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封印師   作者: ロロ
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4話 封印師 座学

翌日。

蓮夜は屋敷の一室へ呼び出されていた。

畳敷きの部屋。

部屋の中央には低い机が置かれ、その上には筆記用具や古びた巻物が並べられている。

蓮夜は机の前に正座すると、小さく息をついた。


蓮夜「今日は修行じゃないんですか?」


蒼汰「修行だ」


蓮夜「え?」


蒼汰「今日は座学だ」


蒼汰は巻物を広げながら答えた。


蒼汰「実戦ばかりやっても意味がない。知識がなければ死ぬ。」


蓮夜「知識も命に関わるんですね……。」


蒼汰「関わるどころじゃない。」


蒼汰は人差し指を三本立てる。


蒼汰「霊術で必要なのは大きく分けて三つ。」


蒼汰「霊力の操作技術。」


一本目の指を折る。


蒼汰「忍耐力。」


二本目を折る。


蒼汰「そして、想像力だ。」


最後の一本を折った。


蓮夜「想像力?」


蒼汰「ああ。」


蓮夜は首を傾げる。


蓮夜「霊術ってもっとこう……才能とか霊力の量とか、そういうものだと思ってました。」


蒼汰「もちろん霊力の量も大事だ。」



蒼汰「だが、それだけじゃ強くはなれない。」


蒼汰は近くに置いてあった湯呑みを持ち上げた。


蒼汰「例えば、この湯呑みを壊したいとする。」


蓮夜は頷く。


蒼汰「霊力が多くても、壊すイメージが曖昧なら威力は落ちる。」


蒼汰「逆に明確なイメージを持てば、少ない霊力でも効率良く霊術を使える。」


蓮夜「へぇ……。」


蒼汰「まぁ、簡単に言えば、想像力は霊術の上限。」


蒼汰「忍耐力は、その霊術を維持する力。」


蒼汰「そして霊力の操作技術は、それらを正確に発動させるための技術……そんなところだ。」


蓮夜「……そんなところ?」


蒼汰「疑問形だな。」


蓮夜「いや、そこ疑問形なんですか。」


蒼汰は肩をすくめた。


蒼汰「俺たちも霊力や霊術を完璧に理解しているわけじゃない。」


蓮夜「そうなんですか?」


蒼汰「ああ。」


蒼汰は部屋の隅に積まれた古い書物へ目を向ける。


蒼汰「昔は霊力や霊術について詳しく書かれた書物が何冊もあったらしい。」


蒼汰「だが、火事で燃えたり、長い年月で傷んで読めなくなったりしてな。」


蒼汰「肝心な部分がかなり失われてる。」


蓮夜「ダメじゃないですか!?」


蒼汰「ダメだ。」


あっさりと認めた。


蓮夜「そこは否定してくださいよ!」


蒼汰「否定できる事実じゃない。」


蒼汰は苦笑する。


蒼汰「昔は書物より口伝を重視していた流派も多かった。」


蒼汰「師匠から弟子へ直接教える文化だったからな。」


蒼汰「その流派が途絶えれば、知識も一緒に消える。」


蓮夜「もったいない……。」


蒼汰「だから今の霊媒師は、昔の技術を少しずつ復元しながら戦ってる。」


蓮夜「ゲームの攻略本が途中までしかないみたいですね。」


蒼汰「……その例えは妙に分かりやすいな。」


蓮夜は少し笑った。


蒼汰「まぁ、つべこべ言わず覚えろ。」


蒼汰「覚えることは、まだ山ほどある。」


蓮夜「はい、分かりました。」


蓮夜「そういえば、適性みたいなものは無いんですか?」


蒼汰「適性?」


蓮夜「ほら、炎とか、水とか、風とか……そういう属性です。」


蒼汰「ああ、あるぞ。」


蓮夜「あるんですね。」


蒼汰「ただし、一つの属性に縛られるわけじゃない。」


蓮夜「え?」


蒼汰「人にはそれぞれ、生まれつき扱いやすい属性がある。」


