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殺戮王は笑って言った、「俺を殺してくれ」と ~自己犠牲の輪舞~  作者: 遊可くるみ
6章

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永遠×有限(2)

 アルテは鼻歌を歌いながら手土産を持ってコモモの家に向かっていた。コモモの家は作戦会議をする場になっていたが、アルテは会議招集がなくても、適当な口実を見つけてはコモモの家を訪れていた。コモモに許可された人物であれば、いつでも湖の水面を渡って湖の中央から沈んだところにあるコモモの家の玄関まで向かうことができる。


 何度チャイムを押しても反応が無いので、諦めて帰ろうとしたときにドアが開いた。


「あっ、ええとちょっとそこまで来たっつうか、そうそう、コモモさんが好きな、紅茶に合いそうなサブレとかいう」


「何の用?」


 ドアから顔を出したのはイザナミだった。


「なんでお前なんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


「こっちの台詞☆」


「コモモさんは」


「アイス買いに行ったよー」


「コモモさんってアイス好きなのか!?」


「ううん。ボクがリクエストした」


「そうか……。ってかなんでお前がいんだよ!」


「ボク、ここ好きだから」


 イザナミは飽きもせず毎日のようにここへ来て美しい水中の世界を眺めていた。


「コモモの側にいると落ち着くから」


「お前まさか」


 アルテの思考はイザナミがコモモに恋をしている→自分の恋敵である→敵は倒さなければならないと変換され、気が付いたときにはイザナミの胸倉を掴んでいた。しかしイザナミはアルテの手を払いもせず、胸倉を掴まれたままぼーっと水中を眺めている。


「ここに来ると、痛みが消えるんだ」


 アルテはイザナミの胸倉を掴んでいた手を放した。


「あー分かるわ。何かこう、心がぽかぽかするっつーか」


「一緒にしないでくれる?」


「んだと!?」


「ボク、コモモ好き」


「な! お前やっぱり」


 イザナミはアルテの手土産を取り上げた。


「これお菓子?」


「お前に買って来たんじゃねーから」


「コモモは意地悪嫌いだよ」


「クソガキが!」


 二人はサブレを手に持って大きなガラスの前に腰を下ろした。


「イザナミはいつからルイーズ隊長と知り合いなんだ?」


「あの日から」


 イザナミの視線の先ではウツボがタコを捕食している。


「ボク、遭遇したんだ」


 イザナミは淡々と当時のことを話し出した。


 矢尻が轟々と燃える矢を構えるアーリィと、武器を持たずに呆然と立ち尽くすルイーズが対峙していた。アーリィはルイーズに向けて矢を放ったが、ルイーズが逃げる様子はない。イザナミの身体は咄嗟に動き、ルイーズを押し倒すようにして覆いかぶさった。振り返るとアーリィは姿を消していた。


「ボクはルイの命の恩人なの」


「見てねえの?」


「なにを?」


「悪魔」


 喰いちぎられたタコの足がゆらゆらと水中を浮遊している。


「……」


「無視かよ!」


「あ、なに?」


「悪魔を見てねーのかって聞いてんだよ」


「見てない」


「どんな姿なんだろーな」


「さー」


「人間に紛れたりしてな!」


「……」


「てかコモモさん遅くねえか!?」



 丁度、ドアが開いた。目を輝かせて振り返ったアルテの表情が一瞬で曇る。全身から血の気が引いて身体が強張った。手に持っていたアイスは地面に落ちて溶けている。


 コイチの腕には血まみれのコモモが抱かれている。


「こっちを見るんじゃねえ!」


 コイチの忠告も間に合わず、損傷したコモモを見たアルテは吐き気に襲われた。口から血を流しているものの、顔は無傷。しかし腹部は抉られていて血が溜まっている。コモモの手には溶けかけのアイスが握られている。


「馬鹿野郎、逃げりゃよかったのによぉ」


 アルテは放心して膝から崩れ落ちた。


 イザナミは床に垂れたアイスを手ですくって「不吉な食べ物」と呟いた。


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