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魔法使い最強、アリシア

 ――翌日になると、重苦しい空気が漂っていた。

 ミアを先頭に森の中を歩き、魔法使い側へ向かう。

 防壁があるため、能力者側から魔法使い側の街へ行くには、回り込んで関所を通ることになる。

 森の中にある比較的舗装された道を通ると、頑強な壁に突き当たる。

 この階層中央、仕切りのようにまっすぐ伸びている壁だ。

 能力者側の壁は、金属製で頑強そうだった。

 アキラは無言でミアの背中を追い、歩いていた。

 後方、ヒューイも黙してついてきている。

 空気が重い。

 昨夜の一件から、ヒューイは明らかに落ち込んでいるし、ミアの表情も硬い。

 その発端はアキラなのだが、アキラにはまったくとして罪悪感がない。

 彼に非はないのだ。

 ただ非情ではあるだろうが。

 道を進むと、数メートル以上の厚みがある門に到着する。

 何かしらのギミックがあり、門の表面には、おうとつがいくつもある。

 表面には操作パネルがあった。

 その場には人がいないようだが。

 ミアがパネルを操作し、何やら話している。

 しばらくすると門が開き、中へと入れた。

 鈍重な動きで門がゆっくりと開かれる。

 中は空間があり、詰め所がいくつもあった。

 正面にはまた扉があり、今度も同じように分厚い扉だ。

 正面の扉までにはそれなりの距離がある。

 小さな町ならばすっぽり入りそうな空間だ。


「あれを通れば、魔法使い側に行けるわ」

「……そうか。簡単に通らせてくれるとは思えねぇが」


 情勢を鑑みれば、互いの領域を行き来する理由はあまりないように思える。

 ほぼ絶縁状態。むしろ戦争間近であるのに、通行するとなればスパイの嫌疑をかけられてもおかしくない。 

 そうなれば強行突破するだけだが。

 門付近には能力者達が佇んでいる。

 見えるだけで百近くの能力者達がいる。

 ミアは迷いなく、まっすぐ魔法使い側の扉へと向かった。

 すると、彼女の行く手を遮るように複数の男達が立ちはだかる。


「止まれ」


 ミアは抵抗することなく、即座に足を止めた。

 アキラとヒューイもそれに倣う。


「おまえが例の?」

「ええ。通りたいんだけど」

「……その後ろにいる奴らは誰だ?」

「今日から手伝って貰う新人よ」

「聞いてないな」

「カイには話を通してあるわ」

「……確認する」


 男が詰め所に戻ると、再び戻ってきた。


「確認した。通れ」


 魔法使い側の扉が開いた。

 アキラはミアを一瞥しただけで何も言わない。 

 普段なら何か口を挟むであろうヒューイも、今は無言のままだった。

 門を通り、魔法使い側へ向かう。

 と。

 光景が変わった。

 今までは無機質で、近代的なデザインの建物ばかりだったが。

 魔法使い側の家屋は木材や石材が主で、時代がかっている。

 だが粗雑ではなく、どこか牧歌的で中世的。

 それでいて幻想的な、淡く光る玉が空中を遊泳している。

 服装や情景はファンタジーの様相を呈している。

 魔法使い、という単語通りの恰好の女性や男性。

 ひらひらとしたマントや服を着ている。

