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殺戮王は笑って言った、「俺を殺してくれ」と ~自己犠牲の輪舞~  作者: 遊可くるみ
7章

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仇討×代償(2)

 窓のない真っ白な部屋。照明が白い壁や床に反射して室内はとても明るい。


 白い天井に穴が開いて、そこから飛び出したのはルイーズ、コイチ、モスモスの3名である。モスモスは無理矢理壁から引き剝がされたお陰で自由の身になっていた。


「コイチ。計画通りに行くよ」


「あなたがコイチサン? お目にかかれて光栄だなア」


 コイチはモスモスを睨み付けた。


「一目見てみたかったんでネ。美人な女性に何度も何度も名前を呼ばれる人の顔。ただコイチサン、コイチサンってあまりにも五月蠅いんで、さっさと死んでもらいましたケド」


 ルイーズは銃を構えた。


「いい匂いだったなア、美人だったなア、強かったなア、声も可愛かったなア、内臓は格別に美味しかったなア」


 コイチはモスモスの正面に高速移動し、鬼のような形相でモスモスの頬を思いきり殴った。モスモスは口から血を流したが、倒れることなくその場で踏ん張っている。続けてコイチは鋭く尖った爪で喉を掻っ切ろうとした。モスモスは身体を反らせてコイチの攻撃を避けたが、コイチの爪が首の皮膚をかすめて血が滲んだ。


「コイチ、計画通りにするんだ」


「原形が無くなるほど殴らねえと気が済まねえだろうがよ」


「そいつの能力が分からない以上、動きを封じるまで距離を詰めないのが得策だろ」


 モスモスは舌なめずりをして口元から流れる血を拭い、にやりと笑った。


「この野郎はワシが仕留める」


「うん。分かった」


 コイチは右足に履いていた高下駄を真上に飛ばすように高く蹴り上げた。黒い鼻緒から九官鳥が現れて飛び立った。九官鳥は全身が黒く嘴だけ鮮やかなオレンジ色をしている。九官鳥はくるくる飛びながら喋り始めた。


「ゴ主人サマ! ゴ主人サマ! 話シ相手ハ誰ナノ!」


 コイチは続けて左足に履いていた高下駄をモスモスに向かって蹴り飛ばした。


 モスモスは顔面に飛んできた高下駄を片手で受け止めた。


「ゴ主人サマオ見事! 命尽キルマデ!」


 コイチが九官鳥の余暇(ソレハサテオキ)()と呟くと、九官鳥はモスモスの肩に止まった。


 モスモスは九官鳥を手で払ったが、触れることができずにすり抜けてしまう。


「なんだア? 幽霊? 幻覚?」


「ハジメマシテ。オイラノ名前ハ、ピピノスケ。閑話休題、ドウシテ空ガ青イカ知ッテルカ? ソレハ光ノ波長ガ関係シテテ……」


 九官鳥は延々と喋り続けている。


「アーーーーーーーーーもオーーーーーーーーーー! 五月蠅い五月蠅い五月蠅い!」


 モスモスはイラついて乱暴に頭を掻いている。


「アメンボノ足ニハ毛ガ生エテイテ、ソノ毛ニハ油ガ付イテイルカラ水ニ浮クンダ。閑話休題、赤イペチュニアノ花言葉ハ決シテ諦メナイ……」


「アアアアアアアアアアアアアア! 五月蠅い! 消えろ!」


 コイチは鋭い爪を伸ばして再びモスモスに飛び掛かった。しかしモスモスは紙一重でコイチの攻撃を交わし、コイチの後ろで銃を構えるルイーズへの警戒も怠らずにいる。


 (流石に二対一は無理があるねェ……)


 モスモスは白衣のポケットから直径二センチほどの球体を取り出して投げた。球体から煙幕が広がり、部屋中が煙に包まれた。視界は悪いが、九官鳥が喋り続けているおかげでモスモスの居場所は容易に特定できる。


