友達は兄ぃにはなれないのに
28
「いってきまーす」
「今日は晴れたね~!」
「うん、雨上がりは気持ちいい。それで、荷物は揃ったか?」
「ある、オッケー」
「じゃ、行くか」
僕の自転車のカゴに道具袋を入れて、香里自身は弓袋と矢筒を下げて、中学までの道を歩く。
これが僕らの毎朝のコースだ。
「お前が女の子に人気なのは分かってたんだがなぁ、この前の二人みたいな男友達も居たとは……」
「その話もう終わり?」
「今、始めたばかりでしょー」
終わって欲しいなら続けないけど。
「僕が言いたいのは、そろそろ兄離れが来るのかなってことさ」
「すごく兄ぃらしい発想。心配か、淋しい?」
「淋しいに決まっとる!」
一体、何年お前の兄をやっていると思っているんだ。
香里の年齢、イコールだぞ。
淋しくないワケがない。
「考えてなかったワケではないけどな……」
「ばっかみたい、友達は兄ぃにはなれないのに」
「まあな、兄には兄の思いもあるし、最近の妹の成長に心が揺らぐのも仕方ないんだよ?」
家族の時間は大切にするのがルールだ。
因みに家庭ルールは10ヶ条。
「淋しがるコトあるかなぁ。家にいたら、兄ぃがずっと彼女のチャットみてる横で本読んでるし、腕立ての重石の替わりに背中に乗ってたり、割と一緒にいたと思うよ?」
「あ、うん、色々すまないな。ちょっとずつ成長していて、重くなって兄は嬉しい」
「そうだけど! デブってないからね!!」
香里はにわかに意気消沈して項垂れてしまった。
どうやら、痛い所を突いてしまった(?)らしい。
「兄ぃに聞きたいんだけど……」
「なんだ妹よ」
おや、どうやら素直に聞いてくれるようだ。
「確か、スレンダーな彼女さんと付き合ってるよね?」
「ん、確かに」
「あれ、あの、近所のふくよかソーちゃんは?」
「それだいぶ昔の話だなぁ。お互い疎遠になったから、中学前までだ」
「ふーん……」
「ふーん?」
どういう意図があるのか分からないまま、言葉に詰まったようだ。
交際の話がしたいのか?
「どうして離れちゃったの?」
「どうしてって…… なんでそんなことを?」
「んん、ちょっと」
「……ちょっとかね」
実は恋愛の話だと役に立てない兄を許せ。
「妹のためなら、思い出してみよう」
「うぅん、兄ぃのブユーデンは妹として聞きたくない」
「何なの、兄を玩んで!?」
「ん、まぁいいや、ガッコの友達か、おかーさんに相談する」
本当は答えが欲しかったワケじゃないんだな。
あらかじめ考えていた事があるんだろう、悩んではいるけど、いつも通りに凛々しい横顔だ。
この集中してる顔に、男女問わず惹かれているんだろうな。
「なら、いいが…… 他に何かできることがあれば言ってくれよ」
「ん、今んトコはない! ……と、思う」
是非とも平和にその悩みが解決するといいのだが。
☆
高校で僕らのグループが参加する、校内清掃日がやってきた。
放課後の活動だから、ゆるっとやっていればまぁ済むのだけどね。
担当の先生は週替わりなので、たまに手が抜けない。
ささら姉さん…… 青木先生の時とか。
「笠木君、ゴミ運びは後、草むしり続けて」
「ひい」
「平さん、草掻きが壊れちゃうからその石をどけて」
「はい……」
「大幡君、どけた石を運んで」
「はい」
「羽月さんは逃げるな」
「ひゃん」
見事にコントライブですわ。
中庭の日向の角とは言え、手入れは楽じゃないね。
まあ、一緒に働いてくれる青木先生は良い先生。
太陽の手加減は欲しかった。
夏日にやる作業では、なかったよ……。
☆
「はあ、あっちいぃ」
汗だくになり、ジャージは脱ぎ捨てたけど、体操服はベタベタと貼り付いていて不快だ。
「シャワー使いたい……」
「早く帰りたい」
「ひぃ……」
続いて平さん、伽耶ちゃん、伸の順に溜め息と汗と愚痴が溢れた。
今日は蒸し暑いし、キッツいな。
「もう少し頑張れるならシャワー使えるよ。プールの清掃準備なんだけどー……」
清掃『準備』?
