決意の拳
一方、オニ車から飛び出したひろき君は、頂上村へ向かった。
なだらかな、左カーブが続く道を走り続ける。
子供の足でも15分も全力で走り続ければ村の入口に到着した。村に入っても、さらに奥へ走らないと、ひなみちゃんの家まで到着できない。
ひろき「もどかしいわい。もっと早く走れりゃあいいのに。」
ひなみへの心配
走り続けた心臓の鼓動が限界
なかなか到着できない焦り
ストレスがひろき君の心をむしばみ、体力もうばってゆき無意識に足を止めようとする。
ひろき「ひなみー!」
大声を出す。
探すためではない。自分が何の為に走っているのか、自分の体に言い聞かせるために叫ぶ。
ひなみとてっぺいの居る場所は、心当たりがある。2~3箇所探せば見つかるはず。
走っている途中、道に血痕があるのを見た。その横には血の付いた岩が転がっている。
思わず足を止めてしまった。
今は他人を心配して、周りの光景を眺めている場合ではない。その光景を目から振り払うように首を振った。
再び走り出した。
そちらこちらに岩が転がっている。こんなのを頭に喰らったら、たまったものではない。
ひなみの住む家が、見えてきた。
家の前には、横転した軽トラックがあった。
荷台からは、家財道具が崩れ落ち、あたりに散乱していた。
肩で息をしながら、玄関の引き戸を勢いよく開け放ち大声で呼びかけた。「ひなみ、てっぺい、おるんか!」
靴を脱いでいる時間さえもどかしい。
土足で家に駆け上がり、家の中を歩き回る。
居間のふすまを開けると、居間がメチャクチャになっていた。
岩が壁と床を打ち破り大穴を開けていた。
ひろき「うわ、何やこれ!メチャメチャやんけ。」
幸い誰もいないときに、岩が突っ込んできたのだろう。血痕などは見つからない。
その光景を頭から引きはがす。
立ち止まってはいけない。
1階を駆け回ったが、人のいる様子はない。
2階にいるなら誰か出て来るか、物音がするはず。
家にいなければ、蔵か納屋に隠れているに決まっている。
蔵は家のすぐ隣にある。
蔵に回ってみる。蔵に行っても誰もいなかった。
蔵の入口の外には、錠前がぶら下がっており、鍵がかかっていた。
ひろき「誰もおらんやんか!」
次は納屋だ。納屋は畑の近くにあるので少し離れている。
また5分程走ることになった。
自分の運のなさに腹が立ってきた。
息を切らせながら、納屋に到着した。
物音がする。おじいちゃんとおばあちゃんがいた。
ひろき「おじいちゃん、おばあちゃん」
おじいちゃん「なんや、ひろき!なんで来たんや」
2人は、汗だくになりながら、納屋から荷物を出している真っ最中だった。
ひろき「なんでって!避難して来んから、俺がここに来てもうたやんか。こんな時に何しとるんや!」
おじいちゃん「こん中に荷車があってな、それ出しとるんや。」
ひろき「荷車って、今そんな事しとる場合やないやんか!」
おじいちゃん「家財道具を運ばんとな。」
ひろき「家財道具より、今は避難やろ!」
おじいちゃん「そうは言っても家財道具無しで、この先暮らしてゆくのは、みじめやぞ。」
今ここに居ては死んでしまうかもしれないのに、その言葉がどこか他人事を言っている様に聞こえた。
おじいちゃんを説得する時間が、無駄にしか思えなくなった。
ひろき「ところで、ひなみとてっぺいは、どこにおるん?」
おじいちゃん「家におるわい」
その言葉に、ひろき君の顔が一気に青ざめる。
ひろき「家?おらんかったぞ」
今まで見た光景が脳裏で重なりだす。
居間の光景、突き破られた壁と床
道端にあった血痕
血の付いた岩
おじいちゃんの危機意識が低すぎる。このまま任せていたら、ひなみが死んでしまう。
しかし、2人は今どこに?
再びひろき君は走り出した。
ひろき「家やない、蔵に鍵がかかって入れん、納屋でもない。村から出られん。いったいどこにおるんや!」
ひろき君は拳を握りしめ大声で叫ぶ「世界中、駆け回ってでも探し出したるわい!」




