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殺戮王は笑って言った、「俺を殺してくれ」と ~自己犠牲の輪舞~  作者: 遊可くるみ
2章

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沈黙×襲来(3)

 マテイユ帝国直属護衛部隊の軍舎の広場には総勢五百名余りの軍人が揃い、一糸乱れぬ動きで敬礼をした。


 進行役の軍人は胸を張ってマイクに口を近づけた。


「それでは、マテイユ帝国直属護衛部隊最高司令官マルクス=フィーゴ様よりご挨拶をいただきます」


 軍人は敬礼をしたままの姿勢を崩さずに、登壇するマルクスに真っ直ぐな視線を向けた。屈強な身体に鋭い眼差し、圧倒的威圧感。最高司令官という名に相応しい男である。


「諸君、任務ご苦労。憎き殺戮王・アーリィによる死者数が遂に十万人を超えた。我々はアーリィ及びアーリィ率いるヴィダートを根絶やしにし、一刻も早くマテイユ帝国に平和を齎さなければならない。そこで、かつてアーリィ討伐のために結成されていた特殊部隊・ゾロメスタスを再結成することにした。隊長を含めた四名を選出する。アーリィとヴィダートを討て! 奴らを"殲滅"しろ!」


 マルクスの気迫に一同は息を呑んだ。


「我が軍は国民の為に在り! 誇り高き戦士である!」


 軍人は右足を踏み鳴らし、「イエッサー」と雄々しく返事をした。


 司会役は再びマイクに顔を近付けた。


「それではゾロメスタスの隊長並びに隊員の任命式を行います。名前を呼ばれた軍人は登壇ください。ゾロメスタス隊長・ルイーズ=サンデル殿、隊員・ヨハン=シャデリック殿、隊員・アルテ=ハンテット殿、隊員・イザナミ=イシュケリオット殿、以上」


 好青年という言葉が似合うヨハンと、いかにも軍人らしい体格をした強面のアルテが登壇し、敬礼した。アルテの右手中指には幅の太い金色の指輪がはめられている。イザナミの姿はない。


「イザナミ=イシュケリオット殿――……」


「はーい!」


 イザナミは呑気に木の上に座っている。


「遅刻とみなすぞ」


「今行くってばー」


 マルクスは上空を見上げて殺気立ち、叫んだ。


「上空に敵! 第一、第二、第三、陣形ロゼット! 敵に備えよ!」


 軍人は各隊の隊長の号令に従って即座に陣形を変えていく。


 陣形が整う前に敵は上空より降り立った。目を開けていられないほどの砂埃が舞った。

 イザナミは「うー、レンズがずれる」と言いながら両手で顔を覆った。


 砂埃の中に人影が三体。ルイーズは銃を構えた。


 全身を黒いマントで覆いフードを深くかぶった男・アコマノはマントの中に両手を隠している。着丈が膝上十センチくらいの黒い着物を着た女・ドルジャスは長い巻き髪を風に(なび)かせている。少年・シヴァはベレー帽をかぶって背中に大きな鎌を背負っている。


「ローズ様!」


 ドルジャスの腕に抱かれているのは、眠ったローズ。


「この子を人質にするのがイチバンってアーリィ様に聞いて」


 ドルジャスは茶目っ気いっぱいに舌を出した。


 ルイーズはドルジャスに銃口を向けた。


「ヴィダートか」


「あんた見たことある。ご無沙汰じゃん?」


磁力大暴走(ネオジムクラッシュ)!」


「!?」


 どこからか豪速で飛んできた鉄球がシヴァの顔面を潰して血しぶきが噴き出した。


 同時にルイーズは三回、高速で銃の引き金を引いた。


「束縛の弾」


 顔面が潰れたシヴァもシヴァへの攻撃に気を取られていたドルジャスとアコマノもルイーズの銃から放たれたワイヤーによって捕らえられた。


 ヨハンとアルテは捕らわれた三人の背後に立ち、ヨハンは刀を抜いてアコマノの喉元に刃をあてた。アルテはドルジャスの喉元に刃をあてている。シヴァは顎から血を滴らせながら俯いている。


