密着☆
23
世間ではゴールデンウィーク最終日。
僕は、伽耶ちゃんの家にやって来ていた。
二人きりで何をすりゃいいんだなんて、思った事もありました。
彼女の仕草一つ一つにドキドキする。
髪の毛が揺れて、目を奪われる。
指の細さにビックリする。
我ながら動揺し過ぎだとは思うけど、どうしようもない。
伽耶ちゃんが、可愛いのが悪い。
いや悪いことは無い。
……何言ってんだか分からないよ。
「……え、えへへ…… あ、卒アル見て欲しいんだ」
「あぁ、是非」
伽耶ちゃんが出してくれた中学の卒業アルバムには、今より若干背の低い、だけど元気な日焼け顔の彼女がいた。
「あんまり変わってないね」
笑顔に元気が溢れていて、とても楽しそうな伽耶ちゃんが写真に収まっている。
所々で見きれてるけど。
きっと、じっとしてなかったんだろうな。
「うーっ、確かにサイズは変わってないケドさ」
胸元を見ない。
溜め息を吐いて、伽耶ちゃんは自嘲した。
「いや、元気そうな顔がね」
「だいぶ黒かったのよ」
「確かにね……?」
伽耶ちゃんの写真は、1年生の時には友達らしき子供達と写っているのに、2年生の半ば以降は写っている枚数が減り、顔が笑っていない。
集合写真に写っていなかったり、怪我した写真が、あった。
何だろう、凄く、イヤな感覚だ。
「気付いたかな~?」
声は明るいのに、伽耶ちゃんは泣きそうな顔をしていた。
「私、苛められてたんだぁ」
「そんな……」
信じられない、でも、まさか。
彼女自身のカミングアウトだから、ウソなわけもない。
何が、あったんだろう。
「これが、私の言いたくないコト。何が原因なのかとかはもっと仲良くなったら、教えてあげてもいいかな~」
「…………」
何を、言えば。
伽耶ちゃんが、そんな目に遇っていたなんて。
「桂くんの言いたくないコト、無理やり聞いちゃったからね、お詫びってコトで」
「伽耶ちゃん」
何か、してあげたい。
瞬間、そう思って。
何かを、あげたい。
泣きそうな顔を見て、抱き締めていた。
「………………桂くん?」
誰が、誰を抱き締めて?
「っわゴメン、伽耶ちゃんが愛しいのと何か、したげたいのとでパニくった……」
離れようと手を離した。
「待って」
その手を、伽耶ちゃんが掴む。
そして、元の位置に戻した。
「このまま、抱き締めてもらっ…… いいかな……」
伽耶ちゃんは、泣いていた。
「……モチロン。僕は彼氏だからね」
大して気の効いたセリフも出せなかったけど、女の子を抱きすくめてしまったのは僕だし、責任を持って胸を貸してあげるよ。
☆
「ただいまぁー」
2回ノックがして、ドアノブが鳴る。
はっとして離れようとしたけど、伽耶ちゃんを膝に乗せているので身動きは取れなかった。
「あっ、鍵かけてるなぁ…… これはっ」
「母さん、止めなよ」
「伽耶ちゃん、お昼まであと1時間くらい掛かるから~」
「母さん、ホラ、行こう」
「もう少しゆっくりしててねぇ~」
お母さんとお兄さんの足音が遠ざかっていった。
……あれ、伽耶ちゃんが無反応だ。
「……すぅ……」
寝てる……。
「伽耶ちゃん」
「っぅ…… ん」
甘えるように、頬を寄せて腕の中に潜り込んでくる。
……ぎゃあああ。
改めて考えてしまった。
まずくないか。
二人きり、男女、気持ちをお互いに知っている(?)、密着☆
「女の子は、何で良い香りがするんだろう」
考えなくても良い事を、考えてしまう。
いけない、邪念と欲望を捩じ伏せていないと、僕には1時間の自由時間があるらしいぞ。
意識を、他の事に向けよう。
腕の中の、可愛くて温かい存在に眼を向けたら負けちゃうので。