 モスモスは舌なめずりをしながら煙幕のなかから現れた。


「そろそろ反撃だア。…………ン?」


 頭上を見上げると、高々とジャンプをしたコイチが殴りかかろうとしている。しかしモスモスは防御よりも先にルイーズを探した。コイチが「帰巣」と唱えると九官鳥が消え、モスモスが気を取られた一瞬のうちにルイーズが技を発動した。


「束縛の弾」


 モスモスは銃から伸びたワイヤーに両腕を拘束され、その場で胡坐(あぐら)をかいた。


 モスモスの肩に止まっていた九官鳥は消え、モスモスの目の前に立つコイチは腰を深く落とし、拳を構えてオーラを練り始めた。赤いオーラがコイチの全身を覆っていく。


 モスモスが余裕の表情を浮かべているので、ルイーズは何かを見落としている気がしてモスモスを凝視した。胡坐をかいているモスモスの膝と膝の間辺りに黒い靄があり、黒い靄はじわじわと広がっている。部屋が暗くて気付かなかったが、モスモスは間違いなく何かを仕掛けている。


「コイチ! いったん離れるんだ!」


「……?」


 黒い靄がコイチの足元にまで広がっていたので、ルイーズは銃を抜くよりも先にコイチを突き飛ばした。モスモスはズレた眼鏡の奥から真っ直ぐにルイーズを見つめて「ボクの劇場(テリトリー)へようこそ」と言ってにやりと笑った。


「ルイ!」


(ハコニワ)


 黒い靄が一気に広がり、ルイーズとモスモスを呑み込んだ。


 コイチはルイーズを援護しようとして加速したが、ルイーズはあっという間に黒い靄に呑まれ、黒い靄はそのままドーム状に膨らんだ。真っ黒だった黒い靄は、ドーム状に膨らむのとともに表面がゴムのように伸びて、ドームの中の様子が見えるほどの半透明になった。


「ルイ!」


 コイチの声が届いていないのか、ルイーズはなにも反応しない。拘束されたままのモスモスを見下ろして呆然と立ち尽くしている。


 コイチは鋭く尖った爪で黒いドームを突き刺そうとしたが、ドームの表面に触れると黒い靄が広がって手に纏わりつき、ドームのなかに引きずり込まれそうになったので、慌てて手を引き抜いた。


 コイチは右の拳を左手で覆い、オーラを練り始めた。右の拳は熱された鉄のように赤いオーラを纏っていく。コイチは気迫を漲らせて壁をひと突きした。大砲を撃ち込んだような破壊音と爆風とともに壁は砕け散り、人間が通れるくらいの大きな穴が開いた。


 外から日の光が差し込んだおかげで部屋のなかは少し明るくなったが、黒いドームに変化はない。



 黒いドームのなか。薄暗い空間で対峙するのは、地面に座り込むモスモスと立ち尽くすルイーズ。モスモスを拘束していたワイヤーは消えている。


「ここのなかじゃ、能力が無効化されるのかな」


「ここは獄。ボクの理想郷(ホーム)なんです」


 ルイーズはモスモスに銃を向けて引き金を引いたが、カチッと音がしただけである。


「お腹空いたなア。アイス食べたいなア」


 するとモスモスの目の前に突然棒アイスが現れた。モスモスは宙に浮かぶアイスを手に取り、アイスを食べ始めた。


「僕は幻覚を見せられているのか?」


「さア、どうでしょネ」


 ルイーズは剣を抜いてモスモスを斬りつけようとしたが、モスモスを守るように盾が現れて攻撃は阻止された。


「物理攻撃も効かないのか」


 ルイーズはそのままドームを内側から斬りつけたが、傷ひとつ付かない。


「……」


 モスモスは二本目のアイスを口にした。先程食べていたアイスは棒だけになり足元に落ちている。


「ひとつだけイイコトを教えてあげましょうか」


「?」


「ボク自身もあなたを攻撃することができないということです」


 モスモスは不気味な笑みを浮かべて「ククククク……」と笑い出した。


「それなのに、アイスを五、六本食べ終えた頃にはみんな死んでるんですよねエ」


 ルイーズはモスモスがコモモの話をしていた時のことを思い出していた。「あまりにも五月蠅いんで、さっさと死んでもらいました」というのは、モスモスが殺したのではないとすると、コモモが何かしらの方法で追い詰められた末に自害したということになる――。


