救世主×真意(3)
ヴィダートは廃墟になった洋館に仮宿を移していた。大広間には暖炉が燃えていて、暖炉の前には首輪をはめたアルマスが座っている。見張り役のドルジャスはソファの上に寝転んでいる。
「あんたの能力があればアーリィ様の願いが叶うんでしょ?」
「……」
ドルジャスは起き上がってアルマスを見た。
「アーリィ様、悪魔を倒すつもりなんじゃん? だってさ、過去に戻りたいってことは未来を変えたいってことじゃん。そうなんだよ、そうでもしないと未来変わんないんだよ」
ドルジャスはアルマスの目の前に移動して、アルマスの胸倉を掴んだ。
「あんたは何を企んでんの?」
「何の話?」
「アーリィ様を誑かして、何企んでんだって聞いてんだよ!」
「私は……」
アルマスは言葉に詰まって泣き出した。
「あたしに女の涙は効かねーっての」
ドルジャスは置いていた鎌を持って、鎌の刃をアルマスに向けた。
「あんたが居なかったら全部上手くいくんだよ。邪魔なんだよ! 自分の存在がアーリィ様を不幸にしてることにいい加減気付け!」
ドルジャスは鎌を握る手にオーラを込めた。
「死神代行」
アルマスの目の前に0という数字が浮かんだ。ドルジャスは手の平を上に向けて人差し指を伸ばし、指先に鎌を立てるように乗せた。アルマスは身構えたが、特に何も起こらない。
一分後、数字は1になった。
「一分=一年。記録を伸ばせば伸ばすほど、あんたの寿命が短くなる。ちなみに最高記録は五十二分。結構ムズいんだよね」
アルマスはドルジャスから鎌を奪おうとして身を乗り出したが、ドルジャスは軽快にかわした。鎌は指の上で安定している。
アルマスは椅子から立ち上がり、部屋を出て行った。
「は? 脱走とか無理ゲ―じゃん?」
アルマスには首輪が付いているので廃墟からそう簡単に脱走できないはずだが、見張りを任されている以上、アルマスに何かあっても困る。ドルジャスは指先に鎌を立てたままアルマスを追いかけようとした。
「!?」
ふっと指先が軽くなった。鎌が無くなっている。気配がして振り返ると、背後にはドルジャスの鎌を振り下ろすアルマスが居た。首輪はつけていない。
唖然とするドルジャスの顔に血が降りかかった。
「今のがもうひとつの能力だね? アルマス」
アーリィはドルジャスを庇うように片手で鎌の刃を掴み、反対の手で、首輪をつけたアルマスの腕を掴んでいる。鎌の刃を掴んでいる手には刃が食い込んでいて、切り口から血が滴っている。
ドルジャスに鎌を振り下ろしていたアルマスはいつの間にか姿を消していた。
「やーっぱり、同じ空間に二人は存在できないんだ」
「どうして……」
「過去を覗く能力と、過去を変える能力を使い分けてるんだろ」
「……」
「さ、あの日に連れて行ってよ」
「あなたの目的を聞くまであの日には連れて行けない」
「言ったろ? 悪魔と再契約するんだって」
血塗れになったアーリィの手首をドルジャスが掴んだ。
「アーリィ様、お願い。……行かないで」
「なーに駄々こねてるの?」
「過去が変わったらあたしとの関係もなくなっちゃうんでしょ」
「それでいい。俺のことは忘れるんだ」
「あたしはアーリィ様のことが好きで、超好きで、苦しいけど、このままがいい」
「いいかいドルジャス。お前にとって俺が特別でも、俺にとってお前は特別じゃない。俺の前ではみーんな平等。たった一人を除いてね」
「特別なのはその女でしょ?」
「いーや? 俺はアルマスが死んでも何とも思わないよ。仮に今、目の前で死んでも」
アルマスはアーリィに詰め寄った。
「今の話、本当なのね? 私が死んでも、なんとも思わないって」
「いつまでも過去に囚われちゃいけない。諦め悪いと幸せ逃げちゃうよー?」
パシン――と音がした。アルマスがアーリィの頬を思いきり引っ叩いた。
「諦め悪くて何がいけないの?」
「どーして怒ってるの?」
「私は絶対Xを探し出す。そして必ず未来を変えて見せるわ」
「それじゃ取引しよう」
「?」
「Xが前に言ってた"四人目"なんだろ? Xの正体は俺が教えてあげる」
「正体を突き止めたの?」
アーリィはにっこり笑った。
「あなたはXの情報と引き換えに何が欲しいの」
「君が俺に隠し続けてきた能力のすべてを教えてほしい」
ドゴォンと何かを破壊するような大きな音がして、建物が揺れた。
「地上と上空から奇襲をかけるなんて、イイシュミしてるね」
「なんか多くない?」
「上空のは俺が射ち落とすから、後始末はドルジャスにお願いしようかな」
「おけまるー」
「アルマスはここにいるんだよ。お土産を持って来るから、少しの間良い子で待っててね」
またドゴォンと音がした。先程よりも近い。破壊音が段々と近づいてくる




