楽しみだね校外学習
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「桂くん、あの娘のコト、気になるの……?」
今まで隠れていた伽耶ちゃんが、少し涙目になりながらシャワー室から出てきた。
うん、伸が空気をぶち壊した後なので、何だかかわいそうになってしまった。
だけど、『あの娘のコト、気になるの?』か。
「いや、伽耶ちゃんのが気になる」
伸が置いてけぼりだけど、スルーさせてもらおう。
正直、伽耶ちゃんの笑顔と生田さんの笑顔では、伽耶ちゃんの笑顔に軍配が上がる。
慣れもあるのかもだけど、この事が大切だと思う。
「……ご、誤魔化されないんだから……」
「羽月さんってチョロイン?」
「伸君、シッ」
「いや、本当にお付き合いは断ったし、伽耶ちゃんみたいな魅力を感じなかったし、仲直りをしてくれるっていうからあの後も話をしたんだし……」
今日の伽耶ちゃんは儚げだなぁ。
たまにはこんな感じの伏せ目な彼女も良い。
……話の中心にはいつも伽耶ちゃんがいる。
僕の最近は、『伽耶ちゃん』が根本にいる。
「伽耶ちゃんが気持ち良く学校にいられるなら、何でもしようと思ったんだ」
「……っき! きゃ~!」
伽耶ちゃんが急に走りだした。
「えっ?」
「伽耶ちゃん照れ逃走なの?」
「ケーマの罰ゲームじゃないのか、これ何の話?」
何故かパニックになって逃げ出した伽耶ちゃんと合流出来るまで、一時間近くかかってしまった……。
追い掛けた僕はまた汗だくになった。
平さんには下駄箱で待ち構えてもらい、伸には先生の所へシャワー室の鍵を返してもらった。
で、今。
自転車置き場に向かっているが、伽耶ちゃんの調子は戻らなかった。
「ねえ桂馬君、男子は普通、女の子に自分の気持ちを打ち明けるのに抵抗があると思うのだけど……」
「う~ん、僕も抵抗はあるよ? でも言わなきゃイカンかなぁって思って…… コレ珍しい?」
「そうですね…… 伽耶ちゃんと羞恥プレイをするなら、時と場所を選んで欲しいものです」
「プレイてなんすか」
「………………っ」
恥ずかしい…… つまり、喜んでくれたんだろうか?
伽耶ちゃんがチラチラこちらを見ては、目を伏せる。
可愛いのでじっと見ていたら顔を押さえ付けられた。
「何かしらっ」
「わぷっ」
「伽耶ちゃん、可愛い」
平さんが腕を広げたが、いつもの様に抱きしめ合わないで、じっと僕を見ている……。
「珍しいのか。本音なんだけどね? 伽耶ちゃんにはそれだけは伝えなくちゃと思うから……」
「もう! もう桂くん!」
伽耶ちゃんは細い腕を僕の首に回して、背中におぶさってきた。
…………!?
いつもより、遥かに熱ッポイ伽耶ちゃんの肌を感じて、慌てる。
「なっ、え、か、伽耶ちゃん?」
「そうそう、桂くんはそうでなくっちゃ」
体が揺れると触れあった場所から熱が伝わり、首に回された腕には更に力が入り……。
たくさん柔らかい感触が。
度胸の無い僕は、揺らしては危ないという直感に従い、体を反らして固まった。
「止めなさいはしたないごめんなさい許してください……」
ああ、もう…… ホント、自分が情けない。
ただ、いつまでもそんな事は言っていられない。
☆
SHRを終えたのに、先生も居ないのに、教室から誰も帰らない。
楽しげなざわめきが、満ちていた。
「でも密林探索船は外せないでしょ? 飛沫山脈も捨てがたい……」
「あっ、恐怖の尖塔はカップル向けですって」
「二人一組、良いわね? しかも平均時間短いのは優秀」
「シューティングゲームのは僕パスだ」
「あ、そうか、まぁ俺もそりゃパスだし」
そう。
それは来月のイベント。
『校外学習』で行く、あの。
『千葉ネズミーランド』の行程を打ち合わせしてるからだ。
きっと、クラス内での一大イベントだと思う。
「まあ、そんな面倒そうな所より、隠れネズミ~マウス探しもありかな」
「でも、桂馬君と一緒に人目がない場所まで行けたら?」
何やら不穏な雰囲気を出さないで欲しい。
「ガッといってグッと!」
「伽耶ちゃん! 頑張って!」
「ありがとう初穂ちゃん!」
ガシィ……!
いつもより長めに抱擁し、やっぱり見つめ合い、伽耶ちゃんと平さんは微笑んだ。
「「うししししぃ!」」
いや、ちょっと微笑むとは言えない邪悪な感じだった。
より欲望に忠実な……。
「女の子がそんな笑い方するんじゃありません。あと、本人の前でそういう計画を話してるのは、感心しないな」
「はい、桂くん先生!」
「何かな伽耶ちゃん」
「イチャイチャが楽しみなので、無理です」
「…… そうだね…… 楽しみだね校外学習」
「はい、桂馬君先生」
「あ、何かな平さん……」
「白と黒とストライプとではどれを選ぶべきですか」
平さんまで…… 何の話しか分からないのでスルーさせてもらおう。
「そうですね、どれもいいんじゃないかな、分からんけど」
たぶん、今の僕は泣き出しそうな顔をしてる。
来月の事ではあるが、今から班分けと行動計画を作成しなくてはならないから、僕や伸を含めたグループの会話に勢いが付いてしまうのだ。
それは、やっぱりクラス全体に波及してる事だった。
「あ、ケーマ先生! 俺、ゴンドラ乗りてぇ!」
「それ、海ネズミの方な」
教室各所でそんな叫びが上がる。
自分達の言葉で更に気分が上がっている気がした。
「……桂馬、ちょっと顔かせ」
そんな中で、ゆっくり歩き近寄って来たのは、江田樹。
大雑把に切られた前髪から覗く鋭い目と、なんとなく危なげな雰囲気が、無意識に番長と言わせるぞ。
危ない、たまに口を滑らしそうだ。
バンチョーと言うとキレるから気を付けないと。
「お。分かった」
「すまん」
しかしあっさりそう答えるのは、僕が樹と友人関係だから。
『二人が並ぶと不良グループみたい☆』
とは、この間のダブルデートで伽耶ちゃんからいただいた感想だ。
厳つくて悪かったね。
「伽耶ちゃん、話をまとめててくれる?」
「良いよ、行ってらっしゃい」
「私も頑張りますよ」
「ああ、平さんもよろしく」
「ケーマ先生、俺、雲男のアトラクションが見たい」
「それは別の施設だ」
分かってて言ってるよな。
……ホントか?
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