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殺戮王は笑って言った、「俺を殺してくれ」と ~自己犠牲の輪舞~  作者: 遊可くるみ
3章

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手札×疑心(3)

 案内された部屋は全面ガラス張りで、窓の外は水中である。湖に居ないはずのクジラやイルカやカメが泳いでいて、銀色に輝くイワシの群れも見える。時折水鳥が勢いよく水中に飛び込んで狩りをする。


「紅茶でも淹れますね。最近、ローズヒップティーという紅茶を買ったんです。綺麗な赤色の紅茶なんですよ」


 ヨハンは紅茶を淹れるコモモの横顔を眺めていた。コモモは普段糸目だが、集中していると目が開く。ヨハンにはコモモの目が少し赤みがかって見えた。


「赤いですね」


「え?」


「わーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 イザナミは急に席を立ってガラスに張り付いた。子どものようにガラスをべたべた触り、鼻が潰れるほど顔を近づけたりしている。


「ゴルァ! イザナミ! べたべた触るな、手垢が付くだろ!」


「いーじゃん別に。気になるならアルテが拭きなよ」


「なんで俺が掃除しなきゃいけねーんだよ!」


「コモモ喜ぶと思うなー」


「ほ、ほんとか!?」


 コモモはクスリと笑った。


「なんだか仲良し兄弟みたいですね。昔のルイーズさんとアーリィさんのことを思い出します」


 ヨハンとアルテは首を傾げた。


「コモモ、ぺらぺら喋るんじゃねえ」


「いいじゃないですか。仲間同士なんですから」


 コイチは「くだらねえ……」と呟いてそっぽを向いた。


「アーリィさんはルイーズさんのお兄さんなんですよ」


「まじかよ?」


「とーっても仲良しだったんです」


「兄弟喧嘩の原因はなんだったんですか」


「悪魔――」


 飽きもせず魚を眺めていたイザナミの動きがぴたりと止まった。


「"悪魔がやって来たあの日からすべてが狂ってしまった"と、以前ルイーズさんが言っていました」


「コモモ、おめえいい加減にしろよ」


「持っている情報は共有しないと」


 コイチは溜息を吐いて顔を背けた。


「アーリィさんはアルマスさんの能力をモノにしようとしています」


「アルマス様の能力は過去に戻れる能力でしたね」


「ってことは、アーリィの目論見はあれだな。ルイーズ隊長が子どものうちに殺るつもりだぜ」


 コモモは賛同できない様子で首を傾げた。


「うーん……」


「じゃああれだ、本当は殺戮王になんかなりたくなくて、自分以外のやつが殺戮王になるように仕向ける! とか?」


「うーん……」


 イザナミは水中に群生するイソギンチャクやサンゴを眺めて鼻で笑った。


「アルテの脳みそは乾いた海綿みたいなものだから、いくら考えたって無理だってー」


「あ? 誰が乾いた海綿だ?」


「絞ったってなんも出てこない☆」


「殺す」


 イザナミは靴のまま机の上に乗り、コモモの前で胡坐をかいた。


「ゴルァ! イザナミ!」


「ねーねー、どうしてルイは赤目クソ野郎を殺さないの? ボクさっさと殺したい。邪魔だもんアイツ」


「確かに、俺らには手出しさせない割にはいつまで経ってもアーリィを殺らねえな。なんでだ?」


「……」


 鍵盤を叩くように小刻みに机の上を叩いていたヨハンの指先が、ピタリと止まった。


「片方を殺すと片方に災いが起こるとか、もしくは自分たち以外の誰かを巻き込むリスクがあるとか、双方を殺させないように第三者の能力が絡んでいるとか……」


 ヨハンは閃いたように顔を上げた。


「悪魔を殺すと悪魔になってしまうのかもしれません」


 ヨハンは顎に手をあてて、アルテにキメ顔をして見せた。


「なにカッコつけてんだ。探偵気取りかお前は」


「名推理だと思ったんですが、いかがでしょう」


「一理あると思います。もうひとつ考えられることがあるとしたら、アルマスさんにとってアーリィさんが特別な人だと聞いたことがあるので、なにか関係しているんじゃないかと……」


