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第五の魔女ボウキャク ノ マジョ

その魔女が望むは平和。

 殺戮の魔女対策が施された異様なその部屋で、アレッシオは一人佇んでいました。

 部屋のドアが完全に開かれていて、目の前に階段が見えます。

 殺戮の魔女はこの建物の二階に居るので、階段を降りたらすぐにアレッシオの姿を見つけることができます。

 この建物の中に、イザベルやクロエの姿はありません。

 二人は、アレッシオが眠らせて病院に送っているからです。

 アレッシオは、イザベルと共に戦う約束をしましたが、彼はそれを破ったのです。

 ユナだけが、アレッシオを心配して彼の隣に居ました。とはいえ、何ができるわけでもありません。

 アレッシオは、ユナがここに居ることすら知りようがないのですから。

 やがて、殺戮の魔女が階段を下りてきて、アレッシオの姿を見つけます。

 殺戮の魔女は、無言で血塗られたナイフを抜きました。

「お前は誰なのですか。この部屋は何なのだ」

 殺戮の魔女がそう言いましたが、アレッシオにもユナにも理解できません。

「貴様は、何故ここに居る」

 殺戮の魔女がゆっくりと部屋に入ります。アレッシオは、ただ警戒して間合いを計ります。

 次の瞬間、殺戮の魔女が叫びました。

「答えなんて関係ない! こいつは敵だ! だから倒す!」

 その瞬間、アレッシオの記憶が抜け落ちていきます。

 自分が何故ここに居るのか、何を目的としていたのか、身を守るにはどうすればいいのか。

 それらを忘れたアレッシオは、混乱し、身動きが取れなくなりました。

「アレッシオさん!」

 ユナが叫びますが、それに誰も気づきません。

 アレッシオを殺戮の魔女は何度も刺します。

 その傷を治す力がアレッシオにはありましたが、その力の存在さえ彼は忘れてしまいます。

 なす術もなくアレッシオは倒れ、意識を失いました。


 気がつくと、アレッシオは不思議な空間に居ました。

 そこには見覚えのある沢山の人が居て、様々な国の様々な風景が混在しています。

 海の上に山があったり、建物の中に建物があったりとめちゃくちゃです。

 沢山いる人の中で、一際目立つ一人が居ました。

 狐の面を頭の上に乗せ、煙管をくわえ、色とりどりの着物を着た派手な男でした。

「やぁ」

 男が言います。

「ヤマト」

 アレッシオは驚きます。だって、彼は既に死んでいるはずなのですから。

「ここは、死後の世界なのか」

 いいや、とヤマトは否定します。

「ここは、君の夢の中。君は刺されて気を失って、夢を見ているんだ。

 死ぬ前だって、夢を見るからね。

 この世界や私は、君が自分の目的や力を思い出そうと、生きようと必死に足掻いた結果なんだよ」

 一度、地面が大きく揺れます。

 ヤマトはそれを無視して、続けます。

「君は思い出して、目覚めなければならない。それも早く。

 でないと、死んでしまうよ」

 ヤマトは軽い調子で、そう言いました。

 アレッシオは、どうすれば思い出せるのか、男に尋ねました。

 ヤマトは、知らない、と答えます。

「まぁ、順を追って思い出そうじゃないか。まずは、私と出会った所から」

 男がそう言うと、指を一つ鳴らします。

 辺りの景色が一変しました。今まであったものが無くなり、大量の鳥居が現れます。

 気がつくと、鳥居の上に男が座っていました。

 アレッシオは、この風景に思い当たるものがあります。これは、アレッシオが男に初めてあった時の光景でした。

「ここで、俺とお前は毎晩のように会っていた」

「そうだよ。さて、私と何の話をしたか覚えているかい?」

 アレッシオは記憶を辿り、思い出せたものを口にします。

「少女の……戦争を止めようとした少女の話だ」

 ヤマトは、静かに頷きます。

「少女は、内戦で兄や父、友人、様々なものを失った。だから、戦争を止めようとした」

「そうだったね。さて、どうやって止めたかは覚えているかい?」

 アレッシオは必死に思いだそうとします。その間に、また地震が起きました。

「なんらかの力を使ったんだ。でも、それがどんな力かは思い出せない」

「思い出せないか。仕方ない。

 では、少女が無事戦争を止めて、それからどうなった」

「また別の戦争が起こってしまった。

 少女は内戦を納めたのと同じ方法で戦争を止めて……それを繰り返して、最終的には壊れてしまった」

 ヤマトが、少し嬉しそうに頷きます。

「そう。だから、君は彼女を救うためにここまで来たんだよ」

 ヤマトはそう言って、笑います。

 再び地震が起きました。

「さて、少女の力を思い出そうか。大丈夫、考えればいい。

 今までの情報から総合して、少女の力は何なのか」

 アレッシオは記憶を辿り、そして思考を巡らせます。

 アレッシオは、少女に出会った瞬間、あらゆる記憶を失いました。

 自分が何故ここに居るのか、何を目的としていたのか、身を守るにはどうすればいいのか。

 つまり、少女の力は――。

「記憶を奪う……?」

 半信半疑でアレッシオが答えを言うと、男が満足げに頷きました。

「そう。少女には、神から記憶を奪う力を得た。それを行使し、少女は戦争をする人間達の記憶を奪った。

 何故戦っているのか、戦い方、戦死した人間達との思い出すら」

 記憶を奪われた人間達は、戦争を止めた。けれども、彼らの記憶は少女に蓄積されていく。

 やがて少女は、どれが自分の記憶で、他人の記憶か分からなくなっていきました。

 ついには、自己すら分からなくなってしまいます。

 口調や性格が安定しなくなり、確かな自己はもはや消失してしまったのです。

「最終的に少女は、他人の憎しみを自分の憎しみにしてしまった。

 だから、彼女は世界を憎み、その思いのままに世界を壊すんだよ」

 ヤマトは悲しそうに目を細めます。

「少女のおかげで、戦争は無くなった。けれど、少女は戦争以上の死者を生み出した」

 それは、なんという皮肉だろうと、アレッシオは思います。

 誰よりも平和を望んだのに、最もその平和を壊す事になるなんて。

「そんなのは、あんまりだろう。だから、私は君に頼んだんだ。

 少女を、ターニャを救うように」


 世界に八つある大陸の一つ、オブリビオン大陸。

 ターニャはオブリビオン大陸を守る神から力を授かり、魔女となります。

 オブリビオン大陸の神が魔女を必要としていた理由は、ただ一つ。自らの力を人間達に示し、信仰を得るためです。

 信仰が無くなれば、神はその力を無くしてしまうからです。

 記憶を奪う力を得たターニャは、内戦を止める為に国内の人間から記憶を奪います。

 そうすることによって、ターニャの国から戦争は無くなりました。

 けれど、戦い方を忘れた国は隙だらけ。すぐに近隣国から攻め入られ、多くの血が流れます。

 ターニャはそれも止めようと、再び記憶を奪いました。

 そんな事を何度も繰り返し、やがてターニャは沢山の記憶に混乱し、自分が分からなくなっていきます。

 そんなターニャに確かに残ったものは、恨みの記憶だけ。

 ターニャはその憎しみのまま、生きとし生けるものを殺します。

 その中で三人の魔女を殺し、四つの大陸がオブリビオンの神の物となりました。

 憎しみのままに生きる魔女。

 そんな彼女によって今まさに、四人目の魔女が死のうとしていました。

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