僕のやり方が、悪かったのかな
33
「ごめんなさい、無視ばっかりしてて」
「う、あいや。こっちこそ、なんだ……」
石崎さんが、一人だけでここに来るのも想定外だったが、いきなり謝られて内藤もパニクっていた。
「まあ…… すまない」
内藤がやるべきコトは、ただただ正直に謝り、幼馴染みである二人に全てをさらけ出すか。
今回のコトを気の迷いとして、平身低頭して仲間に戻るか。
原因究明して、身の潔白を証すか、だった。
二人に説明しなくちゃならないハズだったのが、いきなり崩れたよ。
「喧嘩みたいになってたのは咲ちゃんの剣幕のせいだもの。私からは、何も言えなくて…… だから、今日は私だけで話を聞きたくって……」
「いや、その理由になったのは俺だ」
お、内藤が男前な反応を。
予行は、無駄じゃなかったみたいだ。
……平さんの睨み付けに比べたら、石崎さんはチワワだな。
平さんが何かとは、言えないが。
「とにかく、イヤな思いをさせた。すまなかった」
……言えた?
やるな、内藤。
「……あのね。今回の、アレは、ウソだったんでしょ」
「あ、あぁ、デタラメだった」
「でも、なんで、羽月さんを誘おうとしたの?」
来た。
第2関門。
ここも、正直に自分で言わなきゃいけないぞ。
「……あいつなら、そういうコトにも平気で付き合うんじゃないかとか…… いや、そうじゃないよな。俺は、お前達との仲が変わるのが怖かった」
あの石崎さんが聞きたいのは、内藤が二人をどう思っているか、だけだ。
ケンカの切っ掛けをどうこう言いたいワケでも、伽耶ちゃんのコトを恨んでいるワケでもない。
「俺は…… 石崎…… いや、九」
「は…… い……」
「お前に、触れたくて堪らなかった」
「っ……」
おお?
大胆に頬に手を触れてますけど?
内藤はアドリブ強いな!
「でもどうしたら良いのか、何が悪いのかも分からねぇ」
「う、うん……」
「だから、何かしら得られるならってのと、イヤらしい気持ちとで、あの話を真に受けてさ」
「うん…… そう……」
「バカなコトした。仲間の関係壊したくないとか考えて、逆に自分で壊してしまった……」
「まだ、間に合うよ」
石崎さんは、内藤の手を握り、微笑んだ。
……あ、コレ、二人が本音で喋ってる。
僕は、退散するか。
校舎の陰に隠れていた僕に、内藤が目配せしたので、手を振ってあとを任せた。
☆
退散途中で、壁に激突する音が響いた。
そちらを見ると…… 山崎が、谷崎に、壁ドン?
「少しは話をさせやがれっ!」
「勝のクセに生意気だよ。何を喋るってんだよ」
壁に激突したのは山崎の拳だった。
アイツにアドバイスしたのは、えーっと……。
「エロい目で見てた、すまん!」
ストレートに謝れ、だった……。
「……はあ、アタシをか?」
「いや、お前のフワフワした髪の毛とか、ポヨポヨした胸とか、スカートとかいつも見てた。すまん」
「このエロガキ…… それで、済むのかよ?」
「違う、まだある」
「は?」
「陽焼けの境目とか、サーブの時のしなる腕とか、勝った時の喜び顔とか、負けた時の悔しそうな顔とか、いつも努力してるのに表に出さない奥ゆかしさとか…… 負けん気強いのに勝てない時の泣き顔とか、隠してたトコロも見てた。すまん」
「なっ、なっ、な…… な……」
「咲だけずっと見てた。すまん」
「何で…… 謝ってんだよ……」
なんだ、こいつらバカップルか。
☆
「いいか」
仲直りを果たした内藤一味 (もうこれでいいや)が、僕達のグループに宣言したいコトがあるんだそうだ。
次の日の昼休み、呼び出された僕らは内藤達と渡り廊下で向かい合う。
