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殺戮王は笑って言った、「俺を殺してくれ」と ~自己犠牲の輪舞~  作者: 遊可くるみ
10章

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救世主×真意(2)

 ローズはベッドの上で目を覚ました。顔の上に、水滴がポタポタと落ちて来る。


「ああ、よかった! ご気分はいかがですか?」


 泣きながら顔を覗き込んでいるのはヨハンだった。


「うん」


「本当によかったです。ご無事で何よりです」


 ヨハンはローズを抱きしめた。


「お母様は?」


「アーリィに攫われたようですので、今、ルイーズ様が救助に向かっています」


「ねえヨハン」


「はい」


「アーリィって本当に悪い人なの?」


「アーリィは殺戮王と呼ばれる大罪人です。無差別に大量殺人をした罪だけでも数えきれませんが、悪魔と手を組んで世界に破滅を齎そうとしているんです」


「でもお母様が大切な人だって言ってた。殺しちゃダメだって」


「……」


「それに、アーリィを殺さなくてもマテイユ帝国を救えるから」


「?」


「お母様と約束したの。私が救世主になるって」


 ローズは嬉しそうに笑った。


「救世主……とは、どういうことですか?」


「あのね」


 ローズはアルマスに叩き込まれたシナリオを洗いざらい話し始めた。


 招き巫女の印でアルマスに憑依して過去にタイムリープする。タイムリープしたあとで、鞄にナイフを忍ばせておくことを忘れてはいけない。いつものように学校へ行き、Xと二人きりになる機会を作る。Xと二人きりになったらタイミングを見計らい、ナイフでXを刺し殺す。


「これでね、みんなを救えるんだよ」


「……」


 ローズの話を聞いてヨハンが抱いた率直な感想は「ローズに人殺しはできないだろうから計画は失敗する」ということだが、そんなことを言えば意地でも計画を遂行しかねないのでヨハンは静かに頷いた。


「マテイユ帝国を救えるの!」


 ローズは目を輝かせた。


「Xとは誰なんでしょうか」


「知らない。でもXが悪魔を呼んだんだって」


「アルマス様がそう言ったんですか?」


「うん」


 散らばっていた情報が少しずつ繋がっていく。ルイーズは「僕は誰かの存在を忘れている」「僕らと一緒に居たのは誰だ?」などと言っていた。その点で「Xが悪魔を呼んだ」というアルマスの証言と一致している。


 Xとは一体誰なのか? 本当にXを殺すことが最善の選択なのだろうか? いや違う。このシナリオには大きな落とし穴がある。ローズが人殺しをできなかったとしても、何が起こるか分からない。最悪の事態を想定して、どうにかしてこの計画を止めなければならない。


「ローズ様が救世主になる必要などありません」


「どうして?」


「マテイユ帝国を救っても――」



 "その未来には、あなたがいないのです。"



「ヨハン?」


「も、申し訳ありません。考え事をしていました」


「お母様のところに連れてって」


 ミライカの能力・(シオリ)を使えばアルマスの居場所を特定するのは容易だが、再会したタイミングでXの正体が明らかになっていた場合、ローズは招き巫女の印を発動させてしまうかも知れない。できるだけローズとアルマスの接触を避けて、その間にアルマスの目的を明らかにして対処する必要がある。


「ローズ様を連れていくわけにはいきません」


「分かった」


「えっ?」


「いいよ。私には強い味方がいるから、一人でも大丈夫」


 ローズは首にかけていた勾玉の形をした笛を握った。


 ヨハンにはそれが何か分からなかったが、ローズの真っ直ぐな眼差しからは揺るがない意思を感じる。このまま置いていったとしても一人でアルマスを見つけ出してしまうような気がした。そうなってしまえばアルマスの計画を阻止する手立てがない。


「……分かりました。一緒に行きましょう」


「やったー!」


 ローズは自分の小指をヨハンの小指に絡めた。


「指切りげんまん嘘ついたら二度と口きーかないっ」


 部屋がノックされ、両目に包帯を巻きつけたアルテが入って来た。


「ヨハン。行くぞ」


「アルテ、その、ローズ様も一緒に……」


「お前今、不安な顔でもしてんだろ」


「?」


「お前はいつも深く考えすぎだ」


「……」


「守り抜こうぜ。ちなみに俺は子守も得意だから任せとけ」


 アルテは親指を立てて白い歯を見せた。


「ローズ様は私の命に代えてもお守りします」


「ヨハン、アルテ、ありがとう!」


 ローズはヨハンとアルテと手を繋いで部屋を出て行った。


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