 心理戦を制することが、獄を崩壊させることに繋がるかもしれない。


「どうして君はアーリィに仕えようと思ったんだい?」


「ボク、悪魔に用があるんです」


 モスモスの目の前に三本目のアイスが現れた。モスモスの足元にはアイスの棒が二本重なっている。


「悪魔の生き血が欲しいんです」


「悪魔の生き血?」


「フォウスを揃えて願いを叶えてもらうんですよオ」


「フォウス? なんだそれは」


「ククク……何も知らないんですねエ……」


「君の願いは」


「…………さア」


 モスモスは三つ目のアイスを食べ終えた。


(ソウルイート)


 三本のアイスの棒は宙へ浮いて風車のようにくるくると回り始めた。ルイーズはアイスの棒をぼんやり眺めている。


「アーリィ様にはアナタを殺すなと口酸っぱく言われてるんですけどネ、悪魔を殺されるほうが困るんで、もう殺しちゃおうかなア」


 モスモスは舌なめずりをした。


「アナタはただ、アーリィ様に生かされてるだけなんですよねエ」


「……」


「アナタが死んでも、誰も困らないのに。どうしてですかねエ……」


 僕が死んだらアルマスが悲しむはずだ。でも……僕がいなければ、アルマスはアーリィとやり直すことができるかもしれない。あの日、アーリィが僕のことを助けなければ、僕が弱くなければ、僕が存在していなければ、アーリィは今頃アルマスと幸せに暮らしていたかも知れないんだから。


「僕が死んだら……」


 軍人たちはどうだ? 今まで軍人を駒としか見てこなかった人間を信用しているヤツなんているのだろうか。現にコモモとコイチはそんな僕が嫌で組織を離れていったじゃないか。僕がいなくなっても、次のリーダーが台頭すれば何事もなかったかのように仕事は回るし、いずれ僕は忘れ去られていく。


「僕が死ねば……」


 でも僕にはローズがいるじゃないか。唯一、自分の血を引く血族であり愛娘だ。……と言いたいけれど、本当は血が繋がっていない。今も全く構ってあげられていないから、本当の父親の存在を知れば、すぐに本当の父親に懐いて僕にそっぽを向いてしまうだろう。


「……」


 ルイーズは刀を手に取り、切っ先を自分の腹に向けた。


「むしろ、僕なんか居ないほうが、みんな幸せなんじゃないのか」


 くるくる回るアイスの棒の奥で、モスモスはにんまりと口角を上げた。


「そうだ……僕が狂わせてしまったんだ……」


 ルイーズは虚ろな目で、くるくる回るアイスの棒を眺めたまま、その場に膝をつき、切腹する体勢になった。


「もう……終わらせよう……」


「ルイーズ様!」


 黒いドームのなかに煌々と光が差してルイーズはハッとして刀を落とした。ドームの天井に穴が開いている。ドームの天井から側面をなぞるようにドームが斬り開かれていく。陽が当たる面積がみるみるうちに広がり、モスモスの獄は崩壊した。


「ルイーズ様、お気を確かに……!」


 飛び降りてきたのは、柄に太陽が彫られた刀を握りしめたヨハンなのだが、容姿が幼体化している。軍服はダボ付き、腰に下げた三つの鞘も引きずっている。ヨハンは能力を使った代償として、一時的に容姿が幼体化していた。


 モスモスは四本目のアイスを口にくわえて「お手上げ」というように両手を挙げた。


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