 杖のような道具以外にも剣や槍を持っている魔法使いもいた。

 ここが。

 魔法使いの領地。

 中に入ると、能力者側で言われたような質問をされたがミアが対応し、問題なく通れた。

 扉を通り外へ。

 能力者側と同じように、森が広がっている。

 道は舗装されているが、コンクリートではなく、ただ雑草を除去しているだけのようだ。

 ミアが先を進み、アキラ達がその後に続いた。


「すんなり通れたな。何を言ったんだ?」

「あたし、門番の仕事が休みの時は、互いの領地を行き来して交易してるから」

「交流は一切ないわけじゃなかったのか?」

「あるわよ。一応。確かに敵対してるけど、交流を一切なくすってのは難しいから。

 過去には交流があって、その伝手で色んな素材とか物資とか技術とか、そういう交易がおこなわれていたわけだし。

 おかしな話よね。もうすぐ戦争だっていうのに、交易はできるんだもの」


 確かに。

 戦争を起こすから、事前に国交を断絶する、なんて国はあまりないだろう。

 すでに冷戦状態で、完全に敵視し、互いをけん制し合っているというのならばおかしくはないが。

 過去では交流があったのだから、完全に関わりをなくすわけにもいかない。

 ミアの話を聞いて、アキラは理解する。

 彼女はただ無策だったわけではなく、互いの領地を行き来できる地位を手に入れていた。

 これならば戦争を止めるための行動もしやすくなるだろう。

 ミアなりに色々と事前に準備していた、ということだ。


「ってか、あんた、あたしがいなかったらどうするつもりだったの?」

「いざとなれば、ぶっ飛ばして」

「あんたそれしかないの……もう少し考えなさいよ」

「考えてもどうしようもないことは考える意味がねぇからな。

 あの状態で俺が魔法使い側に移動するには、門衛たちをぶっ飛ばして押しとおるしかねぇだろ?」

「……それはそうだけど。無謀すぎるわ」

「無謀でも行動しなきゃなにも変わらねぇだろ」

 ミアは何か考えるように視線を落とし、そして小さく笑った。

「あたしも、あんたみたいに真っ直ぐ生きられればいいんだけどね」


 ただ純粋に、一つの目的に向かって進む。

 それができればどれほど楽か。

 できないからこそ困難なのだ。

 三人は道を進み、魔法使い側の街へたどり着いた。

 門は開かれ、左右に門衛がいるが、中央に通る防壁にあった扉に比べれば警備は薄い。

 なるほど、結界はかなりの信頼を得ているようだ。

 街に入る時、ミアが通行証らしきものを門衛に見せると、簡単に中へ入れた。

 内部は外観通り、自然と人工物の融合がなされた情景が広がっている。

 木々をくりぬいたり、単純な木造建築の家屋。

 石が敷き詰められた道を通る。

 そしてアキラは辺りを見渡す。


「……なるほどね」


 道行く人、いや超人である、魔法使い達。

 彼等は油断なく、歩き、その所作で鍛錬の一端が垣間見える。

 忘れてはならない。

 ここは最強達が訪れる世界なのだ。


「あ、あの、アキラさん」


 後方を歩いていたヒューイが、恐る恐るアキラに話しかける。


「なんだよ」

「そ、そのこっち側に来たのはいいんですけど……これからどうするんです?

