沈黙×襲来(2)
ルイーズは軍人のピコ=ララントを従えて、アルマスの石像を脇に抱えて草木を掻き分けていく。少し拓けた場所に、樹齢数千年はとうに超えたであろう大木が現れた。ルイーズは放射線状に広がる大木の根っこを跨いで、大木の根元にアルマスの石像を下ろした。
ピコは欠伸をしながら細長い両腕を引っ張り上げるように伸びをした。ピコは常時笑っているような垂れた目をしていて、新緑を映したような瞳がちらりと覗いている。
「本当にいいんですかー? 見えないところに隠しちゃってー」
「うん。誰にも見つけられない所に頼むよ」
「ルイーズ様がいいなら、いいんですけどねー。寂しくなりませんかー?」
「アーリィに見つかるのが一番困る。早くやってくれ」
「ルイーズ様の命とあればなんなりとー。それじゃいっきますよー」
ピコは両手の手の平にオーラを纏って力を込めた。
「大地讃頌」
大木がめきめきと音を立てて、植物の蔓が伸びて、蔦が地を這って、アルマスの石像に向かって伸びていく。石像に絡みついた蔓や蔦が石像を大木に引き寄せていく。石像は蔓や蔦に絡まれながら、大木の幹に呑み込まれていく。――そして見えなくなった。大木は先程と変わらない姿で堂々と聳えている。
ルイーズは大木の木肌にそっと手を添えた。
「……」
ピコはルイーズの隣に軽快に移動して大木に耳をぴったりと付けた。
「おー聞こえますねー」
「僕にはなにも聞こえないけど?」
「えー? 聞こえますよー」
ルイーズは首を傾げた。
「アルマスの声?」
「違いますよー。樹の鼓動でー……」
大木の枝にとまっていた鳥たちが一斉に羽ばたいた。
同時にピコはルイーズに覆いかぶさった。ピコの口からは血が流れている。ピコの背中に刺さった矢は心臓を貫通している。
ルイーズは周りを警戒しながらピコの身体から矢を抜いた。
気配を感じて振り返ると、アーリィが木の枝に足を引っかけて、蝙蝠のように逆さまになってぶら下がっている。ルイーズは銃を抜いて銃口を標的に向けた。
「なーにしてたの?」
ルイーズはピコの呼吸を確認した。まだ息がある。
「アルマスの匂いがする。どこに隠したの?」
アーリィが弓を引くような構えをすると禍々しいオーラを放った矢が浮き上がった。矢尻が赤く燃えている。矢先はルイーズではなく、ルイーズの背後で横たわるピコに向いている。
「やめるんだ。彼はもう死んでる」
「なーら尚更問題ないよね? 業火の矢」
「閃光の弾」
アーリィが燃える矢を放ったのと同時にルイーズも引き金を引いた。
放たれた矢はピコ目掛けて直進していく。同時にルイーズの銃口からは帯状の閃光が真っ直ぐ伸びていく。アーリィは閃光を避けて木の枝から飛び降りた。
誤算だったのはルイーズのほうである。下方に直進していた矢はピコに届く数メートル手前で急速に高度を上げて大木に突き刺さった。アーリィはその矢を目印にして、続けざまに数十本の矢を放った。
轟々と燃える矢が連なり、突如大爆発が起きた。ルイーズは爆風を避けるようにピコを抱えて後方に飛んだ。
「……!」
ルイーズは大木の元へ急いだ。しかし激しく燃える炎のせいで近づけない。大木の木肌は乾いていき、幹は水分を失って脆くなっていく。ルイーズは呆然と見ていることしかできない。
暫くして炎は鎮火した。
ルイーズは大木に駆け寄り、必死の形相で焼け焦げた大木の表皮を剥がしていく。
「もしかしてアルマスまで燃やしちゃった?」
ルイーズは黙々と大木の表皮を剥がしている。
「ねーね、聞いてんのー?」
ルイーズは銃を抜いてアーリィに向けた。
「そーれ無意味だって」
「束縛の弾」
ルイーズは引き金を引いた。細いワイヤーのような閃光が伸びていく。
アーリィはワイヤーを避けようとしたが、知らぬ間に足に巻き付いていた蔦のせいで身動きが取れない。アーリィの足に蔦を巻き付けたのはまだ微かに息をしているピコであった。ピコは力を振り絞るようにして大地にオーラを送っている。
ワイヤーはルイーズの思惑通りにアーリィの首に巻き付いて、ギリギリと絞めつけていく。
アーリィはにっこり笑った。
「やーッと死ねる。この時をどれだけ待ち望んだか。なあ、ルイ?」
「……」
「さーさ、俺を殺してくれ」
アーリィの首に巻き付いたワイヤーが消え、絞めつけた痕だけが痛々しく残った。
アーリィは再び矢を構えて、力尽きたピコに狙いを定めて放ったが、矢はルイーズの銃弾に撃ち落された。
「いい加減にしろ」
「お前が俺を殺さないと、お前の部下も国民もどんどん死ぬ」
アーリィはルイーズと距離を取って耳を澄ませた。こちらへ向かって来る複数の足音が聞こえる。
「俺を殺せよ、弱虫」
「……」
ルイーズの表情が曇ったのと同時に突風が吹いた。
ルイーズが目を開けた時には、アーリィの姿は消えていた。
「……さま」
ピコはまだ息をしている。ルイーズは跪いてピコを抱きかかえた。
「ルイーズ様…………」
「医療班を呼んでる。喋るな」
「アルマス様はご無事です」
ピコはゆっくりと目を閉じた。




