仕方ないなあーー
30
「頼まれてた調べモノ、分かったぞ」
「ありがとう、こんなこと頼めるのは樹だけだったから」
雷の落ちた日、妹ちゃんへのカードを書いた後に、江田樹に頼んだ事がある。
本来なら伽耶ちゃんが一番詳しい結果を持ってきてくれそうではあるのだけれど、今回知りたかった事は彼女には聞けない。
僕が知りたかったのは、
『上級生によるエッチなサークル』
の実態。
これを伽耶ちゃんに聞くのは、鴨ネギか、まな板の上のコイか……。
事実を知る前に話が拗れそうだからな。
もちろん、今ここで樹と会っている事自体には何もやましいところはない。
けれど、伽耶ちゃんの関係している事だから、あまり知られたくもない。
「しかし、こんなゲスっぽい話、お前の事情を知らなかったら手出ししようとも思わなかったな」
「うん。すまない。感謝してる」
ある程度まで話の核心に近付いたのだが、それ以上は伝手がなくて滞っていた。
樹ならあるいは、と持ち掛けてみたら話が噛み合い、何人かと連絡が出来たと聞いたが。
「……さて答えや如何に?」
「実態というか、今は存在しない」
「やっぱりな…… 昔、そんなコトを考えた人がいて、そのまま残ってただけ、なんだろうな……」
「ああ、大体お前が調べてた通りだった。卒業生を何人か当たったが、それを利用したという人物は二人だけだ」
「……二人だけ?」
「話の出先が、前季の卒業生でな」
「そこまで分かったのか」
「見た目が派手な純愛カップルが、人目を避けて逢い引きする口実としていたんだそうだ」
樹の淀みない報告に、頷きながら溜め息をついた。
金髪ピアスと茶髪ギャルが、二人きりになるためについた嘘、か。
二人は今も、幸せであるらしい。
「聞き出す為に、お前の事を大体喋ってしまったが……」
「いいよ、気にすんなって。そうでもしないと信用されないだろう」
「ああ。これは『噂だけ独り歩きしてた』が真相だな」
……なら、これを広めてしまったのが『自分自身』だったから、負い目を感じたのか。
伽耶ちゃんについて…… 色々、考えなきゃな。
きっと彼女には、僕よりもずっと、多くの事が分かっているのだろうから。
伽耶ちゃんの気持ちを、少しでも知りたい。
「ありがとう、樹」
「良いって事さ、まだ借りのが大きいつもりだしよ」
「義理人情で身をやつすなよ?」
「お、レインボー将軍か、良く分かってるじゃねぇか」
「情けは天下のためにある、か」
「雨上がりの江戸に、虹が立つ、くくっ」
決め台詞に反応しないのはファンじゃねえ。
一緒にテレビ番組のネタで談笑してから、クラスに戻った。
しかし、ここで遅れるべきではなかったかも。
☆
僕が居ないのを好機と見たのか、内藤が仕掛けてきていた。
決定は明日だったハズなのに……。
教室内なら人目があるからと思っていたのが甘かった。
「内藤、器ちっちぇえ」
校外学習で行動する時の手帳『クラスの栞』の編纂係が、いつの間にか決められていた。
グループ毎の仕事時間帯を書き出し、割り振られている仕事量を比較して、空き時間の多いグループが『栞』の係をやるべきだ、と。
説得力のある意見だったので誰も逆らえず、決まってしまった…… らしい。
僕らのグループが一番暇だから、か。
実際そうだから、反論出来ねぇ。
要するにこれは、内藤グループの当て付けだ。
「じゃあガンバれよ? 『旅の栞』係」
……内藤、いつか凹ます。
「反論の余地がなかったのよ……」
「席を外してた僕も悪いんだ、ごめんね」
僕がいても、どうにかなったかは分からないが。
「あー、『旅の栞』係かあ」
「面倒事を押し付けられてしまいましたね……」
伸や平さんも、伽耶ちゃんと同じく凹み気味。
民主主義の数の暴力は、正統性は無くても決まると誰かが得をするから変えられない厄介なシステムだ。
ま、やらなくちゃならないなら、やるだけだ。
「具体的に、回ってきた仕事を教えて欲しい」
「……クラスのグループ毎にまとめた『旅の行程』を揃えてセンセに?」
「担当は間釣先生でした」
「うん、内容確認と、持って行くのと」
「まとまってからはレイアウトとかもやれってサ……」
プリントのページをめくりながら、伽耶ちゃんはダルそうに、平さんは不愉快そうに溜め息をついた。
どうやら伽耶ちゃんは時間が持って行かれるのが辛いみたいだ。
平さんは大抵いつも真顔なので、ボケと真面目の区別がつきにくいのだけど、今回は感情が表にハッキリ出ているね。
「……でも、意外とおもしろそうだよね」
「正直、それはないですよ」
「じゃあ僕が『旅の栞』メインで指示しても良いかな」
「……そりゃオッケーだけど、ケーマはそれで良いんかよ」
「あ、仕事が出来て来たら割り振るけどな。四人じゃギリギリになるのは目に見えてるし」
やるなら、テキトーではなくて。
為すが適当、だ。
やるだけ、やろう。
「どうせ出すの渋るグループの尻を叩いて遅れちまうよ」
「そこら辺はそうなってからだ。ウチの行程を真っ先に出して、焦らせてやろう。税込みか税抜きか決めず金額書いたり無理のある計画提示しないようにな?」
「桂くんが、燃えてんね」
伽耶ちゃんが、笑った。
学校の中では珍しく、緩んだ表情だ。
「仕方ないなあーー」
彼女は、ノリの良い人だから、楽しくさせていたい。
誰かが選んだ何かに熱中するより、親しい人と自分の時間が一番で、同時にいられる事が大切なんだ。
「それじゃ、相談しようかっ」
「もう、そうね。困ってたって好転はしないわね」
「……ケーマ、やるやん」
行程は飛ばせるだけ飛ばして、本題へいこう。
☆
急がせるぐらいのペースが丁度良かったのかも知れない。
行程の提出は僕達で見直しをするからと、予定を早めてもらい、受け取ったら直ぐチェック。
誤字修正は大したモノがなくて、時間の明記とか注意するだけだった。
やり直しは3グループだけで済み、やっぱり出し渋る内藤グループの行程をもぎ取って、改めて平さんと伸に、各グループの行程に無理や記載漏れがないかをチェックしてもらった。
二重チェック大事。
伽耶ちゃんと僕は、レイアウトを先行して見直す。
非常時の連絡先、連絡手順、園内避難場所、避難通路、注意事項は毎年恒例なので、使い回しが出来て楽だった。
各グループ1ページだから、悩む所はほぼないけど、表紙についてで頓挫した。
「白黒になるから写真は使えないし……」
「拘らなければ無料素材でいいでしょ」
「一応は、クラスに投げ掛けるか……」
そして、無駄な一日が。
先にこちらから『これとコレならどっちが良いか?』
という様に投げ掛けないと、集団は方向性を作れない。
……ってな学びがあった。
まあ、ガンバったからな。
見事に形になりました。
「これで校外学習が中止とかなったら泣ける」
「おいバカやめろ」
変にフラグを、立てないでくれ。
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