大事な人として
34
伽耶ちゃんが落ち着くまで、昼休みでは足りなさそうだったので、移動しなくてはいけなくなった。
「さすが男子、お姫様抱っこですね…… あ、スカート気を付けてあげてください、見えちゃう」
「お、分かった」
平さんにからかわれたが、保健室まで抱えて運ばないとならないから仕方ない。
……軽い。
「……桂くん、桂くん……」
首筋にすり寄られているのは事故だ。
凄い良い匂いがするのは気のせいだ。
僕の名前を呟いているのは、心細いからかな……。
「ケーマ、俺は先に教室に戻って先生に報告しとくから」
「私たちは伽耶ちゃんを保健室に連れていきますから」
「任せた、こっちは任せられた」
「頼む」
保健室で伽耶ちゃんを預けようとして、聞いて良いのか分からない話を聞いてしまった。
こういう発作的な症状は、初めてではないのだと。
「またか……」
「また、ですか」
「うーん、こないだは三年生の教室で女子4人にからかわれて…… だったかしら。この子は良く来るよ」
「伽耶ちゃん……」
「友達とは初めてかしら。気を付けてあげてね」
「はい……」
僕がまだ知らない伽耶ちゃんが、こんな所で見つかるとは。
緊張するクセに、軽口を飛ばしてたんだ。
でも、昔イジメにあっていた、そう彼女は言った。
……無理をしているのかな。
だからといって、彼女の考え、覚悟を無視してどうこう指図したくない。
僕の立ち位置がまだ友人だっていうのは関係ない。
伽耶ちゃんの、努力だと思うから。
☆
帰り道の風景が、いつもとは違った。
平さんと伸は途中で分かれ、今は伽耶ちゃんと二人。
自転車を押して歩いてる。
この道を歩くのは、久しぶりだ。
「…… ゴメンね、困らせちゃって」
「いや、ビックリはしたけど、軽かったし」
「……それは良かったわ……」
「甘えられたし」
「……えっ!?」
「可愛かったよ、僕の名前を呟いてて」
「わ、忘れて…… くれなくてもいいけど……」
気分はだいぶ戻ったみたいだ。
保健室の養護教諭さんに言われたが、今日は今までにない長さで落ち込んでいたのだと。
……気分転換に、話をしよう。
「伽耶ちゃん」
「なぁに」
「僕の話、聞いてくれる?」
本当は言うつもりなかった話なんだけど、大したことじゃない。
ただの、昔話。
「何の話なの……?」
「コレ、左手の火傷のコト」
「……教えて」
今までずっと言えなかったけど、別に話せないワケじゃない。
今は生活に支障もない位に動かせる。
昔は、ほぼくっついてしまって、指が動かせなかった。
「小学生の時、家族旅行の先で火事にあったんだ」
「っ……」
「父さんに庇われて、左手だけで済んだんだけど、最初は動かせなくて…… リハビリを根気よくやるしかないって言われた。たぶん、そこら辺からだな、身体を鍛えるようになったの」
中略、マッチョマンになりました。
「……ごめんなさい、前に、気軽に聞いてしまって……」
「いやいや、僕の相に合っていたからこそだよ、こんなにムキムキにしてるんだから」
はいっ、ポージング☆
「……ふひひっ」
「伽耶ちゃんは笑ってる方が可愛いな」
「……ふやっ」
「いや、笑っていて欲しい」
本当に、そう思う。
「あんまり、からかわないでよね」
「いやホント、元気に笑ってる伽耶ちゃんでないと調子が狂うから」
「……桂くん、私、私からも話したい」
「うん、聞くよ、何でも」
踏み切りに近い公園で、自転車を置いてベンチに座る。
……顔色は、いつもと変わらない位に見える。
「……あのねっ、振り回しちゃって、ごめんなさい」
今までの、仮の関係のコトだね。
「いや、まぁ、中々楽しかったからさ、いいよ」
「でも、もう知ってるよね、あの話が噂に過ぎなくて、私が振り撒いたから内藤くんがその気になったんだ…… って」
うん、だからあの二人を説得したんだ。
周りからどうにかするのも考えたけど、先生を巻き込むのも嫌だったし、平和が一番だよ。
「いやまぁ…… 自業自得が体現されてたね」
「はうぐっ」
「ウソだよ。伽耶ちゃんが悪いワケじゃないからさ。気にしないでいいんだ。その話を正確に知れたのは樹…… 江田のお陰だ」
「バン…… 迷子ちゃんのお兄さん」
「うん、その番長(笑)」
この話は、本人に聞かせられないな。
っていうか……。
「そうだ、委員長と副委員長さんを説得しないとな……」
「もう済んでるよ? 私と初穂ちゃんのダブルスよ……?」
いつの間に…… 昼を食べ損ねていながら、アグレッシブな二人だ。
「そうか、ホントに頼もしい」
「へへ…… あっ、そうよ」
伽耶ちゃんが、何か思い付いたらしく僕を睨む。
え、何か怒らせた?
