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異世界空中活劇!  作者: 八針来夏
第一章『地上編』
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第十五話『死の嵐はどちらだ』

 命令と共に一斉に降下途中のコンテナからドローンが起動する。

 まるで骨組みのみでボールを作ったような簡素な形状。内部に組み込まれた幾つものプロペラ。電池と目標を補足するためのカメラアイ。必要最低限の索敵機構を組み込まれた無人偵察ユニットは空中から一斉に飛行し、敵のいる方向へと散らばり始める。


 敵の存在……魔兵を画像で認識し、ザスモーのヘッドセットディスプレイに表示される。まるで物語で見かけるリザードマンの爪と牙を百倍凶悪にして、全身を鎧で覆わせた形状の怪物。口内から捕食を求めて毒々しい色の涎を垂らし、四足歩行で恐ろしく俊敏に接近してくる様が見えた。正直こいつらと泥沼の接近戦を演じるなど遠慮したい凶悪な外見だ。

 迫り来る魔兵を所属不明NO1(アンノウン1)、所属不明NO2(アンノウン2)と、ザスモーのシステムが『敵なのか味方なのか良く分からない相手』と表示。僕はザスモーのシステムに敵対勢力(エネミー)と警戒レベルを引き上げるように命じる。

 マーカードローンが補足した敵の位置情報が次々と更新。敵の位置を丸裸にしていく。


「弾種は熱穿孔(HEAT)バレット。誘導システムは風力制御(エアロキネシス)を利用した積極的弾道制御(バリスティックカーブ)。

 攻撃優先順位は至近の相手から……いや、待てよ? ギュス! 魔兵ってのは遠距離攻撃ができる種類っているか?」

「い、いや? そういう能力を持つ奴がいるなんぞ聞いた事もない」

「了解。では攻撃目標の選定順位は至近距離の相手を最優先。その次に投擲攻撃を警戒して腕に何か持っている相手。

 トリガーはシステムに一任する」


 あらゆる戦法の基本として、白兵武器よりも射撃武器のほうを優先して叩くべきだ。

 口から火を吐くような固有の攻撃方法は持っていないようなので、相手が物を投げてくる可能性を考慮し、武器持ちを優先させておく。

 

「発射」


 瞬間、ザスモーの魔術銃(マージライフル)からオレンジ色の炎弾が連続して発射される。

 それらは弓なりの軌道を描き、まるで獲物を狙う飛燕のような鋭い動きで一斉に森の中へ、こちらへ迫る魔兵達へと飛んでいった。

 熱穿孔(HEAT)バレットは僕がこの世界に来て生み出したオリジナル魔術の一つだった。物理魔術で弾丸型の力場を形成、その中を熱属性、火炎魔術を封入する。弾着と同時に高熱の穿孔エネルギーが弾道の先端から放出され、運動エネルギーと熱エネルギーの二重の貫通パワーで対象を貫くものだ。

 森の中を飛行するドローンは前世で開発されていたものと同じ。静粛性とカメラによる索敵を重視した無人偵察ユニットだ。

 これらから獲得した位置データはザスモーのシステムに送られ、誘導ミサイルのように敵を狙って飛んでいく。

 まるで殺戮の近接防御火器(CIWS)。接近せんとするものを的確に射殺す弓兵達に守られているかのようだ。


 ぎゃおおぉぉぉぉぉぉ!!


 飛翔する炎の弾丸は、魔兵の頭部へと激突。常ならば頭部を守る鉄兜で跳ね返されるなり、あるいは受け止められるなりしただろう。

 しかし強烈な貫通パワーの篭った熱穿孔(HEAT)バレットは鋼さえも刺し穿つ威力で鉄兜を貫き、魔兵の頑丈な外皮と頭蓋骨をぶち抜いて打ち抜き、絶命へと導く。

 死を量産する魔兵が次々死していく。

 騎士五人で束になって掛かってようやく討ち果たせると言われる魔兵の苦しげな悲鳴が次々と森の中で弾けていく。

 

「凄まじい……威力もさることながら、まるで百発百中だ」

「え? なに?! 聞こえないんだけど!!」


 ただ発射に伴う音は大きく、近くでシリアスな顔して呟くギュスの声は僕の耳に全く届かない。

 遮蔽を利用し、回り込みながら狙おうとしてもドローンに正確に補足された魔兵は、ほとんど頭上から降り注ぐような猛射を浴びて戦闘不能へと追い込まれていった。

 これなら大丈夫か……そう考える僕。だが、いにしえの古代先史文明の生んだ殺戮の申し子は、そう簡単に諦めるような相手ではなかった。

 

 ぎあああああぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ!


