3つの選択
森を抜けると、オニ車は停止した。
車体の後部からブシューと音を立てて大量の水蒸気が、モウモウと立ち込める。
コマンダーキューポラから、裕子とひろき君の2人は一緒に顔を出した。
ひろき「ぷは~」
裕子「ふ~」
オニ車の中は、サウナ状態だったので外の風は、気持ちよかった。
その場所は、ちょっとした広場になっていて、そこでは6台ほどの車が止まっており、道の両脇には人が倒れていた。
倒れている人数は20人ほど
裕子「何これ?」
あまりの光景に、絶句した。
もしかして一酸化炭素 、 硫化水素 、 塩化水素 なんらかの有毒ガスでも発生したのか。
裕子に緊張が走り、手に汗がにじむ。
こうしては、いられない何らかの救護措置をとらなければ!
倒れていた、おじさんの1人が、ムクリと顔を上げる。
緊張の面持ちで、話しかける。
裕子「大丈夫ですか?」
おじさんは、ゆっくり立ち上がる。」
おじさん「いててて、お前らのせいだボケ!ぶっ放してんじゃねーよ。」
(; ゜Д゜ )「あっ・もしかして吾輩、皆さんを吹っ飛ばしてしまいましたか。」
おじさん「そうだよ。爆風でみんな吹っ飛ばされたんだ!」
裕子は、外に出ようとオニ車の外壁に手をかけた。
裕子「熱っ!」すぐに手を引っ込めた。
まだ人が触れられるほど、外壁が冷めていない。
裕子「ねえ、オニ外壁冷やせないの?」
(;`・ω・´)「動力機構と内壁の冷却で手一杯なので、外壁まで手が回らないであります。」
周りに倒れている人も、ゆっくり身を起こす。
裕子もひろき君も何もできなくて、見ているしかできない。
本当なら外に出て、介抱ぐらいしないと恨まれそうなのだが、外に出られなければ何もできない。
車体の後部から音を立てて大量に水蒸気が放出され、エンジンルームの中の扇風機がものすごい勢いで回りだした。
”ウイイイーン”
裕子「なんか、いきなりうるさいわね。」
(;`・ω・´)「水がほとんど沸騰しているので、電力をラジエターファンに集中させて全力で冷やしてるであります。」
裕子「だから水蒸気が、いつもより多く漏れてるのね。」
(;`・ω・´)「水蒸気が多すぎて、破裂寸前であります。」
ひろき「足止めくらって、外にも出れんのか。」
あきらめて、ため息をつきコマンダーキューポラから降りた。
2人で大人しく椅子に座った。
(`・ω・´)「ほんの数分、じっと我慢の子でありますよ。」
一刻も早く妹のひなみの所に行きたい。
そんな思いがひろき君のイライラを積もらせてゆき、貧乏ゆすりまで始めてしまった。
裕子は、ひろき君の後ろに立ち両肩に手を置いてマッサージするように、やさしくギュッとつかんだ。
落ち着いてくれた様で、険しい表情が少し和らいで、貧乏ゆすりが収まった。
ひろき「何や?」意識して貧乏ゆすりをしていたのではないので、訳が分からない。
裕子「落ち着いたでしょ。険しい顔してたよ。」
ひろき「そうなん?」
(´・ω・`)「吾輩も」
裕子「無理!」
5分後、ファンの音が静かになる。
(`・ω・´)「やっと外に出られるように、なったであります。」
ひろき君は、「ひなみ探してくる。」村の方へ走って行ってしまった。
裕子は、倒れていた人たちに駆け寄る。
裕子「ケガはないですか?」
分かっては、いたけど一斉に恨めしい表情で裕子を見る。
その目を気にせず、その場にいる人たちを一通り診て回る。
救急箱なんて無い。
ある物は、ティッシュペーパーやガムテープ
そんなもので、傷口の応急処置をするしかない。
看護の知識も無いド素人だが、それでも何もしない分けにはいかない。
ヒザを強打して、ヒザが曲がらない人
骨には異常なさそうだ。
頭を地面に打ち付けてしまった人
少し血が出ているが骨や脳に異常はなさそう。
手足を擦りむいた人
擦りむいたところに応急処置をした。
診察ができるわけじゃない。
ハッキリ言って適当だ。
だが大けがをした人は、いない様子
あの時、倒木を吹き飛ばさなければ、オニ車の機関が停止して生きて森を出る事は、なかっただろう。
オニAI戦車の判断は、正しかったのだから、余計に卑屈になることはない。
おじさん「俺も腰打ったわ。」
先ほど怒っていた、おじさんだ。
裕子「ごめんなさいね。私たちも生きて森を出るので精一杯だったんです。」
このおじさんも、これ以上怒りをぶつけても、仕方がないのは分かっている。
何とか怒りを鎮めて、平静を保つ事に専念した。
おじさん「しかし、戦車に乗って来る奴がおるとは思わんかったわ。」
裕子「ええ、成り行き上こうなってしまって、私も大混乱です。」
おじさん「そうか。」
おじさんをうつ伏せに寝かせ、腰の容体を観ながら会話をする。
裕子「刺すように痛いところは、ないですか?」
おじさん「大したことないやろ。前に氷で滑って腰打ったことあるけど、そん時と変わらんわ。3日ぐらいで普通に戻ったしな。」
裕子「幸いです。こんな時になんですが、村の方ですがどうなっていますか。」
おじさん「村に岩が飛んできて被害出てるわ。噴火の爆発で、岩が飛ばされたんやろな。あ~そういえば3件となりの爺さんが頭に直撃してグッタリしとったな。」
裕子「ここに来てますか?」
おじさん「いや、まだ村におると思う。ここで足止め食らうまで、周り見えんかったし、何もしてやれんかった。」
周りにこのおじさんを心配した子供たちが集まってきた。
子供「お父さん!」
おじさん「大丈夫や大したこと無さそうや。休めばその内良くなるやろ。」
おじさんは、裕子に向き直る。
おじさん「なあ、お姉さん。この子たちだけでも、この戦車に乗せて、火事になったこの森を抜けられんか。」
裕子「私もそうしたいんです。だけど数が多いからと言って人を見捨てるまねは、したくないんです。少し考えさせてください。」
おじさん「そ・・・だな。」食い下がろうとしたが、言葉を飲み込んだらしい。
あまり時間が無い。
噴火が始まる前に何とかしなければならない。
こんな時にオニAI戦車にでも相談するしかない。
裕子が考え付いた選択肢は3つ
・この人たちを取り合えず置いておいて、村の捜索に行き後からピストン輸送する。
・裕子とひろき君だけで村に捜索に行って、そのうちにこの人たちをピストン輸送する。
・一か八か自分たちの乗って来た車で、森を抜けてもらう。少しは消火したのだから、出来るのではないか?
どの選択をしたところで、デメリットが大きすぎる。
それが分かっているから、人には相談する事ができなかった。
AIに相談するためオニ車に乗り込んだ。