……それにしても、本当に女の子と仲良くなれたんだな。
いつの間にか、なるべく近くに居たいと思う程に。
不思議だ。
いや、これも伽耶ちゃんの人柄の成せる技なのかもしれない。
というのも、僕はけっこう人見知りだ。
僕はアウトドア、インドア、どちらにも趣味があるし、口数は多くはないけど、人付き合いは苦ではない。
ただ…… 最初の一歩が、遠い。
僕の趣味や、友人からの紹介とかの間繋ぎがないと、だいたい拒否か引いてしまう。
伽耶ちゃんは最初からグイグイ来てたからなぁ。
なのに、あの姿が、苛めの後で気張っていたのだと思うと、ちょっと悲しい。
「伽耶ちゃんにも、抱えているものがあった」
当たり前なのに、考えて来なかったな…… 何にも知らなければ、相手への思い遣りなんて役立たずなのに。
今までの僕らの関係は、上辺だけだった。
普段なにをしているとか、学校以外ではどんな感じかとか、現在の伽耶ちゃんを見ているだけであまり知らないのを再確認した。
知りたい、けど、踏み込むのは踏み込まれる事に違いない。
相手を知るのは、相手に知られる事。
だけど…… 伽耶ちゃんは僕を調べた?
僕に、知られたくない事を話してもいいと思える位の信頼を持って。
……その事に、顔が赤くなる。
伽耶ちゃんからの信愛を確認して。
腕の中の温かい存在の身動ぎに意識が持っていかれた。
まずい、ヤバい、また欲望が全力疾走するーー!
「伽耶ちゃん……」
ぴくっ。
伽耶ちゃんの肩に、一瞬強張りがあった。
……起きてる?
「……伽耶ちゃんは、可愛いな」
ピクッと、伽耶ちゃんの頬が震えた。
あー、起きてるね。
また隙を見て、からかう心算なんだね。
なら、ちょっと独り言を呟いても、いいかな。
「寝ているから何しても平気かな」
ピクッと、また肩が揺れる。
「どうしよう…… もう我慢できないかも」
体が、プルプルし始めた。
「伽耶ちゃんは、とっても綺麗な手をしてる」
伽耶ちゃんの左手の指先を爪先でなぞる。
……耐えるなぁ。
「社交的で、楽しいお喋りさんだから、僕と相性がいいとは思ったんだけど…… 伽耶ちゃんは僕のコトを、どう思って…… いるのかなぁ」
調子に乗って、恋人がする様な手の繋ぎ方をしてみた。
「ひぁっ……」
大変残念ながら、ここまでです。
「やっぱり起きてるじゃん」
「くっころ!」
「くっころて(笑)」
「あー、もうっ、何でガバッとこないかな!?」
「しないってば」
中途半端を抗議されたけれど、そんなことをする気は『まだ』ない。
「仕方ない……」
僕と恋人繋ぎのままだった左手で、僕の右手を持ち上げて、伽耶ちゃんは身体を入れ替えるように立ち上がり。
何気なく肩から僕にぶつかる動きで腕を捻り…… 僕をベッドの上に投げ飛ばしていた。
「ひいえ?!?」
何が起きたのか。
僕を、投げ飛ばした?
スゴすぎないか、体重の差、倍以上だぞ。
「引いてダメなら押し倒そう」
「それは、女の子がしちゃダメなヤツ!」
止めようと上げた僕の左手を、一瞬ためらって…… 自分の胸元に導き、伽耶ちゃんが唇を舌ナメ………… アッーー!
扉にノックの音。
「ご飯できちゃったわよ~」
その時、お母さんからの報せが!
ナイスお母さん……!
「ちっ……」
「伽耶ちゃん、桂ちゃんと一緒に早く来てね?」
「…… まだ一時間経ってないじゃない……」
やっぱり最初から起きてたんだな。
危ない危ない……。
お母さんのお陰で、僕と伽耶ちゃんの貞操は守られた。
……伽耶ちゃんちには、暫く来れないな。
色々な意味で。
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