 魔兵が突っ込んでくる。当然ながらオート制御に設定しているザスモーの魔術銃(マージライフル)はその敵を指向し、弾丸を発射。

 狙いを過たず、それらは接近しようとする魔兵を貫き――しかし、止まらない。

 赤い何かがぶらぶらと揺れている。僕はそれがなんなのか分からず……次の瞬間、持ち上げられた魔兵のだらりと垂れ下がりぶらぶらと揺れる舌である事を悟った。


「仲間を……盾に?!」


 エクエスが驚きの声をあげる。

 僕もその目で確認した。魔兵は傷つき行動不能になった仲間を抱え上げ、生きた盾として再利用している。

 だが、おぞましさはそれだけでははない。仲間を盾に持ち上げた魔兵は……生きた盾として使っている仲間の腕に齧りつき……食っている!! そうする事で、見る見るうちに体に受けた傷が復元していく様が見えた。生命属性の魔術の一種なのだろう、効果は覿面……だが、絶対に使いたくはない!!

 

「生命属性魔術の中でも禁断の外法……『共食い』の魔術です……! あんなおぞましい外法を生まれながらにして会得しているのですね……!!」

 

 エクエスは声に隠し切れない嫌悪を込めて叫ぶ。

 僕が知らない魔術だ。恐らくは古代王国時代には存在していない代物だったのだろう。けれども効果は名前と今目の前で同族を捕食しながら突進してくる魔兵を見れば察しがついた。

 魔兵が迫る。

 接近までに大勢を討ち果たしたが、しかし未だに六体の魔兵が健在。魔術銃(マージライフル)の最大出力ならば盾にされた魔兵ごとぶち抜けただろうが、あいにくとここまで接近されると避けられる可能性もある。

 アウトレンジで数を減らせるのはここまで、あとは白兵戦の時間だ。


「悪い、ここまでしか減らせなかった! メーコちゃん、魔力はあるか?」

「え? あ、うん。魔女(ヘクセ)ほどはないけど、それなりにはあるつもりやよぉ?」

「よし、ザスモーを貸すよ、使って!」

「ふぇええぇ?! で、でもええのん? 魔女騎士(ヘクセリッター)が自分の大事な飛翔甲冑(メイル)を他人に貸すやなんてぇ!!」


 だが今は緊急事態なのでメーコちゃんのお返事は聞かない。

 ザスモーはアホみたいに魔力を消耗する大食いの飛翔甲冑(メイル)だが、その消耗の激しさは重量級の機体を高速で飛行させるための膨大な推進パワーを獲得するためだ。魔術銃(マージライフル)をぶっ放すでもなく、ただそこにいて円盤盾(ラウンドシールド)と分厚い装甲でがっちりと身を守ることに専念すれば、メーコちゃんもある程度安全だろう。

 もちろん、僕らが生存しなければ全て無意味だろうが。


「魔女騎士(ヘクセリッター)四機に囲まれ、そして一日の最後には魔兵の群に襲われる。こうも厄日続きだといっそ笑えてくる」

「ここまで来たのですから、せいぜい生き延びましょう、ギュス!」


 ギュスターヴとエクエスも、共にブロードソードとレイピアを引き抜き、接近してくる魔兵を相手に構える。

 僕もロッドを振りかざした。

 敵の殺意がまるで暴風のように頬に叩き付けられる。

 昨日戦った魔女騎士(ヘクセリッター)の発するものが戦士の殺気ならば、今魔兵より吹き付けるコレは、捕食者の圧力だ。

 獰猛な捕食獣を魔術の技でより冷酷に、より獰猛に作り変えた魔兵の圧力は、まるで人間がかつて食われる側だった血の記憶を呼び起こした。意志の力では容易に堪えられない根源的恐怖が五体を貫く。


「だが……体は動く、やるぞ!」


 魔女騎士(ヘクセリッター)と戦った経験が、戦死の可能性がもっとも高い初の実戦を掻い潜ったものゆえの度胸が、僕を支えてくれる。

 ロッドを構え、魔力を練り上げる。今から使うのは全力の身体能力ブーストのための魔術。


「剣を研ぎ、身を鍛え、技を磨くはこの一戦の時が為! この一戦を勝ち抜くが為! ここで引けば、それが誰かの最後となる! それをさせじと我らは行く!

 我が両足は不動の拠点、我が両腕は護国の剣のその切っ先!

 戦を終わらすそのために流れる血潮がいるのなら、まず我が身より差し出そう!!

 最後の守り(ラストガーダー)、我こそ最後(ラストガーダー)! 僕が最後だ(ラストガーダー)!!」



 殺(シャア)アアァアアァァァァァァ!!

 

 僕の絶叫に似た詠唱と、魔兵の凶叫が重なる。 

 膨大な魔力光が僕ら三人に纏い、あらゆる能力を倍加させる。後ろに守るべき人がいる状況のみでこそ使用できるという限定条件こそあるものの、我こそ最後(ラストガーダー)は僕の使える最高位の強化魔術だ。

 ロッドをぶるんと振り回し、僕ら三人は――『連合』滅亡に関わる一連の騒動の、最後の一戦に挑んだ。

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