沈黙×襲来(4)
ドルジャスはローズを脇に抱えて、背中には鎌を背負って木から木へと猛スピードで飛び移っていく。ドルジャスが抱えていたはずのシヴァの姿はない。ヨハンはアルテと共にドルジャスを追った。
「マジでしつこいじゃん」
「ローズ様を返してください!」
「はい無理~」
密林を抜けた場所にドルジャスは着地し、背負った鎌の持ち手に手を掛けてヨハンとアルテを交互に見た。
(こっちの男は強そうじゃん? 隣の男は……)
アルテは腕組みをしてドルジャスを威嚇している。
(特に感想なし)
「おい女! 今俺を見下したろ! コイツ雑魚だとか思ったろ!」
ヨハンは突然声を荒げたアルテを不思議そうに見た。
「どうしたんですか急に」
アルテはドルジャスを指さして興奮した様子で喚いている。
「俺は分かる、分かんだよ女心が!」
(うん。やっぱりマジ大したことない。コイツ雑魚か)
「だあああああああああああああ! まただ! 雑魚だって決めつけやがった!」
「アルテ、落ち着いてください。今はローズ様を無事に奪還することが最優先です」
「うるせえ! おい女! 今に俺の実力を見せつけてやる!」
「うざっ」
アルテの指先はバチバチと電気を帯びている。
「アルテ!」
「分かってるっつってんだろ!」
アルテはドルジャスとの距離を一気に詰めて、ドルジャスの顔を思いきり殴った。
「俺は女でも容赦しねえ」
ドルジャスは血を吐き捨ててアルテを睨みつけた。
「うっざ……」
ドルジャスはローズを放り投げて鎌を手に取った。
「ローズ様!」
ヨハンはローズに駆け寄って保護したが、アルテは戦闘態勢のままでいる。
「あ? やんのか?」
しかしドルジャスは鎌を地面に置いて、自分の両手までも地面についた。
「あ、あの、どうかお願いします!」
「あ?」
「あたし、脅されてただけでヴィダートとは無関係なんです。だから、見逃してくれませんか」
顔を上げたドルジャスは目に涙を浮かべた。
「この通りです、お願いします」
アルテは土下座をするドルジャスの前で身を屈めて、顔を歪めた。
「これだから女ってやつは……。信用ならねえってんだよ!」
アルテはドルジャスの首を掴んで持ち上げた。
「失神不可避!」
ドルジャスの首を掴むアルテの指先に電気が発生し、ドルジャスの全身に流れた。ドルジャスは感電により気絶している。
「泣いてダマせると思うなよクソ女」
ドルジャスの指先が微かに動いた。
「……効いてねえのか?」
アルテが顔を覗き込んだ時、ドルジャスは痺れている手でアルテの顔を掴んでキスをした。
「!?」
「あたし、ドキドキするほど強くなるの」
ドルジャスは甘えるような表情でアルテを見た。
「……あ? 俺に何した」
「ドキドキしたい?」
木の陰からシヴァが飛び出してきてアルテもヨハンも視線を奪われた。潰れていた顔面は元通りになっている。何か攻撃を仕掛けてくるような気配はない。
「アルテ! 前!」
ドルジャスは鎌でアルテを斬りつけようとしたが、アルテは身体を反らせて避けた。
「本気で殺り合う? あたしはいいけど死ぬよ?」
「馬鹿にすんじゃねえクソ女!」
アルテは指先に貯まった電気をバチバチ鳴らしながら高く飛んだ。
「喰らえ! 流雷群」
突如発生した無数の雷がドルジャス目掛けて降り注ぐ。ドルジャスは軽快に雷をかわしていく。
「あんたに女心を教えてあげる」
ドルジャスの鎌は忌々しいオーラに包まれた。
「ドキドキしたい?」
ドルジャスは鎌を握りしめてアルテに突進していく。アルテはドルジャスが振り回す鎌を避けながら反撃のタイミングをうかがっていた。
ドルジャスが真上に投げた鎌をアルテは目で追ったが、鎌が囮だと気付いたときには既に遅かった。アルテは自分に飛び掛かってきたドルジャスを避けきれなかった。
(んだコイツ?!)
ドルジャスからの二度目のキス。
「時を止める接吻」
アルテは鎌を見上げたままフリーズしている。避けたくても目玉すら動かない。能力を発動させることもできない。鎌との距離が縮むほど脈が速くなっていく。
(動けねえ。クソ女、俺に何し……)
アルテは自分の身体が頭部から真っ二つになる悪夢を想像したが、身体が動かない。
ドルジャスは自分の勝利を確信してアルテに背を向けた。その後でドサッと物体を真っ二つにする気味の悪い音がしたがドルジャスは振り返らない。
ドルジャスの目の前にヨハンが立ちはだかっている。ヨハンは片腕でローズを抱き、空いた手でシヴァの胸倉を掴んでいる。
「あんたもドキドキしたい?」
「あなたは人を見る目がないですね」
「は?」
「アルテは雑魚じゃありませんよ」
「雷轟砲」
突如上空に発生した強力な雷がドルジャスを直撃した。
ドルジャスは気を失って倒れ込んだ。ドルジャスの後ろにはドルジャスの鎌が刺さった丸太が転がっている。
「久々に死ぬかと思ったぜ」
アルテは凭れかかるようにしてヨハンの肩に手を置いた。
ヨハンとアルテは軍舎の広場へ戻るため、密林をかき分けるようにして木から木へと軽快に飛び移っていく。ヨハンはローズを抱きかかえていて、アルテは縛り上げたドルジャスとシヴァを肩に担いでいる。
「アルテの超電磁反発の鎧は本当にいい能力ですねえ」
ドルジャスの能力によって身動きが取れなくなったアルテは超電磁反発の鎧を発動させ、自分の脳天に突き刺さろうとしていた鎌をはじき返していたのだ。
ヨハンはふと足を止めた。
「あれ? でもどうして超電磁反発の鎧を発動できたんですか? 身動きが取れなかったのに」
「あの女の能力は対象者の脈が速くなるほど拘束力が増してくって気付いたんだ。深呼吸したときにちょっとだけ拘束力が弱まったからな。だから俺は俺の心臓を止めた」
「まさか自分に失神不可避を?」
「あの状況じゃ失神不可避も使えねえけど(つうかそれやったら俺死ぬ)、常時帯電してる分で軽く電気ショックを起こすくらいなら問題ねえ」
「心臓の筋肉を一時的に硬直させたってわけですか」
「幸い、身体のなかはコントロールが効いたからな」
「咄嗟の判断にあっぱれですね」
「ま、俺が女心を熟知してたってことだ。押してダメなら引いてみろって言うだろ」
「なんだか違う気がしますが、結果オーライです」




