4話 封印師 師匠
主人公は唇を噛んだ。
この場にいる全員が本気だ。
拒否すれば、本当に殺される。
逃げ道なんて最初から存在していなかった。
主人公「……わかりましたよ」
部屋の視線が集まる。
主人公「実質、選択肢は一つしかないみたいなものですし」
主人公は当主を真っ直ぐ見た。
主人公「やってみせますよ」
当主は静かに笑う。
その瞬間、部屋の空気がわずかに緩んだ気がした。
だが主人公の心は全く落ち着いていなかった。
(霊術について学ぶ)
(力を手に入れる)
(そして――あいつの仇を討つんだ)
友人の顔が脳裏をよぎる。
あの日の電話。
突然の死。
黒い煙。
全部繋がっている。
主人公は拳を強く握った。
当主「名は?」
主人公「僕の名前は宮川蓮夜です」
蓮夜は深く頭を下げる。
蓮夜「これからよろしくお願いします」
当主「うむ」
老人は満足そうに頷いた。
その時、一人の男が立ち上がった。
男「当主、本気ですか?」
空気が再び張り詰める。
男「こんな得体の知れない者を本家に置くなど――」
蒼汰(青年)「黙れ」
低い声。
男が睨み返す。
男「神代、お前は危険性を理解しているのか?」
蒼汰「理解してる」
男「なら――」
蒼汰「だから俺が面倒を見るんだろ」
男は不満そうに舌打ちした。
当主が静かに口を開く。
当主「よい」
その一言だけで場が静まる。
当主「蓮夜は本家で預かる」
当主「異論は認めぬ」
誰も逆らわなかった。
蓮夜は改めて理解する。
この老人が、この屋敷の絶対的な存在なのだと。
その日から。
宮川蓮夜の地獄のような修行生活が始まった。
翌朝。
まだ日も完全には昇っていない時間。
蓮夜は眠そうな顔で屋敷の廊下を歩いていた。
蓮夜「ねむ……」
昨日はいろいろありすぎた。
まともに眠れた気がしない。
そんな蓮夜の前に、蒼汰が現れる。
蒼汰「遅い」
蓮夜「え、集合五分前ですよ?」
蒼汰「修行する奴は三十分前には来る」
蓮夜「理不尽すぎません!?」
蒼汰「うるさい。来い」
有無を言わせぬ口調だった。
屋敷の中庭。
朝だというのに空気は冷たい。
蓮夜はジャージ姿で立っていた。
目の前には、腕を組んだ青年――神代蒼汰。
どうやら当主が、蒼汰を蓮夜の修行係に任命したらしい。
蒼汰「はぁ〜……面倒ごと押し付けやがって」
蓮夜「ハハ……すみません」
蒼汰「笑って誤魔化すな」
蒼汰は露骨にため息を吐いた。
蒼汰「まぁいい。改めて名乗っとく」
蒼汰は蓮夜を見る。
蒼汰「俺の名前は神代蒼汰」
蒼汰「今日からお前の師匠だ。師匠と呼べ」
蓮夜は慌てて頭を下げた。
蓮夜「はい!! よろしくお願いします師匠!!」
蒼汰「声がでかい」
蓮夜「す、すみません!」
蒼汰「……はぁ」
やる気があるのか無いのか分からない態度だった。
だが、悪い人ではなさそうだった。
蒼汰「まずは基礎からやる」
蓮夜「基礎?」
蒼汰「ああ。霊視のON/OFFだ」
蓮夜「霊視のON/OFFですか?」
蒼汰「今のお前、ずっと霊を見続けてる状態なんだよ」
言われてみればそうだった。
屋敷に来てからも、廊下の隅や庭の木陰にぼんやりとした霊が見えている。
最初より慣れてきたとはいえ、落ち着ける状況ではない。
蓮夜「確かに……ずっと見えてます」
蒼汰「普通の霊媒師は必要な時だけ霊視する」
蒼汰「見続けてたら精神がもたねぇからな」
蓮夜「そんなに危ないんですか?」
蒼汰「霊に引っ張られる」
蓮夜「……うわ、怖」
蒼汰「怖い世界なんだよ、元々」
蒼汰はそう言いながら、蓮夜の額を軽く指で叩いた。
蒼汰「意識を集中しろ」
蓮夜「集中……」
蒼汰「見ようとするな。逆に閉じる感覚だ」
蓮夜「閉じる……閉じる……」
蓮夜は目を閉じた。
周囲の気配に意識を向ける。
冷たい空気。
霊の気配。
ざわつく感覚。
それを少しずつ遠ざけるように意識する。
数秒後。
ふっと周囲が静かになった。
蓮夜「あれ……?」
蒼汰「どうした」
蓮夜「霊が……見えない」
蒼汰「それがOFFだ」
蓮夜は目を見開いた。
本当に消えている。
あれだけ視界にいた霊達が、全く見えない。
蓮夜「す、すごい……!」
蒼汰「まぁ安心しろ。この修行は初歩の初歩だ」
蒼汰「すぐ身につけられるようになる」
蓮夜は思わず笑った。
蓮夜「はい、頑張ります!」
蒼汰「……その元気がいつまで持つかな」
蒼汰がぼそりと呟く。
蓮夜「え?」
蒼汰「いや、何でもない」
そう言いながら蒼汰は懐から札を取り出した。
蓮夜「それ、昨日使ってた……」
蒼汰「ああ」
次の瞬間。
バチッ!!
札から青白い光が弾けた。
蓮夜「うわっ!?」
蒼汰「避けろ」
反射的に身体を横へ倒す。
直後。
蓮夜の後ろにあった木が真っ二つになった。
蓮夜「…………え?」
ゆっくり振り返る。
本当に斬れていた。
蓮夜「いやいやいや!? 今の何ですか!?」
蒼汰「霊術」
蓮夜「怖っ!!」
蒼汰「これくらい出来ないと悪霊相手には死ぬ」
蒼汰は新しい札を指に挟む。
蒼汰「お前も、そのうち覚える」
蓮夜は折れた木を見ながら乾いた笑いを漏らした。
蓮夜「……修行って、命懸けなんですね」
蒼汰「当たり前だろ」
蒼汰は淡々と言い放つ。
蒼汰「お前はもう、普通の世界には戻れないからな」