蒼汰「それを一般的に"属性適性"と呼ぶ。」


蒼汰「だが、属性はあくまで『扱いやすい』ってだけだ。」


蓮夜「じゃあ、水の適性の人が炎を使うことも?」


蒼汰「できる。」


蓮夜「えっ?」


蒼汰「霊力は想像力によって性質を変えられる。」


蒼汰「炎にも、水にも、風にも、雷にもな。」


蓮夜「そんな自由なんですか……。」


蒼汰「ああ。」


蒼汰は静かに頷く。


蒼汰「だから霊術師に一番必要なのが想像力なんだ。」


蒼汰「想像できないものは形にならない。」


蒼汰「逆に、鮮明に想像できれば霊力はいくらでも姿を変える。」


蒼汰「もちろん、適性のある属性の方が霊力の消費も少なく、威力も安定する。」


蓮夜「だから戦闘では、自分の属性を主軸にするんですね。」


蒼汰「そういうことだ。」


そう言うと蒼汰は人差し指をゆっくりと立てた。

次の瞬間。

ボッ……

指先から蒼色の炎が静かに灯る。


燃えているはずなのに、不思議と熱は感じない。


蓮夜「……綺麗。」


蒼汰「俺は蒼色の炎を主軸に戦う。」


蒼汰は揺らめく炎を見つめながら続ける。


蒼汰「これが俺の属性だ。」


蓮夜「蒼い炎……。」


蒼汰「もちろん、水も雷も使えなくはない。」


蒼汰「だが、同じ霊力を使うなら、この炎が一番強く、一番扱いやすい。」


指先の炎は蒼汰が指を軽く振ると、まるで最初から存在しなかったかのように消えた。


蒼汰「だから戦闘では、自分の適性属性を軸に組み立てる。」


蒼汰「必要に応じて他の属性も織り交ぜる。」


蒼汰「それが霊術師の基本戦術だ。」


蓮夜「なるほど……。」


蓮夜は少し考え込んでから口を開く。


蓮夜「じゃあ、僕の属性もそのうち分かるんですか?」


蒼汰は一瞬だけ黙った。


ほんのわずかだったが、その表情が曇る。


蒼汰「……いや。」


蓮夜「え?」


蒼汰「もう分かってる。」


蓮夜「えっ!? 本当ですか!?」


蓮夜は思わず身を乗り出した。


蓮夜「何なんですか? 炎ですか? 雷ですか? それとも氷とか?」


蒼汰は蓮夜の勢いを受け流すように、小さくため息をつく。


蒼汰「今は教えない。」


蓮夜「えぇっ!?」


蒼汰「今のお前が知ったところで意味はない。」


蓮夜「でも気になります!」


蒼汰「修行を続けろ。」


蓮夜「師匠!」


蒼汰「そのうち嫌でも分かる。」


蓮夜「その言い方だと、余計気になるじゃないですか!」


蒼汰はそれ以上答えなかった。


ただ一瞬だけ、蓮夜の右目へ視線を向ける。


(やっぱり"封印"か……)


(当主の見立ては間違っていなかった。)


その言葉を胸の内にしまい込み、蒼汰は何事もなかったように一枚の紙を机に広げる。

そこにはいくつもの文字が書かれていた。


蒼汰「次は霊についてだ。」


蓮夜は自然と姿勢を正す。


蒼汰「霊は一種類じゃない。」


蒼汰「大きく分けると善霊と害霊。」


蒼汰「さらに害霊の中でも、悪霊、怨霊、呪霊と細かく分類される。」


蓮夜「悪い霊にも種類があるんですか?」


蒼汰「ああ。」


蒼汰は頷く。


蒼汰「悪霊は、人に害を与える霊全般。」


蒼汰「怨霊は、生前の強い恨みを抱えたまま死んだ者。」


蒼汰「呪霊は、人の呪いや負の感情が長い年月をかけて形になった存在だ。」


蓮夜「全部違うんですね……。」


蒼汰「当然だ。」


蒼汰「幽霊にも善い奴と悪い奴がいる。」


蒼汰「人間と同じだ。」


蓮夜「なるほど……。」


蒼汰「だから見つけた霊を片っ端から祓えばいいって話じゃない。」


蒼汰「相手を見極める力も、霊媒師には必要なんだ。」

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