第18話 手紙
「あの二人から手紙が届いただと!?」
アランドール家が大騒ぎになる。
「二人とも港町から出航したところまではわかっていたが、まさか共に旅をしているとは……」
「『拝啓 素敵な花嫁をありがとうございます兄上。そしてこのように新婚旅行の機会など与えてくださり、心から感謝しております』」
「ど、どこに居るんだあの馬鹿弟は!」
「差し出された場所はランドルケーヘン領、と書かれている」
「かの大聖堂の近くか!」
「『仇敵の居なくなったトゥールボット家から財産を差し押さえている頃合でしょうが、できれば石畳の補修や聖堂の修繕などに使って欲しいと妻が……』って、あのイザベラがか!!」
ジョンの三人の兄が思わず頭を抱えて呻く。
「財産を差し押さえていることなど、よくわかったな」
「あいつは頭は良くまわったからな……」
兄達が顔を見合わせる。
「『追伸 花嫁の兄と父を心配させては新郎の名折れ。同じ内容の手紙をトゥールボット家にも届けております』」
手紙を読み上げる従者が笑いを嚙みしめているのがわかる。
「嫌がらせまで覚えたのか。一体誰に似たんだ。あいつは死んだ母親に似て温厚篤実だと思っていたが……」
アランドール家当主であるジョンの父親のジェイムズ・アランドールが大きな溜息をついた。
「全く、面倒だがこの件に関しては一度、直々にトゥールボット家に話を通す必要がありそうだな。海賊に、槍試合に……全く、あのにっくき女騎士めとつるんでやりたい放題ではないか!」
「『イザベラがいなくなればトゥールボットは弱体化する』。まさしくそうなったわけだがな………」
財産を差し押さえられたためか、家中のあちこちが侘しいトゥールボット家で、当主であるアダムス・トゥールボットが、まるで頭痛をこらえるかのように呟いた。そこに家令が一通の手紙を持ってやってくる。
「大旦那様。奥様が、こちらを置いて………」
「何だ?」
「実家へ帰ったとのことです」
思わず呻き声を上げるアダムスを、哀れなものをみるような目で、長年この家に仕えている家令が見つめて言った。
「それと、イザベラ様とその旦那様からもお便りが連名で届いておりますが、お読みになりますか」
「後にして……いや、何だと。あの馬鹿娘は本当にアランドールの四男坊と結婚するつもりなのか……?」
思わず手紙を引っ摑み、封を開ける。
「『財産を差し押さえられてしまえば、かの新妻など実家へ帰ってしまう頃合でしょうが、心を強くお持ちくださいませ』全く、わかっているのなら何故帰ってこないんだあの娘は!! 親孝行というものを知らんのか……」
「『今しばらく我ら二人、夢を追うことに専念いたしますゆえ。修道院の兄上にも宜しくお伝えくださいませ』とありますが」
「あの馬鹿娘、本気でこのご時世に剣術を極めるつもりらしい。剣と剣とで渡り合う時代は終わったというのに……何を考えているんだか………」
トゥールボット家の歴史ある居間には、剣ではなく銃が掲げてあった。
「あの馬鹿が不在でも、これさえあればと思っていたんだがな………」
そこに、従僕がやってくる。
「アランドール家から使者が参っております」
「また財産の差し押さえか」
「今回はどうも、それとは違うようで、ジェイムズ様御自らがこちらにおこしですが……」
「何だと!?」
アダムスが立ち上がる。
「出迎えよ。だがその前に、念の為に銃には弾をこめておけ……といいたいところだが、今あの家とやり合うのは不利だ。丁重に迎えねばならん。どれもこれもがあの馬鹿娘のせいだとおもうと、腸が煮えくりかえる思いだがな……」
「さて、有り金を全部出してくれりゃあ命までは取らない……って、皆、随分派手な格好をしているけれど、こりゃなんだい」
島へ渡る船の一室のドアを蹴り開けて二本の剣を突きつけようとしたシャムハールが、思わず目を丸くする。そこに、一人の男が恐れる様子もなく進み出た。
「こちらはアーシェット劇団と申します。今から島の方で公演を……と思っていたのですが。その若くて黒い瞳に、薄い二本の剣、もしや『海賊紳士サムセット殿の懐刀』シャムハール殿では?」
思わずシャムハールが目を丸くする。
「何で僕の名を?」
「ジョン殿とイザベラ殿、そしてポーリー殿と言えばおわかりですかな」
「ああ、あのやたらめっぽう強い『オヤブン』おばさんか!! あの『オヤブン』より強い奴にはまだ出会えてないんだけどさ………いや、知り合いなのかあんたらは? あれは随分楽しい出会いだったけどさ」
「はい。困っていたところを助けて頂いたり、一緒にちょっとした騒動も起こしましてな。面倒なアルヴァマー領を何度も通行するくらいなら、せっかくなのでお二人のご出身の島で、お二人を元にした舞台のひとつでも、といったほうが楽しそうだという話になり……」
「一緒に騒動だって? それにあの二人を元にした舞台?」
大体の場合、シャムハールが部屋へ踏み込むと男女問わず震え上がるものだが、この劇団員達は興味深そうに自分を見つめては、
「話に聞いていた通りだわ」
「とっても素敵な子じゃないの」
「おいおい色目を使うなら後にしてくれよ」
などと軽口を叩いている。思わずシャムハールは言った。
「はは、ちょっと待ってな。我が首領に話を通して見よう。面白く聞いてくれるはずさ!」




