月が奇麗な会議室
鈴竹と小田は、警察署に到着すると会議室に通された。
しばらくの待ち時間
鈴竹「ガソリン買って、古賀の遅刻の言い訳聞いて、すぐ帰るつもりだったんだが。ややこしい話しになってきたな。」
小田「戦車が勝手に動いてるなんて、誰も信じないですよ。」
鈴竹「戦車が動いてるだけならまだしも、大砲ぶっ放すとか、正気の沙汰ではないよな。」
小田「裕子ちゃん、テロリストにでも転職しちゃったのかな?」半分冗談めかして言ってみる。
鈴竹「古賀の方から通報してきたのだから、バカが巻き込まれたのだろう。そうに決まってる。何も考えずに逃げれば良いものを」
小田「ガス欠で逃げられなかったかな。」
先程、裕子の軽自動車の為に買ってきたガソリンを思い出す。
鈴竹「ああ、それもそうか。」
10分ほど待っていただろうか。
先ほどの2名の警察官が、会議室に入ってきた。
警察官「お待たせしました。」
もう一人の警察官は、せっせと大きなモニターをセッティングして、ノートパソコンとケーブルで接続している。
警察官2「準備完了しました。」
警察官「よし!再生しろ。」
警察官2「はい。」マウスを操作する。
大きなモニターに、ドライブレコーダーの映像が映し出される。
前方には、巨大な戦車
酷い振動を出して、走っている。
パトカーのサイレンを鳴らすと戦車は、停車した。
警察官が呼びかけると、戦車から裕子が出てきた。
鈴竹が立ち上がって、思わず声を出す。
鈴竹「古賀・・・」
立ったまま視聴を続ける。
裕子は戦車の大砲の前に、大の字になって発砲を阻止していた。
その裕子に警察官が、手錠を掛けようとしたとき、大砲が放たれ警察官が地面に倒れる。
そして裕子が、大きな声で『ごめんなさい。』と泣きながら、走り出しオニに乗り込んだ。
鈴竹「バカモンそこで、逃げるな!」
思わず映像に向かって、叫んでしまった。
突然の大声に、全員の注目を浴る
周りを見渡して頬を赤らめ、下を向きながら、しおらしく座った。
警察官「これで映像は終わりです。そしてこちらが、その他の被害です。」そういって2人に写真を2枚づつ配る。
鈴竹「民家がメチャクチャじゃないか。こちらは、学校の施設か?」
警察官「これは、民家に戦車が突っ込んで、踏み潰した様です。こちらは小学校の運動場施設に、大砲を発砲したようですね。」
小田「うーわぁー、破壊力抜群」
コンコン
ドアがノックされる。
警察官「こちら会議中だが。」
ドアの向こう「失礼します。」
そういうと、ドアが開け放たれた。
ドアを開けたのは、陸上自衛官であった。
20代後半か30代前半の男性
背が高く屈強、精悍な出で立ち
尾高「自分は、陸上幕僚監部(自衛隊の作戦参謀機関)から参りました。尾高 雄彦3等陸佐であります。」
その時だった!鈴竹の目が、獲物を見つけた鷲の目になった。
左手薬指をチェックする。
リングが無い。
鈴竹は立ち上がり、尾高3佐に向き直って敬礼をした。「自分は、鈴竹美幸3等陸尉、独身!であります。」
小田「はあ?」
尾高「・・・」
尾高と鈴竹は、その場で10秒ほど見つめ合っていた。
この時見つめ合う2人の心に電撃で撃たれたような刺激が走り、2人の心と心が磁石の様に引きあっていた。
警察官「え?何だこりゃ?」
警察官2は小田に小声で聞く。「この2人は、知り合いなんですか?」
小田「知らないです。多分、今が初対面だと思うんですが。」
鈴竹「・・・」
尾高「・・・」
その場で微妙な空気が、しばらく流れた。
尾高「その件に関しては、また後ほどゆっくり話しをさせてください。今日は月が奇麗だと思いますので。」
明治時代の文豪が「『I love you』を『月が綺麗ですね』とでも訳せば意味は通じるだろう」と教えたエピソードを思い出して言ってみた。
鈴竹「はい。」浮かれたように微笑み、頬を赤らめた。
この一言で二人の心は通じていた。
二人は顔を赤らめ空気が桜色に染まる。
それ以外の人間にとっては、たまったものではない。
むせ返る桜色の空気を手のひらで祓うように言う。
警察官「この部屋なんか暑くないか?」
警察官2「そうですね。この二人に扇風機の風、当てましょうか。」
小田「つうか。風どころか爆風で、吹っ飛ばしてもいいですよ。」
警察官は、おおきな咳払いをした。
警察官「ところで今入ってきた。君、尾高さんでしたね。あなたも戦車についての情報を共有するために、こちらに参られたのですか。」
尾高「はい。結論を言いますとこの件は自衛隊が全面的に対処いたします。よって戦車についての情報と乗っていた女性について、お聞きしたくて、こちらに来ました。」
警察官「そうですか。どうぞこちらにお座りください。」
鈴竹の横に折りたたみ椅子を置き、尾高を座らせた。
同じ内容を反復しただけだった。
尾高「とても有意義な会議でした。私はさっそく報告に帰りますので、これで失礼します。」
警察官にそう言うと、鈴竹に向き直って言う。
尾高「また、会えます。今の所はこれで」
鈴竹「はい。」
2人は見つめ合って、動かなくなった。
小田「私たちも帰りましょ。鈴竹3尉」
鈴竹は、その言葉にハッと気づいたように、立ち上がる。
鈴竹「私たちも、これで失礼します。情報ありがとうございました。」
3人は、立ち上がり、警察署を後にした。




