第43話 招待
花嫁の父と、花婿の父が、港町の領主館の前で鉢合わせる。お互い、一歩も先を譲るわけでもなく、その場に彫像のように立ち尽くしながら、言う。
「久しぶりですな」
「残念ながら『この度はお日柄も宜しく』といった挨拶は我々には無用だ。我が娘の花嫁姿を笑いに来たのだろう、ジェイムズ・アランドール卿」
「いや、結婚話を先に言い出したのはこちらですがね、まさか本当に式を挙げるという知らせが息子から届いたときには驚きもしましたが」
「驚き?」
「そちらも知っての通り、上三人と違って末の息子は病弱でして。今年まで生きるかどうかすら危ぶまれていたところで」
その三人の兄が、馬車から降りてくる。
「そういえば、和平協定も結んでいなかったな。館の敷居をもっと高くしておくべきだったか」
「麗しの花嫁の前で物騒なことはしませんよ、アダムス・トゥールボット卿」
館の扉の前で睨み合うように立ち尽くす二人に、別の方向から声がかかる。
「そこにいるのは、エールランドの二卿こと、アランドール卿とトゥールボット卿ですかね」
見ると、美しい背の高い美女と腕を組んだ、前歯の欠けた背の低い小男がいつの間にか立っていた。
「ここにいる僕の妻が、此度の花嫁に会うのを心待ちにしておりまして。それと、大陸から最高級の花嫁衣装の仕立屋を連れて来ております。急ぎですので、先に入れて頂いても?」
「え、あ、ああ」
馬車が横付けされ、職人たちが大小様々な箱を抱えて足早に館に入っていく。
「では、自分はこれで。お二方とはあとでゆっくりお話したいものですな。自分の名前はトム・スタッフフォード。ジョン、いいや、我らが新進気鋭の詩人ジョン・アランドール氏の書籍を出すに当たって大いに協力させて頂いた者です。どうか、お見知りおきを」
館の中に悠々と入っていった夫婦を見送って、親二人が目を丸くする。すると、
「陸に上がったのは久しぶりじゃな、シャムハール」
「本当に。館はここで良かったはずだけど」
「ええ、こちらです。あなた方まで来るとは思いませんでしたが」
「団長達は、結婚式の余興でもするのかい?」
「もちろん、我々は劇団ですからして!」
妙に賑やかな馬車が横付けされる。馬車の後ろが歯車と共に下がり、車椅子に腰掛けた貫禄ある老人が一番に降りてきた。それを、よく日に焼けた青年が押してくる。
「あの『親分』の花嫁姿か。正直な話、まったく想像も付かないけどさ、まあ、近くに来たんだし見ておかないと」
「男装した姿なら見たことがあるんですがね」
「それはきっと似合うことじゃろうなあ」
馬車から次々に、色とりどりの衣装を身に纏った劇団員達が賑やかに降りてくる。すると、内側から館のドアが開く。立っていたのはアンドリューだった。
「本当に来て下さるとは光栄です、サムセット・オーキッド船長」
「近くに寄ったものだからね。それに、ジョン君の詩集を生きている間に読みたかったんだよ」
船長の名前を聞いて、父親二人がぎょっとして振り返ると同事に声をあげる。
「弓兵隊長殿!?」
「おや、ジェイムズに、アダムスかね。まだ若かったおぬしらに、弓の持ち方を教えたのは何十年前だったかな。君らの息女と子息の婚礼、やっとこの国もゆっくりと落ち着くようで何より。もっとも、今のわしらはれっきとした『海賊』ゆえに、平和を喜ぶのも変な話じゃがな」
そして、馬車に合図すると、もう一台、今度は新品の車椅子が降りてくる。
「劇団員と我々で自作した、吸引器を積める車椅子じゃよ。ジョン君への贈り物だ」
そして、唖然とする二人を後に、車椅子を押す青年や色とりどりの劇団員達と共に、悠々と館の中へ入っていった。
「……あの『海賊紳士』が弓兵隊長殿だったとは」
「もう何が出て来てもおかしくなくなってきましたな……」
アンドリューが、ジェイムズ・アランドールとその三人の息子に深々と頭を下げて言った。
「アランドール家の皆様方と、今日佳き日をこうして共に過ごせることに感謝をしております。父上もまた。さあ、どうぞ皆様方、お入りください。そして、新郎新婦の登場まで、今少しお待ちを」




