私達、お友達だよね
27
先を歩く木場さんに続いて、隣の教室を目指す。
ドアを開いて中を覗くと、二人が思った通り、もぬけの殻だった。
一体、何を話したいのだろう。
「うっわ、どんどん雨が強まってるな……」
「そっそ、そうだネ……」
「諦めて帰るのも手だね」
窓には雨粒が止めどなく打ち付け、細かなリズムを刻んでいる。
強風がないのが救いかな。
見上げた感じ、雲の上に光が透けているし、止みそうなのだけど。
本格的に止まないなら強行突破だ。
教室の灯りは半自動になっているので、時間外の今は少し薄暗かった。
雨音だけが響き、なんとなく、非日常の空気感。
中々話し掛けない生田さんに焦れた木場さんが、僕に話し掛けてきた。
「大幡くんってさ」
「えっはい」
「物凄くゴツいよね」
「あ、いや…… ホントそうネ」
木場さんは中々辛辣ぅ、かと思えば生田さんもだった。
慣れてるけど。
「まあね、鍛えてはいるよ」
しかし決めたポージングはスルーされた。
解せぬ。
……えっ、この話題これで終わり?
「私からちょっと聞きたいんだけど、大幡くん彼女いる?」
「ちょっ? 夕子ちゃん!!」
一足飛びに踏み込んだ話題キター。
来なくて良いのにキター。
「……いるよ」
「まぁ、羽月さんがいるって知ってるんだけどね。でも、まだチャンスはあるのか聞かせてよ」
「……どうしてそんなことを聞くのかな?」
「私じゃないよ、うん。というか、トーカはどう……?」
「ふぅわわわわ……」
怪奇音を出しながら、生田さんは湯立っている。
……可愛らしいとは思うけど、一緒にいたいとは感じられない。
「男女交際にはならないかな?」
「うん、ならないよ」
居心地が悪いけど、正直に言わないのは不誠実だから。
生田さんが悲しそうな顔をしていた。
「バッサリね……」
「うぅっ……」
「トーカ、諦める?」
「ん、ヤダ……」
聞いたことを後悔しているような、けれど満足しているような……?
首をふった生田さんから見詰められた。
真っ直ぐな…… 強さのある瞳だった。
「あーあ、フラれちゃったあ」
「えっ? あ、いや…… ゴメン」
泣きながら笑う彼女を、木場さんが抱き締めた。
宥め透かすお姉さんみたいだね。
「はい、よしよし。私達、フラれコンビになっちゃったね。私も鈴原くんに告白してるんだけどフラれっぱなしでさあ……」
「ふうん……?」
鈴原…… 木場さんも同じ中学なんだから一応は知ってる。
樹と仲が良いヤツだ。
部活に全力を出してた熱血漢だと思う。
「私達は魅力ないと思う?」
「いや、そんな事はないと思うよ」
何だか遠回りだけど、友達…… 友達の交際か。
恋愛なんて、僕みたいな内気には遠い話だと思い込んでいた。
とんでもない。
日常のそこかしこに溢れているモノだった。
しかし、僕はてっきり、伽耶ちゃんとの交際関係について違和感や疑問でも持たれたのかと思ってたよ……。
彼女と交際のふりをしているだけで、見せかけの関係を使った誤魔化しだと気付かれたかと。
「……ああ、鈴原か、スポーツマンだからね。僕も恋愛には疎いけど、彼からそういう浮いた話は聞かないし」
木場さんが不思議そうな顔をした。
「……知ってるの? 走くんのコト! タイプとか、趣味とか!」
そして暴発した。
女子には起爆剤があるらしいね。
「タイプは知らないけど、木場さんも僕も彼と同じ中学でしょ。間に同じ友人を挟んでいる程度の知り合い、だよ」
木場さんの顔色が、劇的に変わった。
……やな予感がする。
「それならっ…… お友達、私達、お友達だよね!」
起爆剤が強めだった。
いつお友達になったんだ?
「お友達でしょ、だから、大幡くんに頼みたいんだけど」
「いや、何か大変そうだから止めておくよ」
「最後まで聞きなさいよ」
「……ひゃい」
何故に胸ぐら捕まれてるのか分からないなあ。
女子は、時々狂暴になるよね。
「カケルくんの、コトを、教えて」
「いいデスヨ」
分かる事と、言える事だけならね。
「……私も、お友達に、いいの?」
「はい、トーカはまだ黙る」
木場さんに抑えられ、生田さんが諦めの表情で笑う。
既に上下が決まってる感覚だ。
「羽月さんの彼氏なら、きっと情報も豊富だと思うし」
「言っても、分かる範囲だけしかデータはないと思うよ」
「友達リクエストで、貰えるだけ情報を貰いたいわ。対価が欲しいなら、トーカで運動練習でもしてくれたらいいのよ」
「意味がわかんないデス」
「……ソウデスよね……」
生田さんの顔がボッと赤くなり、縮こまったのが少し可愛く思えてしまって、首を振って目を剃らす。
「肉付きはいいはずよ?」
「ポチャくないもの!」
まあ艶っポイ話にはしないし、流れてしまうだろう。
「スマホ出して! 登録して! 早く!」
「強引だなあ……」
「その代わりに、もう悪口とか言わないから……」
「あっ」
そうか、木場さんは伽耶ちゃんの悪口、陰口を言っていた一人だ。
接点はあったね、ヤな方向で。
でも、これで伽耶ちゃんの気持ちに少しでも負担がかからずに済むなら、いいか。
……ふと気がつくと、生田さんは深刻そうに顎に手を当てて考え込んでいた。
友達の恋愛事情が大切だからかもしれない。
「ちょっと聞きたいんデスけど」
「ああ、何?」
「羽月さんって、大幡くんの彼女ダヨネ?」
「うん、そうだよ」
「夕子ちゃんが、うざったいって言った娘?」
「……そうよ」
「じゃあ、仲直りしないと」
真っ当な生田さんの言葉に、木場さんは絶句し、僕は感動した。
うちのクラスの事だから、生田さんにしてみたら他人事。
友達のクラスの事だというだけなのに。
そう気持ちを込めて考えてくれた事に感謝する。
「その通りだろうけど、私だけがやっても意味ないよきっと」
まあ、そうなんだろう。
「……でも、言ってもらえるコトに意味はアルんじゃない?」
「……いや、だから一人だけじゃ」
「違うヨ、アタシも謝る!」
「えぇ…… トーカは愚痴ってないじゃん……」
「デモ、夕子ちゃんの言葉に頷いたりしたし、果てにはその恋人に告白まで!!」
告白はされてないかなぁ、木場さんが代行してた。
「友達としてもダメでしょ。まあ、一方的でも仲直りしないと話せないヨ」
……天使かな。
優しい人だ。
まあ、伽耶ちゃん程ではないか。
フラれコンビは諦めないです☆(°▽°)
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