そのセリフに、皆の頭に疑問符が浮かんだだろう。
「水は程々に抜いてあるから、プールサイドを掃除して欲しいのよ」
「あぁ、掃き掃除と、排水溝の掃除ッスね」
「ホントですか! 先生!」
「うん。頼めるならシャワー室の許可もぎ取る」
「乗ったぁ……」
「伽耶ちゃんがやるなら…… やるか」
「シャワー……」
中々に魅力的な対価だ。
汗まみれの胸元を扇ぎながら、深呼吸をして動き出す。
「ようし、がんばろ……」
「シャワー……」
何%か魂が抜けていたかも知れないけどね。
作業は大した事はなく、風で飛んできたゴミや、排水溝に残っていたモノを捨てるだけの簡単なお仕事だった。
4人いたから、20分程度で終わり。
プールの中で溺れていた毛布や洗濯物だった布とかが重たくて、重労働になったけど、体力は余ってるからね。
それを見越して、青木先生は僕らに声をかけたのかも。
「はい、お疲れ様。タオルも水泳部の備品借りてきたから、下着類だけ乾燥機使ってね」
「さすがお姉様っ♪」
「シャワー……っ」
伽耶ちゃんと平さんの声に、喜びが混じっていた。
男子も当然喜び、其々の至福の時間を楽しんだ。
着替え(制服)を忘れて、伸と僕は遅れて男子シャワー室に入ったんだけどね。
休憩室の姿見で身嗜みを整え、更衣室を出ると、既に平さんが待っていた。
「あ、桂馬君、ちょっとお話いいかしら」
……うん、悪い予感しかしないのは、僕のせいじゃないハズだ。
最近、女子から話し掛けられて大変じゃなかった事がない。
「木場さんと、隣のクラスの生田さん、知ってますよね」
「あ、うん、ついこの間喋ったばかりだけど」
「その二人から、伽耶ちゃんあてに呼び出しがありまして」
その二人からなら、話はアレだ。
「えぇと…… 伽耶ちゃんには、説明したんだけど……」
「横恋慕されたんでしょう?」
「よこれんぽ」
「聞いていますよ、大体は」
「話が早い」
なら、二人が謝りたいと思っている事も、誠意を持って対応してくれそうだという事も伝わってる…… よね?
平さんの表情から、不機嫌そうだなぁとしか感じられない。
……大丈夫かな?
「謝ってくれる、という認識でいる桂馬君は能天気……」
「……どゆコトですか」
やっぱりダメ出しだった。
「いいですか。女子高生にとって、恋愛は生活の一部だと言っても過言ではないと思います。特に同じクラスの男の子や、部活の先輩や、塾の友達等の同年代に対しては。彼女たちは色々な人に恋をするし、そこにはそれぞれの形、物語があるんです」
あんまり聞きたくない内情だ……。
「もちろん、私も例外ではないですよ。ただ私の場合、ちょっとその相手が……。いえ、この話は止めましょう」
恨みの籠った視線でじとっと睨まれつつ、平さんは話を続けた。
「生田さんの行動だって、お詫びをする=伽耶ちゃんに負い目を植え付ける、という企みかも知れません」
「考え過ぎでは」
「実際、伽耶ちゃんは動揺してますよ、正面切って宣戦布告されたのと同じですから……」
そうなんだろうか。
生田さんは、そんな腹芸が出来るとは思えないけどなぁ。
「っかぁ、さっぱりしたぁ…… アレ?」
伸、お前は強いな……。
空気をぶち壊す天才かな。
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