赤目×告白(3)
コイチの一撃で大広間の壁は破壊された。壁に空いた大きな穴の向こうにはアルマスとアーリィが居る。
「アルマス!」
コイチの背後から飛び出したルイーズは一目散にアルマスの元へ向かった。
「待てルイ! 囮かもしれねえだろうが!」
「とーんで火に入る夏の虫♪」
「……!」
アーリィは印を結んだ。
「六芒星の印」
ルイーズ、コイチ、イザナミの足元にそれぞれ赤い六芒星が浮かび、六芒星の頂点が繋がって六角形が浮かび上がり、光り出した。イザナミは真っ先に逃れようとしたが、見えない壁に跳ね返されて六角形の外に出ることができない。
「さーてと。まずは宿題を片付けなくちゃね」
アーリィは先程と違う印を結んで暴風の印と呟いた。
コイチが砕いた壁の欠片が舞うほどの暴風が吹き荒れる。アルマスはその場に立っていられず、地を這いながら、暴風の被害が少なさそうな壁の後ろに避難した。
「アーリィ、何のつもりだ」
砂埃が目に入るので目を開けていられない。
「見てないでいーの? アルマスが殺されちゃうかもしれないのに」
「アーリィ……君ってやつは、本当に……」
ルイーズは銃を抜いて発砲したが、六角形のなかでは意味がないようである。
「ああ!」
イザナミが声を上げた。
「イザナミどうした!」
「ううん、なんでもない。目にゴミが入っただけ」
イザナミは片目を押さえている。
暴風が治まった。
「ルイ、お前には残酷な結末が待ってる」
「なんだよ急に」
「お前の愛が偽物だったらいーのにね。それじゃ」
「待て!」
ルイーズは声を上げたが、アーリィは姿を消した。
「アーリィはどこ」
「分からない。アーリィに何もされてないかい?」
「深い傷を負ったわ」
「傷を見せて」
アルマスは胸に手をあてて俯いている。
「諦めが悪くて何がいけないのかしら」
「アルマス……?」
「ルイ許して」
顔を上げたアルマスは号泣していた。
「それでも私、諦められない」
「行くなアルマス! 僕の目が届くところに」
ルイーズの声は届かず、アルマスは走って行った。
ルイーズとコイチは何度も何度も拳で見えない壁を突いたが、手を痛めるばかりでヒビすら入らない。イザナミは片目を手で覆ったまま立ち尽くしている。色白の肌は青みがかり、こめかみからは冷や汗が噴き出して顎から滴っている。
「イザナミ?」
「……ルイ、ここから抜け出したい?」
「何か策があるのかい?」
「六芒星の印を解かないと赤目クソ野郎に殺される。六芒星の印を解けば醜くなって焼き尽くされる」
「?」
イザナミはルイーズを見た。
「ルイ、それでもボクを好きでいてくれる?」
「……」
「そうだ。まずはボクがルイを信じなくちゃ」
「イザナミ……その目……」
「さっきレンズを落としちゃって……。ヘンだよね」
イザナミの片目が赤色になっている。
「ボクのこと好きでいてね。絶対だよ。約束だよ」
イザナミは印を結んで目を見開いた。
「反故の印」
六芒星が強く光り出し、全員の足元から真上に向かって強風が吹き抜けた。
「……」
風が止んだ。六芒星は消え、見えない壁もなくなっている。
「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」
獣が唸るような声がして振り向くと、イザナミの顔や全身に硬く黒い毛が生えていき、背丈は約二メートルになり、筋肉が増幅し、鋭い爪が伸び、頭部には立派な角が生えた。山羊のような姿をした魔獣である。
「!?」
ルイーズは身を震わせて腰を抜かした。
変わり果てたイザナミを見て脳裏に甦るのは、激しい雨、悪魔、心臓を貫かれた兄、アルマスの叫び声――、あの日の惨劇。
イザナミは雄叫びをあげながらコイチに襲い掛かった。イザナミが振り下ろした腕はコイチに命中せずに地面を割った。イザナミの攻撃は素早く、威力も大きい。イザナミは割れた地面の破片を投げてコイチの逃げ道を塞ぎ、行き場を失ったコイチの腹部に一撃を喰らわせた。
「ぐはっ……」
コイチは吐血して動かなくなった。イザナミがコイチに向かって再び拳を振り上げた時、イザナミの頭に銃弾が当たり、イザナミは後方を向いた。銃弾はイザナミの頭を貫通せず硬い毛に弾かれた。
ルイーズは震える手で銃を握り、銃口をイザナミに向けている。
「イザナミ……君、君が悪魔なのかい?」
イザナミは雄叫びをあげて今度はルイーズに襲い掛かった。ルイーズが何発発砲しても硬い毛に弾かれてしまい、ダメージを与えることができない。
ルイーズは洋館の外へ移動した。イザナミは追いかけて来たが、洋館の外までは追いかけてこない。
「どうして来ない」
ルイーズは銃のダイヤルを回して再び銃をイザナミに向けた。放たれたワイヤーはイザナミの足首に巻き付いた。ルイーズは歯を食いしばって力いっぱいにワイヤーを手繰っていく。手に巻き付けたワイヤーは食い込み、皮膚を切って血が流れ出している。
イザナミはバランスを崩して転倒した。
「ヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
ワイヤーに引っ張られて太陽に照らされた足元が燃えている。イザナミは燃える足を日陰へ引っ込めてワイヤーを千切り、洋館の中へ消えていった。