 アコマノはシヴァの顔を覗いた。


「シヴァの顔ひどいですねぇ」


 シヴァの顔の骨は粉砕しており、所々腫れて血が滲んだり、流血したりしている。


「不快、失態、醜態、大体鎌重い」


 顔面を潰されたシヴァの容姿は少年だが声は太く落ち着き払っている。


「はーあ? なんであたしの鎌のせいにしてんの」


「我儘、自己中、不平不満も我慢」


「鎌ショったくらいでケガしてんのは反射神経が鈍いあんたのせいじゃん」


「無情、非情、実に無神経」


「は? うざ」


 ルイーズは再びドルジャスに銃口を向けた。


「ローズをこちらに渡せ」


「拘束されてて無理~」


 アコマノは弧を描いたような目でルイーズを見た。


「あなたじゃないですねぇ」


「?」


「後ろの二人でもない」


 アコマノの全身を禍々しいオーラが覆い始めた。


「誰です? シヴァをやったのは」


 アコマノはニコニコしながら「誰です?」と繰り返した。



 地鳴りがした直後に地面が割れて、マグマが勢いよく噴き出した。


「誰です?」


「ヨハン、アルテ、そいつらから離れるんだ!」


 ヨハンとアルテが十数メートル後方へ跳んだとき、捕らわれている三人を囲むように地割れが走り、マグマが噴出した。そして三人はそのままマグマ溜まりに落ちていった。


 数秒後、三人が落ちていったマグマ溜まりから再びマグマが噴出し、同時にアコマノがマグマの中から飛び出した。両手はマントの下に隠れたままだが、巻き付けたワイヤーからは解放されている。続けて飛び出したドルジャスは両脇にローズとシヴァを抱えたまま後方の森に進路を変えて逃げていった。


「ルイーズ様! 私はローズ様を追います!」


 ヨハンはルイーズの返事を待たずに、ローズを抱えて逃げたドルジャスの背中を追っていた。


「アルテ、君もヨハンと行ってくれ!」


「おう!」


 アコマノは上空からルイーズ目掛けて一直線に降下していく。アコマノの加速とともにマントが捲れて、マントの下に隠れていた両手が露になった。


「鬼……?」


 赤黒い鱗を纏ったような皮膚、筋肉質な腕、人の顔を容易に掴めるほどの大きな手、鋭利な爪、それは鬼と例えるほかに言葉が見つからなかった。


 アコマノは鬼の手を広げてルイーズの首を狩る構えをした。


 ルイーズも銃を抜いてアコマノの頭に狙いを定めた。


「ルイから離れやがれーっ!」


 真横から飛んできた戦車がアコマノに直撃した。


「ルイに触るなんて百年早い☆」


 アコマノは戦車が飛んできた方角を見た。


 木の頂に立っている青年・イザナミは両手を上げ、手の上に戦車を乗せている。紫色の瞳をしたイザナミは色白で華奢でいかにも不健康そうだ。


「バーカバーカ」


 イザナミは戦車を持ち上げたまま軽快に着地した。


「ルイ、あのマントくん殺していい? いいよね?」


 イザナミはルイーズの返事を待たずにアコマノに向かって戦車を投げた。アコマノは正面から鬼の手で戦車を受け止めた。


 ゴゴゴゴゴゴゴ……と地鳴りが聞こえる。


「あなたですねぇ、シヴァをやったのは」


 アコマノの前後に横たわる戦車はカタカタ揺れ始めた。戦車の下に地割れが走り、隙間からマグマが噴出した。戦車はマグマの熱により、いとも簡単に溶けてしまった。


「ルイの邪魔する奴は全員死んで☆ 磁力大暴走!」


 イザナミの手の平に引き寄せられるように、マグマに溶かされた戦車が動き出し、アコマノは戦車と戦車に挟まれた。


「マントくん思ってたより強いねー」


 アコマノは戦車に潰されず、鬼の両腕で自分を押しつぶそうとする戦車を押し返している。


「許さないですよ、許さないです」


 アコマノは勢いよく噴出したマグマに押し上げられて上空へ跳んだ。戦車同士は磁石のように引き付け合った後で、原形もなくなるほどにマグマに溶かされた。


 アコマノはマグマが冷えて固まった小さな丘に着地してルイーズを見た。


 マルクスは声を上げた。


「全軍、マントの男を撃て!」


 アコマノはマントで身を包んだ。


「…………許さないですよ」


 無数の銃弾がアコマノ目掛けて飛んでいく。


 アコマノは高く跳んでマントを翻し、弧を描いていた目を見開いた。


踊る火柱(キラウエアダンス)


 軍隊が陣を取っていた真下から無数のマグマ柱がランダムに噴出した。軍人は次々とマグマ柱に喰われていく。ジュッという音がした瞬間に蒸発して消える者、身体の一部が焼損した者、重度の火傷で皮膚がただれる者、痛みに声を上げてのたうち回るものもいる。


 アコマノはマグマ柱を軽快に交わしながら、鋭い爪が伸びた鬼の手で軍人の喉元や身体を切り裂いていく。


 ルイーズは木の頂から惨劇を眺めていた。同じ木の枝に腰かけていたイザナミはルイーズを見上げた。


「ここはイザナミに任せていいかな」


「うん! ルイのためなら、ボク、なんだってする」


 イザナミは無邪気に笑った。


 イザナミは両手を空に向けた。手の平に纏ったオーラに引き付けられるように鉄くずや廃材などがあちこちから集まってくる。そして鉄塊は鉄球に変形した。


「マントくん、こっちこっちー!」


 豪速の鉄球がアコマノの背中に直撃した。


「ぐはあっ」


 アコマノがひるむと、マグマ柱の噴出がぴたりと止んだ。


「ストラーイク☆」


 イザナミは数個の鉄球を抱えてウインクをした。そして鉄球を掴んだ右手を大きく振りかぶり、アコマノ目掛けて豪速球を投げ放った。


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