「桂くん、何で一人でやってたの!」
「ウワサ探ってた時?」
……だって仕方ないよ。
それを伽耶ちゃんに話したらどうなるか。
「伽耶ちゃん、僕がエッチなサークルの話を詳しく聞きたいって言ったら、どうしてた?」
「全力で探ってくるわ!」
「さすがだね、でも、ホントは全力でからかうでしょ」
「そりゃ、詳しく聞きたいなんて、つまりエロ解禁ってコトでしょ! 桂くんをからかわないワケがないじゃない……!」
知ってた。
そうなるの、目に見えてるよね!
「はいはい……。でも、樹に任せなかったらいつまでも分からなかっただろうな。樹のバイト先の先輩が発案者で発足人だったらしい」
「へえっ! 世間は狭い!」
とにかく、解決出来て良かった。
あとは、告白だなぁ……。
「まだ、私、実感が湧かないのだけど…… 桂くんと、もう一緒に居る理由が無くなっちゃったのよね」
「!」
伽耶ちゃんが、俯き、呟く。
この話、今するべきなのか。
「伽耶ちゃん……」
「桂くん、もう、一緒にいちゃ、ダメかなぁあ……」
……悩む必要はなかった。
今、彼女に涙を流させていいわけが、ない。
踏み出すよ。
君の前に。
「僕の気持ちを、聞いて欲しい」
言葉を、噛み締めながら。
見つめながら。
「僕にとって伽耶ちゃんは…… 今、一番に気になる人だ」
「僕にとって、伽耶ちゃんとの時間は楽しくて…… 大事なモノだ」
「絆と言うか、関わりと言うか……」
「大切な人ってコトだと、家族とか、友達とか、仲間とか……」
「繋がりを持った人が、たくさんいるけど」
「その中でも、一番だと思っている」
多少、恥ずかしいのがなんだと言うんだ。
伽耶ちゃんの笑顔が見たいのに。
涙なんか、見たくないのに。
「正直…… 愛、恋、って言葉では、何だかちゃんと理解できてなかったんだよな……」
「でも、伽耶ちゃんとの時間を経験してさ」
伽耶ちゃんに、今なら気持ちを伝えられる。
だから、心の中身を全部言う。
愛しい気持ちを、欠片も残さず、全部だ。
「いつでもそばにいたくて、切ない気持ちを知って、理解できた」
「君にとっても、僕が大事な人として感じてもらえているなら」
「……一緒に居よう」
長い、沈黙。
いや、そんなに長くなかったかも知れない。
ただ、電車が一本、通過して行ったのは見えた。
伽耶ちゃんからの、答えを待つ。
「好き……」
「……!」
何故か、困った事に、息が苦しい。
けど、口をふさぐ熱は、伽耶ちゃんで。
すごく優しく、柔らかな。
それは口付けだった。
優しく、わがままな、伽耶ちゃんらしい。
勢いに負けて受け入れてしまった。
「桂くん…… け、けい…… 桂くん……」
こうして触れ合って、分かる事もある……。
「伽耶ちゃんは想いがいつも暴走気味だよね…… 行動に移すのが早すぎ。ただ、僕もあんまり人の事言えない。伽耶ちゃんに触れられると気持ちが暴走気味でさ、緊張してしまって汗が凄いんだ」
「……知ってる……」
「知られてたか…… まあ…… 伽耶ちゃんに触れられてるのは、気持ちがいいから、良いんだけど…… 教室では止めよう」
震える彼女の肩を、抱きしめる。
背中を撫でて、髪を撫でて。
もう一度、顔をちゃんと見て。
「結婚を前提に、付き合ってください」
「……そ、それっ?」
「うん、伽耶ちゃんのセリフだよ」
ずっと、言いたかったんだよ。
もちろん、冗談のつもりではない。
「いいの?」
「え、全然」
「えっ」
「将来の伴侶とかって…… もう伽耶ちゃんとしか、思えないし」
……あれ、おかしいな、考えてたコトを洗いざらい口に出してた。
まあいっか!
「……いや良くねえよっ…… 早すぎは僕もじゃねえか!」
「さすがに…… 即答出来ないかな……」
「だ、だよね! ごめん」
「ううん! 全っっっ然気にしないで!」
伽耶ちゃんも困惑だよ、ないわー。
彼女からのキスで、舞い上がってた……。
申し訳ない。
告白回でした☆
物語の終わりまで後少し、お付き合いください。




