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殺戮王は笑って言った、「俺を殺してくれ」と ~自己犠牲の輪舞~  作者: 遊可くるみ
6章

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永遠×有限(1)

 雲の上――。幼いアフララは神の子として神になるための修行を積んでいたが、修行の最中に雲から落ちてしまい、目が覚めたときにはクロスキントという人間に看病されていた。


 何年も二人だけで過ごす自由気ままな日々が続いていたが、クロスキントは突然旅に出て、帰って来た時には赤い鳥居の手前で血を流して横たわっていた。


「悪魔の血を手に入れた。これで願いが叶うぞ。アフララを人間にできるかもしれん」


 クロスキントは深手を負っており、病状は日に日に悪化していった。


「俺ももう何年も生きられないと思うが、でも、まだ諦めねーぞ。アフララを人間にする」


「…………ならば」


 アフララは泣きながらクロスキントの手を強く握った。


「来世で余を人間にしてくれ」


 アフララは華やかな冠を被り、柄が竹でできた五色の(ぬさ)を持って来た。


「なんだ?」


「まあ任せておれ」


 アフララの全身が白い光に包まれていく。柔らかい光に包まれて印を結ぶアフララを見たクロスキントは思わず「女神だ……」と呟いた。手首に付いた鈴がシャン、シャン、シャン――、と鳴る音も心地よい。長い睫毛が普段より艶っぽく見えた。


 幣を彩る五色の紙がふわりと空気を含んだように広がった。


輪廻転生の印(リンカーネイション)


 アフララの手から放たれた気の塊がクロスキントの身体を貫いた。


「ぶわっ、なんだ今の」


「輪廻転生の印という神の力だ。お前の魂を来世の人間に宿らせることができる」


「なるほどわからん」


 クロスキントはしばらく天井を見つめていた。


「人間になったら好き放題生きろよ。自分の人生を生きたって胸張って言えるように、生きろ。大事なのは自分で選択することだ。誰かに邪魔される筋合いはねーってこと」


「選択を間違えたときはどうすればいい」


「正解とか間違いとか決めつけなきゃいい。意味のないことなんてないからな」


「……」


 それがクロスキントとの最期の会話だった。



 アフララは退屈する日が増えた。どこか胸騒ぎがする日が続いていた。


 ローズが修行を始めてから四ヵ月は経っただろうか。ローズはミライバナを摘むために飽きもせず毎日綱を登っているが、一度綱を登り始めたら二週間は降りて来なくなった。手も足も血豆だらけというのに弱音も吐かずに登り続けている。


 夜明け前、ドサッと音がしたので見に行くと綱の下でローズは花提灯を膨らましながら寝息を立てていた。


「力尽きたか」


 アフララはローズを負ぶった。


「お父様……お母様…………」


 寝言を言っている。


「みんなで一緒に……」


「……」


 朝日が昇り、テーブルには朝食が並んだ。ローズは山のように積まれた白米をどんどん平らげていく。何杯もおかわりをして美味しそうに嬉しそうによく食べる。アフララはその様子を見ているのが好きだった。


「次はいつ出発するんだ?」


「明後日にしようと思います。あ、その前に廊下汚かったんで掃除しておきますね」


「小姑かお前は」


「こき使ってください。私は修行の身ですから」


「修行の身という自覚があるのならもう少し修行の身らしくしろ」


「へ? はい。おかわりください」


「……」


 普段なら「そういうところだ!」などという突っ込みが飛んでくるような掛け合いだったが、アフララは山盛りのご飯を渡したあとで、神妙な面持ちで手を膝の上に置いた。


「すまない」


 アフララは深々と頭を下げている。


「?」


「ミライバナはないんだ」


 アフララはローズの顔を見ることができず、頭を下げたまま話し始めた。


「五年ほど前に確かめに行ったんだ。ミライバナはなかった。そこには厚い雲に刺さった表札があっただけで、ミライバナは咲いてなかった。なにもなかったんだ」


 顔を上げたら茶をかけられるかもしれない。茶碗を投げつけられるかもしれない。怒って、呆れて、ここを飛び出して二度と会ってくれないかもしれない。アフララは恐る恐る顔を上げた――。


 ローズは口いっぱいにご飯を含んでもぐもぐしている。


「なら探しに行きましょ」


「余の話を聞いていたか? ないと言っただろう」


「この綱を辿ったところにないだけで、この世のどこかにあるかも知れないですよ」


「……」


「百会に神の力を授けてもらうまで、私、諦めません」


「どうしてそこまでして強くなりたいんだ」


 ローズは箸を置いた。


「私が強くなって悪者(アーリィ)を倒せば、お父様とお母様と一緒に暮らせるんです」


「アーリィ?」


「悪魔と契約した悪いヤツです」


「悪魔……? そんな馬鹿な」


 アフララは不安な表情を浮かべて、記憶を辿りながら話を続けた。


「悪魔を召還できる上位階級の悪魔遣いは全員天界の牢に閉じ込められているはずだ」


「逃げ出したってことですか?」


「それが事実なら、天界は今頃……この胸騒ぎはそれか……?」


「胸騒ぎ?」


「ここ最近、胸騒ぎというか、嫌な感じがしてな」


「私もです! 変な夢を見ました。崖に立っていて、繫いでいた手を離される夢で……。でも私の手を握っていたのが誰なのかは分からなくて。アフララ様のとは違うかも知れないですけど」


「うむ……。余は天界の様子を見て来る」


「天界に行く前に百会の力を授けてもらえませんか」


「どうしてそうなる」


「アフララ様が天界に行ったっきり帰らぬ人となるかもしれないので」


「勝手に殺すな!」


「でも、なんだか、あの夢を見てからモヤモヤするんです。お願いします!」


 ローズは真っ直ぐな目でアフララを見つめた。


「無理ならここで……、何年でも、何十年でも待ってます」


「……」


 アフララはクロスキントのことを待ち続けた日のことを思い出していた。


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