「恋敵ってことか!?」


「"特別"としか聞いていないのでなんとも言えませんが、ああでも、恋敵だとしたら過去改編なんてしたくないですよね」


「……なぜですか?」


「ヨハンさん、好きな人のことを頭に思い浮かべてみてください」


「……」


 ヨハンは顔を真っ赤にして頭頂部から湯気を立てた。


「あらリンゴみたい。からかうつもりはなかったのですよ」


 コモモはヨハンの様子をそれほど気に留めないで話を続けた。


「自分の好きな人が自分以外の人間と幸せになる未来を選びますか?」


「え?」


「過去が変われば未来が変わりますからね」


 ヨハンの頭に真っ先に浮かんだのは屈託のない笑顔を浮かべるローズだった。


 過去に戻って悪魔を倒すと未来が変わる。それは他の人間の人生にも影響するはずである。誰かを幸福にする一方で誰かの幸せを奪うこともあり得るだろう。もちろん今この瞬間も消えてなくなるかもしれない。そして自分にとって大切なものが自分と無関係なものにだってなり得るのだ。


 過去へ戻れたとして、悪魔を倒すことが本当に正しい選択なのだろうか――。


「ヨハン、聞いてんのか、おい」


「すみません、何の話でしたっけ」


「私の能力について話していたところです」


「死後に発動するってだけでヤバそうだぜ!」


「ふふふっ、詳しいことはまだ秘密です」


「それでいうとヨハンの能力も割と代償がデカいよな」


「どんな能力なんですか?」


「死後に発動する能力に比べるとインパクトが薄いですが、この刀を使ったときは身体が幼体化します」


 ヨハンは腰にぶら下げた三本の刀のうちひとつを指さした。


 (幼いヨハンさん絶対可愛い!!!!!!!!!!!)


曇天斬り(アマツカゼ)という能力で生命体以外はなんでも斬れる優れものですが、幼体化すると元の姿に戻るまで時間がかかるので使い時は別途協議させてください」


「そうですね。それぞれの能力の特性や制約、代償を整理しながら作戦を練りましょう」


「アルマス様の能力についてはルイーズ様が既に把握していることがあるかも知れませんので、私の方で確認しておきます」


「ヨハン、くれぐれもフレンドリーにな!」


「頑張りますが、どうも苦手で……」


「ルイーズ隊長、敬語は距離を感じるからやめろって言うんすよ」


「以前ゾロメスタスを結成したときもそうでしたか?」


「いえ、そんなことを言われたことはありませんでした。もしかしたらルイーズさんなりの"裏切らないでほしい"というメッセージなのかもしれません。私とコイチさんがゾロメスタスでなくなったのを根に持っているのかも」


「どうしてお二人はゾロメスタスを去ったのですか」


「私は疲れてしまいました。人殺しなんてしたくありませんでしたし。コイチさんの理由は私も知りたいのですけれど、教えてくれません」


 コイチは何も言わない。


「ボクは残ったよ。ルイが大好きだから」


「お前元ゾロメスタスだったのかよ?!」


「うん。つまりボクが先輩」


「すげー腹立つ」


「まあまあ、皆さん仲良くやりましょう?」


「コモモさんのためなら俺はコイツと仲良くやります」


 コモモはにっこり笑った。


「私は過去に戻れるなら、ルイーズさんにもっと寄り添ってあげたいです。幼い頃から知っていますので」


「ゾロメスタスになる前からですか?」


「ええ。もっとずっと前から……。ルイーズさんがどうか救われますように」


 意味深な台詞にヨハンもアルテも首を傾げたが、コモモはそれ以上何も言わなかった。


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