上手くいけばきっと
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「……分かりました。協力しましょ。出来る限り手助けしますよ」
平さんはいつもより、少し意地悪そうな顔で答えた。
内藤と打ち合わせた翌日。
僕は伸と平さんに相談するため、一人ずつ話をしていた。
その表情は、僕をからかう時に見慣れたよ。
「……ヨロシクオネガイシマス」
「伽耶ちゃんと、正式にお付き合いするためにここまで頑張ってくれたのですから、協力は惜しみません」
これは彼女が伽耶ちゃんと話している時に見せる顔、つまり、信用の証だ。
「うん。ありがとう。恩に着るよ」
「少なくとも、ここで内藤君達を黙らせないと、桂馬君の努力が水の泡…… 失敗したとしても、恨み言を言わせない様にしないといけませんね」
「そこはお任せ出来ると嬉しいね」
「桂馬君は何か考えがあるんですか?」
「もしもの話は苦手だけど……」
平さんには、これからの予定をなるべく、詳しく伝えておいた。
どう状況が変わるにしても、前提に並べた予測なんて多いに越した事はない。
不測の事態には苦い思い出しかないし。
「伸君にはどう伝えるつもりですか」
「下手に細かく言っても、伸だからなぁ、アドリブには期待できない。大筋だけ伝えて、あとはなるべく、黙っててもらおうと思うけど……?」
「英断では?」
「ははは…… やっぱりなぁ」
中休みの渡り廊下では、体操服の男子が通りすぎていく。
こちら側の渡り廊下はあまり使われない場所ではあるが、体操服の平さんの姿は目を引き過ぎた。
近いと大迫力だから、見ないのは大変なんだ。
早く、終わらせなくては。
「それじゃあ確認だけど、要するに伽耶ちゃんには内緒で内藤達の不和を解消する。わざとらしい真似をするけど、伽耶ちゃんに乱入させないように平さんに確保してもらいたい。いいかな」
「嫌なことされないのが前提になりますけどね、今のところは大丈夫そうなので、桂馬君を信用してお任せしますよ。好きにしてください」
「うん、ありがとう」
「でも、本来なら自分でどうにかしろ、で済んだハズなのに、何故桂馬君は内藤君を助けようと思ったんですか?」
内藤は、別に僕が関わりたい人間じゃない。
向こうも、僕には苦手意識やら色々思う事があるだろう。
目端が利くが、腹芸をこなす程に器用な人間でもないし、この話が終われば僕との距離は離れていくだろう。
「近所付き合い、の延長ってくらいに思ってるだけだよ」
「……そういうトコロですよ……」
「……何が?」
「いえいえ、難しい時の方が集中力スゴイ男子だなぁと」
「意味が不明」
「スプリット系男子?」
「言わないと思うよ……」
まったく最後は不明だけど。
聡明でパワフルな平さんには期待してる。
話も早いし、頼もしい。
「あ~……」
「えっ、どうしたの」
「……伽耶ちゃんを騙したり、傷つけようってつもりじゃないのは分かっています。ただ、私が伽耶ちゃんと一緒に行動するだけですから。でも……」
でも……?
何だろう。
やや体をくねらせるのは、刺激的過ぎないか。
見ないけど。
見ないけど!
「ちょっと…… つまらないかなって」
「平和が一番」
気まぐれでしたか。
僕は彼女が望むようなハプニングへの耐性はない。
予想を立てている今だって、不安しかないんだから。
恋愛なんて考えて来なかったけど、今じゃ伽耶ちゃんの事で頭がいっぱいになる、それが心地いいし、気になって仕方ないことを、ちゃんと理解して…… 分かってしまったからね。
☆
「上手くいけばきっと、奴らは良い関係に戻れる」
「……ふぅん」
平さんに話した内容の要点だけ、伸に伝えてみたが。
……何だか納得いかないのか、不満げな。
「……どうした?」
「ケーマって、そういうトコロはバカだよな」
「えぇ……?」
「発想力が足りないから、なのか?」
自問自答のようで、でも僕を見詰めていた。
伸にしては、何か言いあぐねている?
「何か足りなかったかな?」
「その方法で仲直りしても、内藤達は元通りにはならないよ、きっと」
何でそうなるんだ……。
「そうかな」
「本気でそう思ってるなら、おおバカだよ。だってケーマは、反復確認してない。前提を見直してないよ」
「あ」
前提……?
「そう。石崎も谷崎も、まだ内藤達に気があるっていうのに、嫌われているっていうその前提はおかしい」
「そ、そうなのか……?」
伸が女子の感情にそんな敏感だと誰が考えるだろう。
「……じゃ、まだ奴らにへりくだって『やり直したい』って言わせたら何とかなるのか」
「少くとも、犠牲者ヅラでケーマを吊し上げても、逆効果にしかならないだろ」
前提にしていた、女子の感情。
内藤を石崎さんと谷崎さんが、嫌いになっているという前提。
「……疑いようがない、と思っていたよ」
「そうかな。俺に言わせれば、分かりやすい二人だよ」
「……そんな」
「隠れて見る視線、身に覚えがあるからさ」
伸が、平さんを見る目線?
なるほど。
「熱視線か、参考になった。ありがとう伸」
予定を変更だ。
伸は恋愛に詳しくはないが、とても正直な人間だ。
それは絶対に、間違いない。
人と話したりが得意じゃなくたって、一緒にいると安心感がある。
その伸が、誠実な意見を伝えてくれた。
一生懸命に、協力してくれている。
それなら、僕も頑張らなくちゃね。
「あ、ケーマ」
「何だ?」
「羽月さんのコト、好きなんだろ」
「ああ、好きだ」
「ガンバれよ」
「ああっ」
教室に戻りながら、伸が右手で背中を叩いてきた。
僕は『左手』で、叩き返した。
伸が、心配そうな顔をしてくる。
「もう、大丈夫なんだよ」
「……そうかよ」
「気を回させて、悪かったな」
「ふん? 友達だから、当たり前だろ」
良い友達…… マブダチだ。
☆
一緒に居たい。
最初は、賑やかで。
優しくて目敏くて。
明るくて華奢で。
健気で図太くて。
可愛い。
彼女に似合う男は、いないと思った。
でも、僕は、一緒に居たいと思っていた。
「……どうしてそう思ったんだったか」
僕にはそう小声で呟くことしか出来なかった。
「じゃあ、準備は良いか内藤。思いの他、正面突破になったが」
「……二人とも愛想を尽かしていない、その意見は信じられなかった」
内藤は最後まで、こちらの提案に疑いを重ね続けていた。
途中で伸のアドバイスがあったからな。
取り入れて、平さんとセッションもしてみた。
……物凄く恥ずかしかった。
「が、お前の、その前提が間違ってたら結局はお前を犠牲にする手筈になるだけだ。いいな?」
「その発案も僕だけどね…… もちろんだ」
決行は放課、場所は理科室横の中庭。
山崎が、二人を連れてくれば。
すぐに、始まる。
きっと、うまくいく。
そう信じて、僕は僕の全力を出そう。
「……晴人くん」
「ぁ。え、石崎……」
でも、現れたのは、一人だけ。
下準備や予行なんかやってきたけど、実際は中々、上手くいかないモノらしい。
それでも、尽くした事に、無駄はないと信じたい。
取り繕わない方が仲直りが上手くいく気がした。
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