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封印師   作者: ロロ
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3/5

3話 封印師 本家

主人公は青年に連れられ、本家の屋敷の廊下を歩いていた。

古びた木の床。

壁や柱には無数の札が貼られている。

空気が妙に冷たい。

まるで屋敷そのものが息をしているようだった。

主人公は落ち着かない気持ちのまま周囲を見渡す。


主人公「……本当に人が住んでるんですよね、ここ」


青年「住んでる」


主人公「なんか、空気が重いっていうか……」


青年「結界だ」


主人公「結界?」


青年「害霊避け。普通の人間なら気づきもしない」


淡々と答える青年。

主人公は思わず肩をさすった。

普通じゃない場所に来てしまった。

その実感だけが強くなっていく。

その途中、屋敷の人間たちとすれ違う。

全員、どこか普通じゃなかった。

着物姿の者。

札を指に挟んだまま歩く者。

目つきの鋭い老人。

彼らは主人公を見るなり、小声で囁いた。


「……片目だけか」


「本当に暴走したのか?」


「嫌な感じの霊力だな……」


主人公は思わず視線を逸らした。

まるで歓迎されていない。


主人公「……なんか、嫌われてません?」


青年「気にするな」


主人公「いや気になりますよ」


青年「お前みたいな例外は珍しい。それだけだ」


主人公「例外って……」


青年は少しだけ主人公を見る。


青年「昨日お前の目に浮かんだ白い紋様。あれは霊力を使う時に現れるものだ」


主人公は自分の右目に触れた。


主人公「じゃあ、霊力を持つ人は皆ああなるんですか?」


青年「ああ。練度が低いうちは片目だけ。熟練者になると両目に浮かぶ」


主人公「あなたも?」


青年「見たいか?」


次の瞬間。

青年の両目に、青い紋様が浮かび上がった。


主人公「っ……!」


空気が変わる。

冷たい圧力のようなものが身体を撫でた。


主人公「……すごい」


青年「霊力を流しただけだ」


主人公「いや、十分怖いんですけど」


青年は興味なさそうに紋様を消した。


主人公「僕にも、あんなことができるんですか?」


青年「訓練すればな」


主人公「じゃあ昨日のは……」


青年「暴走だ」


主人公の表情が曇る。


青年「霊力は便利な力じゃない。制御できなければ死ぬ」


主人公「死ぬって……」


青年「霊力に身体を壊される。昔から珍しくない」


主人公は言葉を失った。

自分は、本当に危険な世界に足を踏み入れてしまったのかもしれない。

やがて青年は、大きな障子の前で足を止めた。


青年「入るぞ」


障子が開かれる。

広い畳の部屋。

中には数人の霊媒師たちが座っていた。

空気が重い。

中央には、本家の当主と思われる老人が座っていた。

鋭い目。

年老いているはずなのに、妙な威圧感がある。

主人公は促され、正座した。

当主は主人公を見る。


当主「……確かに、視えておるな」


主人公「え……?」


当主「お主、最近になって急に霊が見えるようになったじゃろ」


主人公「……はい」


当主「それ以前は?」


主人公「全然見えてませんでした」


当主は静かに頷く。

すると、近くにいた男が口を開いた。


男「危険ではありませんか?」


男「悪霊を引き寄せる可能性があります」


男「あの暴走を見る限り、普通ではない」


別の女も続ける。


女「そもそも、なぜ突然覚醒したのです?」


主人公「……わかりません」


男「本当にか?」


主人公「本当に知らないです」


責めるような視線。

主人公は居心地の悪さに拳を握った。

青年が口を開く。


青年「少なくとも、嘘はついていない」


男「だが――」


青年「昨日の害霊も、明確にあいつを狙っていた」


部屋が静まる。

当主が目を細めた。


当主「ほう……」


主人公「害霊って、あの女の霊ですか?」


青年「あれは下級悪霊だ」


主人公「下級であれなんですか……?」


青年「上はもっと酷い」


主人公の顔が引きつった。

当主が一枚の札を取り出した。


当主「それに触れてみよ」


主人公は札を受け取る。

薄い紙のはずなのに、妙に冷たかった。

部屋の視線が一斉に集まる。

緊張で喉が渇く。


主人公「……これ、何なんですか?」


当主「霊力を見るための札じゃ」


主人公「見る?」


男「霊力が弱ければ何も起きん」


女「扱える者なら反応する」


青年「暴走してるなら、また別だがな」


主人公「怖いこと言わないでくださいよ……」


主人公が札を握った、その瞬間だった。

ボッ――。

突然、札が青白い炎を上げた。


主人公「っ!?」


主人公は反射的に札を離す。

だが、炎は一瞬で札全体を包み込み――

灰すら残さず、黒い炭となって崩れ落ちた。

静寂。

空気が凍りつく。

霊媒師たちの表情が変わっていた。


「……おい」


「馬鹿な……」


「触れただけで?」


ざわめきが広がる。


主人公「な、何ですか今の!?」


主人公は慌てて自分の手を見る。

怪我はない。

だが、手の奥が熱を持っている気がした。

青年だけが険しい顔をしていた。


青年「霊力を扱えていない」


低い声だった。


青年「制御できてない霊力が、札を勝手に焼いたんだ」


主人公「勝手にって……そんなことあるんですか?」


女「普通はありません」


男「聞いたこともない……」


当主は黙ったまま、主人公を見つめている。

その視線には、警戒と興味の両方が混ざっていた。

やがて、当主はふっと笑った。

その笑みを見た瞬間。

部屋の空気がさらに重くなった気がした。


当主「面白い……」


老人はゆっくりと髭を撫でる。


当主「百年前と同じじゃ」


主人公「……え?」


当主「やはり、“覚醒者”は皆、同じ眼を持つ」


主人公は思わず右目を押さえた。

青い紋様。

あれのことを言っているのだろうか。

部屋にいた霊媒師たちもざわついていた。


「まさか、本当に……」


「そんなことが……」


主人公だけが話についていけない。


主人公「覚醒者って何なんですか……?」


しかし、誰も答えない。

当主は静かに主人公を見つめる。

その目は、まるで何かを確かめるようだった。

やがて当主は口を開く。


当主「お主に選択肢を与えよう」


低く、重い声。


当主「今ここで、儂らの仲間となり霊術を学ぶか――」


一瞬、間が空く。


当主「あるいは、今ここで死ぬか」


主人公は息を呑んだ。


主人公「……は?」


あまりにも突然だった。


主人公「ちょ、ちょっと待ってください!」


主人公は思わず立ち上がる。


主人公「何でそうなるんですか!?」


男「危険だからだ」


女「制御不能の霊力は災害と変わらない」


主人公「僕は何もしてないだろ!」


青年「昨日、悪霊を引き寄せた」


主人公「それは……!」


言い返せなかった。

部屋の空気は本気だった。

冗談を言っている顔ではない。

主人公の背中を冷たい汗が流れる。

青年だけが静かに主人公を見ていた。

試すような目だった。

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