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殺戮王は笑って言った、「俺を殺してくれ」と ~自己犠牲の輪舞~  作者: 遊可くるみ
4章

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回想×枷(2)

 岩を削って造られた薄暗い独房と通路を隔てるように鉄格子が立てられている。


 ルイーズは悪い夢に魘され、全身に冷や汗を掻いて顔面蒼白となり、独房で目を覚ました。武器は回収され、椅子に座った状態で拘束されている。首には鋼でできた首輪がはめられていて、首輪は一本の鎖で壁に繋がれている。


 悪魔と出会ったときの夢を見た。目が覚めた今も気分が悪い。


 あの日を境にアーリィは変わってしまった。マテイユ帝国の国民を虐殺するようになった。アーリィは悪である。マテイユ帝国の軍人として、ゾロメスタスとして、アーリィを殺して国民を脅威から守り、国民を救うことが自分の使命だということは分かっている。分かっているけれど、あの日、確かに、アーリィは自分の身代わりになったのだ。


「うわっ」


 ルイーズは驚いて椅子ごと倒れそうになった。目の前の壁の上部には、黒い山羊のお面が飾られている。あの日、悪魔が顔に付けていたものとよく似ている。


 巨大烏に攫われて連れて来られたのは、ヴィダートの仮宿らしい。


 (……誰か来る)


 イザナミによって顔面を粉砕されたシヴァがルイーズの前に現れた。顔は元の通りになっている。シヴァは鉄格子を両手で変形させて独房へ入り、ルイーズの前に立った。


「獲物、事後、(むくろ)


 シヴァは腰から針のような剣を抜いて構えた。


「一撃!」


 シヴァは剣でルイーズの心臓を突き刺した。


「?!」


 確かに心臓を貫いた感触があった。それなのにどういうわけかシヴァは剣を持っていない。そしてルイーズを椅子に括りつけていた紐は解かれている。首輪はまだはめたままで壁とは鎖で繋がれている。


「こうして命拾いするのは日頃の行いがいいからだと信じたいよ」


 ルイーズは足でシヴァの顔面を蹴り飛ばし、シヴァは鉄格子に叩き付けられた。


「断罪、死罪、其方は天誅」


 シヴァは口元に滲む血を拭って床に手をついた。


地獄へ道連れアナザワンバイツダスト


 地面にヒビが入り、床が抜け、岩壁が崩れ落ちた。ルイーズは落下しながら、降ってくる岩壁の破片を拳で砕いていった。首輪が繋がっていた岩壁は岩の破片となってまだ鎖の先に繋がっている。ルイーズにしてみれば、重さ50キロ程度の(かせ)である。


