祈り×邂逅(5)
ヴィダートの仮宿。ドルジャスは机に化粧道具を並べ、手鏡片手に化粧を直していた。そこへ籠を抱えたモスモスが口に棒アイスを咥えてやって来た。籠には動物の臓器らしきものが生の状態で入っている。
「マジでキッショいんだけど」
「ヒトが捨てる部分を美味しく頂いてるんだから感謝してもらいたいネ」
モスモスは調理もせず、臓器らしきものをそのまま手掴みして食べ始めた。ぐちゃぐちゃと音を立てている。
「グロ! キモい! あっち行け!」
「内臓食べるとサ、力が漲るんだよなア」
「てか内臓食べるときもアイス食べてるわけ? 組み合わせやばキッショいじゃん」
「アイス食べるともっと欲しいもっと欲しいって欲が湧いてくるんでねエ」
眼鏡の奥の目はにやりと笑っている。
「は?」
「ボク……」
モスモスは口の周りを血に染めて内臓をゴクリと呑み込んだ。
「美人なヒトの内臓食べたいヌァアアアアアアアアアアアアアア」
ドルジャスはモスモスの気色悪い笑顔に思わず絶句した。
「ということで」
モスモスは高速移動してドルジャスの目の前に来た。そのままモスモスがドルジャスの肩を掴もうとしたところで、ドルジャスはモスモスの顔に回し蹴りを喰らわせた。飛んでいった眼鏡は壁にぶつかった衝撃でレンズにヒビが入り、フレームが歪んでいる。
「その顔、いいオカズになるなア」
モスモスは興奮気味に内臓を貪っている。
「あたしの気が変わらないうちに出てけ」
ドルジャスは鎌に手を掛けた。
「ヌフフフフフフ、ドルちゃん、キレてる顔も可愛いなア」
「次"ドルちゃん"って呼んだら殺す」
「キレてるドルちゃん愛おし過ぎてご飯が進むよオオオオオオオオオオオオ」
モスモスは内臓を頬張りながら発狂している。
「死ね!」
内臓が壁に飛び散った。内臓が入っていた籠も、籠を置いていた机も半分に斬られている。ドルジャスが鎌を振り下ろしたあとだった。
「まーた喧嘩してるの?」
どこから現れたのか、斬られた机の上にアーリィが座っている。モスモスは形式だけ紳士ぶって深々と頭を下げた。
「モスモス、お前にご褒美をあげるよ」
「ありがとう存じますゥ」
モスモスはアーリィに差し出された無地の紙を両手で丁重に受け取った。
「アーリィ様こちらは?」
アーリィが「ひっくり返せ」と合図するので、モスモスは言われた通りに紙をひっくり返した。裏面にはとある人物の写真が印刷されていた。
「いいんですかア? ボクがいただいちゃって」
「その子をあげるからドルジャスには手を出さないこと。いいね?」
「分かりましたア」
ドルジャスはアーリィの死角からモスモスに向かって中指を立てている。
「ああ、ひとつだけ」
「はい。なんでしょう」
「目の色だけ確認してね。赤色だったら生かしておいて」
「承知でーーーーーーーーーーーーーーーーッス!」
モスモスは興奮した様子で去って行った。
「マジキッショい失せろ!」
「喧嘩はほどほどにね」
アーリィがドルジャスの肩をポンと叩くと、ドルジャスは耳まで赤くなった。
(やばいカッコイイ、目の保養すぎる!!!!!)
「モスモスは本当に行儀が悪いね」
机にはアイスが直置きされて溶けていた。
「アイツほんとなんなの? 溶けてんじゃん! 片付けんのあたし!? ウザ!」
「俺も溶けてなくなりたいよ」
「アーリィ様がいなくなったら生きてけない、無理」
「元々俺がいなかったら、そんなこと思わなくても済むだろ?」
「いるじゃん、ここに」
「今はね」
アーリィはドルジャスが並べていた化粧道具のうち、香水のような小瓶を手に取った。瓶には翼のような装飾が施されている。
「それビジュ買いした! 可愛くない?」
「昔似たようなのが家にあったなと思って」
「これ最近出た新作だから別物じゃん?」
「うん。きっと違うものだね。でも懐かしいなー。これに似た瓶で弟と宝探しをしたんだ」
アーリィは遠い日の記憶にそっと思いを馳せた。
(アーリィ様、こんな優しい顔するんだ……。きゅん)




