍鱗に加え、空中にある高密度のマナを用いて強固な魔術障壁を形成する。
口蓋から発射される火炎は追いかけ射殺す息吹とも称され、長射程、高威力であり、魔女騎士であっても撃墜される危険性のある強力な攻撃だ。ワイバーンが古代王国期に生み出された生物兵器であるのではないか? ――そんな評価も理解できる。
ただし旋回性は高いが、推進力は極めて低く、死角を取ることはそう困難ではない。
これが魔女騎士にとって一種の登竜門扱いされるのも頷ける話だ。
自分より長射程、重装甲の相手に対して勝利を収めるには、相手の死角に移動し続ける戦術眼と度胸がいる。ワイバーンを一対一で殺せるようになれば、仲間の魔女からも一人前扱いされ、航空徽章に匹敵する箒の勲章を与えられるのだ。
また体内の魔石も価値があり、臓腑も珍味ゆえか魔女の技量維持と害獣の間引きも兼ねて、定期的に狩られるのだとか。
「なら……僕も魔女の端くれとして一匹くらいは仕留めなきゃな」
僕の前世の言葉で言い表すなら、ワイバーンは高性能ミサイルを搭載した重装甲ヘリという認識が一番近い。
自分の間合いの外から届く一撃を避け、突撃し、堅牢な装甲に怯むことなく打撃を与え続けねばならない相手。
油断せず、狡猾に、そして勇気を出して挑むべき相手。
それが魔女にとってのワイバーン。
それはマングースにとってのキングコブラのように。
それは原始人にとってのマンモスのように。
それは老練のマタギにとっての熊のように。
それは対戦車ミサイルにとっての戦車のように。
それは対空ミサイルにとっての戦闘機のように。
それは人にとっての巨人のように。
狩ってこそ、華。
それはコ○ラにとってのクリ○タルボゥイのように。
それはアー○ー○○ア・ネ○○トにとってのアー○ズフォートのように。
狩ってこそ、華。
それはそれとしてアー○ー○○ア・レトリビューション単行本にまとまりませんかね。