「もうお前らに構ってるヒマなんてねえ」
「晴人くん、ちゃんとお礼して」
「分かってるよココノ」
尻に敷かれている様だな内藤……。
二人に話がちゃんと伝わり、一件落着だと思ったのに。
結局は僕の提案も空振り、仲直りの立役者は石崎さんだと分かっているので、以前の離れたままの関係になると思っていたのに……。
「仕方ないから、お前らは友達だ」
仕方ないからっていう理由の友人なんていらねえ。
と思っても、時間のムダな気がするから黙っておく。
「あのね、違うの。晴人くん、大事なトコロでいつも不器用だったから、それをカバーしてくれた大幡くんには感謝しているのよ?」
「ナイトが助かったーとか言ったの初めてじゃね?」
「それは確かに!」
「うっさい黙れ!」
賑やかだな。
別にいいのに。
それよりはこっちのが、問題なんだよなぁ。
「け、桂くん……?」
伽耶ちゃんがオロオロして、説明を求めてきた。
「何したの? 何となく悪くはないなと思うんだけど……」
「そうだよ?」
「だとしたら、あの、え……」
内藤達が行動早すぎんだよな。
伽耶ちゃんに説明するつもりの昼休みを潰しやがって……。
「伽耶ちゃん。これで、僕らは恋人の真似しなくて良くなったよ」
「え……?」
「でも、まだ僕から言いたいコトがあるから、放課後一緒に帰ろう」
「伽耶ちゃん頑張って」
「ケーマ、気合いだ」
「伸君、私たちは……」
「ああ、先に帰ろう」
そこまで話したところで、伽耶ちゃんが泣いた。
その場に、座り込んでしまう。
自分でも、ワケが分からないようだった。
「えっ……」
「……あ?」
「伽耶ちゃん?」
伽耶ちゃんが、涙を溢す。
何に溢れたモノなのか、僕には分からなかった。
「……ふぅぅ…… 桂くん…… やだぁ……」
「伽耶ちゃん、大丈夫よ……」
平さんが、優しく宥めてくれていた。
伽耶ちゃんは、何かしらのショック状態らしく、石崎さんの心配りで内藤達は引き上げていった。
僕も、子供をあやす様に背中を撫でる。
……細い背中。
「……僕のやり方が、悪かったのかな」
「いいえ、伽耶ちゃん、繋がりをいきなり奪われてしまったと勘違いしたのよね?」
「うっ…… うっ……」
「つまり、一緒にいる時間を大切に感じてくれていたからこそ、かえってショックだったってことか」
「そうね」
内藤に呼び出された辺りから、伽耶ちゃん緊張していたもんな。
もっと早く伽耶ちゃんに説明していたら…… 悪いことをした。
「まだ、彼女と話すのは無理っぽいか…… 今は待ってなきゃな」
「そうだけど、桂馬君はそれでいいの?」
「そりゃあ、もちろん直ぐにでも伽耶ちゃんにこく…… 説明したいけど、少し位はいいと思う。伽耶ちゃんの、負担になってしまったみたいだし」
「……ふぅん?」
平さんはいつもの、笑っているのか怒っているのか分からない伏せた顔で伽耶ちゃんを抱きしめていた。
たたらを踏んだ今の状況は少し不安だけれど、でも僕の想いは変わらない。
「……あとは、委員長カップルの対応だなぁ」
「あっ? 忘れてました」
「ウチのクラスにもカップルが増えたモンだな……」
「ああ。確かにね」
「高井君の説得は私か、伽耶ちゃんがしましょう」
「助かるけど、良いの?」
「同門ですからね……」
「ありがとう、お願いするよ」
ひょっとしたらもう行動しているかも知れないし。
青木先生には連絡しておこう。
「舞台は整った……?」
平さんが呟き、伽耶ちゃんはまだ、泣いていた。
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