 ルイーズは自身に覆いかぶさった岩の欠片をのけて立ち上がり、上を見上げた。


「さて……、僕の幸運はいつまで続くかな……」


 シヴァはルイーズを見下ろしてにやりと笑った。


「大団円に断末魔」


 ルイーズの背後に開いた大きな横穴から音がする。横穴はトンネルのように奥まで続いているようである。穴の奥から猛スピードで"何か"が迫ってくる気配がする。


 ルイーズは首輪の先に繋がった岩の破片を抱えて数メートルほど高くジャンプした。


 穴から現れたのは赤目の大蛇である。大蛇は身を屈めてルイーズに喰らいつく準備に入った。落ちれば餌食。大蛇が大きな口を開けて構えている。


 ルイーズが万事休すと諦めかけたその時――。


「ルイ! 受け取って!」


 アルマスに呼ばれた気がした。取り上げられたはずの銃が目の前に現れた。


 ルイーズは銃を掴み、飛び掛かって来る大蛇に銃口を向けて引き金を引いた。


「閃光の弾」


 大蛇は閃光に包まれて石化し、ルイーズは石化した大蛇の鼻先に着地した。


「ぐあああああああああああああああああああああ」


 ルイーズは首輪を掴みながら悲鳴を上げた。首輪には電流が流されている。


「アーリィ……」


 シヴァの隣にアーリィが立っている。


「本体をどこに隠してるの?」


「……」


 再びルイーズの首輪に電流が流れ、ルイーズの叫び声が岩壁に反響した。


「本人に吐かせるしかないか」


 アーリィが縄を手繰るとアルマスが現れた。ルイーズと同じように首輪をはめている。


「アルマス!」


「ねー? どこに隠れてるの?」


 首輪にバチッと静電気が発生してアルマスの身体がビクリと反応した。


「アーリィやめるんだ!」


「かくれんぼは、もー飽きた」


「いやああああああああああああああああああ」


 痛みに耐えられず、アルマスが悲鳴を上げた数秒後に静寂が訪れた。直後、ゴン――と鈍い音がした。


 アルマスがはめていた首輪だけがルイーズがいる場所まで転がり落ちていった。


「まーた取り逃がした」


 アーリィの隣にアルマスの姿はない。


「やっぱり今のは効いてたなぁ」


「いい加減にしないか……」


「ルイは知ってた? アルマスの能力がふたつあるって」


「アルマスの能力は追想の旅(ノスタルジアリープ)だけだ」


「いーや違うね。俺は前に追想の旅でアルマスと一緒に過去へ戻ったことがあるけど、幽霊みたいに誰にも認識されなかったし、触れられることもなかった。でも、さっきのアルマスは首輪も嵌められるし、痛みだって感じてたろ?」


「追想の旅は過去に戻る能力だって聞いてるけど」


「どーだろうねー」


「……」


「確証を得るためにもっかいルイを傷めつけて、助けに来たところを生け捕りにするかな」


「アルマスを傷つけることは許さない」


 アーリィはルイーズの首輪に電流を流したが、ルイーズは声ひとつ漏らさず、怒りに満ちた目でアーリィを睨みつけた。


「アルマスは……あの日から変わらず……君を……」


 ルイーズは高く飛び、首輪に繋がっている鎖を引きちぎり、枷となっていた岩の破片にオーラを込めた。


「君を……ずっと……思い続けているというのに!」


 ルイーズは力いっぱい岩の破片をアーリィに投げつけた。


 アーリィは顔の前に手を構えて、軽々と岩の破片を受け止めた。


「まーた怒ってる。感情的になったっていいことないよー?」


 ルイーズは高く飛んだまま上空に留まっている。


「?」


「磁力大暴走!」


 上空から豪速で飛んできた大きな鉄球がアーリィとシヴァを真上から潰した。


 鳥のような恐竜のような天界獣・ミライカに乗って現れたのはイザナミとコイチである。ミライカの表皮は白銀の鱗に覆われており、全長は約二メートルある。翼を左右に広げると約四メートルはある。長い睫毛の下に覗く青い目が太陽の光を反射して輝いている。


 ルイーズの首輪がイザナミの磁力に引き付けられて、ルイーズごと上空に引き上げられていく。そしてミライカの背中の上に無事保護された。


「赤目クソ野郎死んだ?」


「そう簡単にアーリィは死なないよ。落とし穴でも作って逃れたんじゃないかな」


 鉄球をどかすと大きな穴が二つ開いていた。


「しぶといなあ。さっさと死ね!」


 イザナミは地面に開いた大きな穴に向かって、もう一発鉄球をお見舞いした。


「コイチ久しぶりだね。ありがとう。助かったよ」


「礼には及ばねえ」


 ルイーズは力ずくで首輪を外した。


「君が来てくれる予感がして付けておいたんだ。でも電流(アレ)結構痛かったなあ」


「ボク、ルイのためなら何でもするからね!」


「ありがとう」


 ルイーズが頭を撫でると、イザナミは嬉しそうに笑った。


「ミライカも元気そうだね。ありがとう」


 ミライカは優雅に空を飛びながら、目をキラキラと輝かせて、ルイーズに応えるように「キュピイイイイ」と鳴いた。


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