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殺戮王は笑って言った、「俺を殺してくれ」と ~自己犠牲の輪舞~  作者: 遊可くるみ
14章

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花言葉×弱虫(1)

 ローズは冷たい床の上で目を覚ましたが、話し声がしたので、起き上がらずに耳を澄ませて、気付かれないように視線を移した。


 アーリィは業火の矢を構えていて、その先にはベッドから起き上がったアルマスがいる。


「もう逃がさないよ。母さん」


「さっきから何を言ってるの?」


「父さんが死んでから母さんはおかしくなった。俺には優しくして、何故かルイにだけキツく当たった。そして突然姿をくらました。お嬢さんからシナリオ再構成のことを聞いて全部が繋がったよ。これ、母さんの部屋にも置いてあった」


 アーリィは天使の羽が生えた小瓶をアルマスに見せた。


「シナリオ再構成で父さんを生き返らせようとしてるんだろ」


 昔のことでもちゃんと覚えている。父親が生きていたときは毎日が楽しかった。母親は父親のことが大好きだった。とても仲の良い家族だった。みんなよく笑っていた。赤ん坊だったルイーズもよく笑っていた。


「五歳くらいのときにルイと二人きりになって毎日生きるのに必死だった。ゴミを漁ったり物乞いしたり盗んだり。本当に必死だった」


 いつだって空腹で、靴底がすり減って穴が開いた靴を履いて、軽すぎる弟を背負って街を徘徊していた。


「それだけ放っておいたのにどうして急に現れたんだよ。十六歳になった俺たちの前に」


「……」


「本当の目的はなんなんだ」


「何度やってもお父さんは生き返らなかった。でも、会いたくて会いたくて。もう一度、たった一回でいいから抱きしめてほしかった」


 アルマスは泣いていた。


「父さんを生き返らせるために俺たちの前に現れたの?」


「何百回と試したけど上手くいかなくて、もうおかしくなりそうで。でも、ある時気付いたの――」


 アルマスは涙を浮かべた目でアーリィを見た。


「あなた、お父さんにそっくりだって」


「……」


 アルマスは夫が死んだときのことを思い出していた。アーリィが何度も故人の身体を揺すって「起きて、起きてよ」と言った。その姿が何故か寝坊する自分を呆れもせず起こし続けてくれた夫と重なったのだった。


「だからあなたとやり直せばいいんだって思った」


「そんなの滅茶苦茶だ!」


「それでも、そうじゃないと、おかしくなりそうで。……ごめんなさい」


「容姿は? 未来から来たなら、出会ったときから俺たちよりもずっと大人びてたっておかしくない」


「昔、ゾロメスタスに居たロクシイの能力で若くしてもらったわ」


「どーしてそこまでして」


「あなたのことが好きだから」


「……」


「許して」


 業火の矢の炎が轟々と燃え出した。


「ルイにだけキツくあたった理由は?」


「ルイの目を見るたびに、あの人を救えなかった自分を思い出してしまうの。あの人と同じ深い青色の目で見つめられると胸が苦しくなって。抱き締めたくても、抱きしめられなくて」


「……」


「そのうちにルイを遠ざけるようになった。ルイには本当に申し訳ないことをしたと思ってる」


「いい加減にしろよ……」


「弱くてごめんなさい。ダメなお母さんを許して」


 アーリィは業火の矢を消してアルマスの元へ歩いた。


「あなたとやり直したいの」


「今までどんな思いで」


 アーリィはアルマスの胸倉を掴んだ。


「どんな思いでルイがアルマスの幸せを願ってきたと思ってるんだ」


「でも私……本当に、あなたのことしか愛せない」


「愛せない? ふざけるな」


 アーリィは怒りで震えていた。


「軽々しく、愛するとか、愛せないとか言うなよ! そういうものじゃないだろ! 中途半端な覚悟で、無力で、無知な子どもを育てようと思うなよ! ばかやろう!」


 ローズは起き上がってアルマスを見た。


「ローズ、起きたのね」


「お母様……。私、間違ってた」


「?」


「招き巫女の印」


 ローズはアルマスに憑依した。



 アーリィはローズが憑依したアルマスと対面していた。


「やってくれるんだね。俺の計画」


「でも、もし再構成成功(テストクリア)になったら」


「もしかして俺の心配してる? 俺は平気だよ。第一、俺が計画したことなんだから」


「怖くないの?」


 アーリィは力が抜けたように笑った。


「殺戮王に怖いものなんてないよ」


 ローズが憑依したアルマスはふと、閃いたような顔をした。


「そうだ、遺言。遺言は?」


「別に俺、死ぬわけじゃないんだけど」


「じゃあ伝言。伝えたいことあるでしょ?」


「ないない、そんなもの。どーせ全部なかったことになるんだし」


「それでも伝えないと絶対後悔するよ。私、後悔してる人知ってるもん」


「うーん」


「恥ずかしがらないで、ちゃんと伝えて」


「諦めが悪いのは母親似だな……」


「なんでもいいから!」


「はいはい、分かった」


 アーリィはローズが憑依したアルマスの耳元で囁いた。


「――――」


「それだけ?」


「失礼だね。十分すぎるメッセージだと思うけど?」


「分かった。じゃあ、行ってくる」


 ローズが憑依したアルマスは意気込んだあとで、天使の羽が生えた小瓶を両手で包んだ途端に躊躇し始めた。


「?」


「ちょっと……怖くなっちゃった……」


「上手く行くかって?」


「望まれてなかったらどうしようって」


「怖がったって、なーんも変わんないし、なーんも始まらないだろ。弱虫ローズ」


「私は弱虫なんかじゃない!」


 アーリィはにこにこしている。


 ローズが憑依したアルマスは深呼吸をして、祈るように天使の羽が生えた小瓶を握った。


「シナリオ再構成」


 ローズが憑依したアルマスは気を失って再びベッドに寝転んだ。


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