 ま、まさか、こっち側のリーダーとも会うなんて言うんじゃ」

「そのつもりだ。会えるならな」


 ヒューイは悲しげに顔を歪ませた。

 だが、何も言えない。

 自分はただの足手まといで、ついてきているだけの存在なのだから。

 アキラがちらっとミアを見ると、嘆息し肩をすくめた。


「さすがにアリシアに会えるかはわかんないわよ。

 あたし一応能力者側の人間なわけだし。聞くだけ聞いてみるけど」

「頼む」

「……それじゃ、まずはギルドに行きましょうか。

 そこで統括支配人と話して、取り次いでもらいましょう」


 アキラが頷くと、ミアは歩き始める。

 しばらく進むと、一際大きな建物に到着した。

 人通りが激しい。かなり繁盛しているようだ。商売が絡んでいるかはアキラにはわからないが。

 中へ入ると、三々五々、人がそこかしこにいた。

 受付にいる女性にミアが話しかけている間、アキラは少し離れた場所で辺りを見回す。

 まるで別の世界に来たみたいだ。 

 地球から異世界へ行くと決めた時も思ったが、時々これが夢なのではないかと感じる時がある。

 非現実的な現実を受け入れることはできても、それが自分の日常だと思うには時間がかかる。

 ここが、これから生きる場所なのだ。

 死ぬように生きるのではなく。

 戦って生きるために。

 少し時間が経過すると、ミアが戻ってきた。


「いいって。アリシア、会ってくれるみたい。

 なんでかはよくわかんないんだけど。ずっと会えなかったのに……」

 悲しげに目を伏せるミアを見て、アキラは特に声をかけることはなかった。

「言っとくけど、いきなり殴りかからないでよ」

「わかってるっての。もうしねぇよ」

「……全然、安心できないんだけど」


 ミアは何とか気を取り直し、ギルドを出た。

 アキラとヒューイは再び、彼女の背中を追う。

 向かった先には、巨大な樹木があった。

 能力者側では巨大な塔だったが、こっちは木だ。

 あまりに巨大で、天井に触れるほどに高い。

 巨木の根元には幾つも扉があり、中へ入ることができる。

 内部はひんやりしており、忙しなく人が歩いている。

 中央にある受付で、話を通したミアが、アキラ達を手招きする。

 近づくと女性が首を垂れる。

 案内をしてくれるようだ。

 彼女が先を進み、アキラ達はその後に続く。

 部屋の端には魔法陣のようなものが床に描かれていた。

 その上に乗ると、一瞬で別の空間に飛んだ。

 廊下がまっすぐ伸びている。


「はっ!? な、なにこれ!?」


 驚いているのはヒューイだけだった。

 アキラ達はさっさと先へ進み、それに気づいた、ヒューイが慌てて追いかける。

 廊下の先にある扉前にたどり着くと、案内役の女性は横へ避ける。

 中に入ると、そこは蒼が広がる。

 空間を漂う淡い光の玉。

 壁には幾つも棚があり、その中には金属質の何かが入っている。

 そこら中で何かが動いている。

 箒やちりとり、雑巾達が自分で動いている。

 掃除をしているようだ。


「す、すごい……ちょっとかわいいかも……?」


 ヒューイが驚きながらも興味深げに、箒達を見ていた。

 アキラは思わず近くを通った箒を眺める。


「……ふーん」

「すまないが、それに触れないでくれるか?」


 奥から聞こえた声に、三人が同時に顔を上げた。

 そこにいたのは黒髪の女性だった。

 豊満な体つき、色気のある雰囲気。

 妖艶さを兼ね備えながら、どこか剣呑としている。

 その理由は彼女に表情にあった。

 絶対零度の視線。

 凍るように瞳に、誰もが恐れおののく。

 雰囲気がある。強者のそれだ。

 身体の線が出るような服装をしている女性は、コツコツと靴音を鳴らし、近づいてきた。


「久しぶりだな、ミア。元気にしていたか?」

「う、うん。アリシアは?」

「私は、そう、だな、まあまあってところだな」

「そ、そっか……」


 そして二人して無言になった。

 友人関係であるはずだが、どうもぎこちない。

 そんな空気をヒューイは感じ取っていたが、アキラは気にしない。

「カイとかいう奴と会って、能力を見たんだが」

 アリシアがピクリと眉を動かす。

 それはそうだ。

 魔法使い側のリーダーとの会話で、能力者側のリーダーの名前を出すなんて。

 明らかに無神経。

 ミアはアキラに何か言おうとした。

 しかしアキラが手でそれを制止した。


「あんたは、どんな能力なんだ?」

「……貴様はミアが言っていた、人間の身でありながらこの超人域に足を踏み入れたという?」

「ああ。モガミアキラだ。こっちはヒューイ」


 アキラが指でヒューイを差す。

 ヒューイが慌てて頭を下げたが、アリシアは興味なさそうに一瞥しただけだった。


「なるほど。人間の割に、鍛え上げられているな」

「……くっ」


 アキラはほんの少しだけ笑った。

 普段見ない、アキラの行動にヒューイはうろたえる。


「ア、アキラさん、いきなりなんですか! し、失礼ですよ!」

「いや、悪い。ちょっと色々と思い出してな」

「……構わん。これくらいで機嫌を損なうほど、幼くはないからな。

 それで私の能力だったか。話すよりも、見せてやる方がいいだろう」


 アリシアが掌を上にすると、その上空に水の泡が浮かんだ。

 ぷかぷかとその場で留まっている。


「私は水魔法を操る。これは大気上の水分を凝縮させ、質量を増やしている。

 集め、動かす。基本的に私ができるのはそれだけだ。しかし多少は質を変えられる」


 水泡が徐々に凝固する。


「水を冷やせば氷になる。そして」


 今度は氷が、解け液体になると、蒸発して消えた。


「熱すれば蒸気になる。これの規模が小さいか大きいか。これが魔法。

 私の場合はこれしかできんな。大したものではないだろう?」


 ヒューイはそれを見て、なんだそんなものなのか、と思った。

 だが、アキラやミアの表情は硬い。


「なるほど。教えてくれてありがとよ」

「何、別に構わん。私としてはミアの顔が見れたので満足だ。

 すまないが、あまり時間がなくてな。そろそろ帰ってもらえるか?」

「あ、うん、ごめんね。忙しいのに」

「いいさ……これくらいは。それじゃ」

「……バイバイ」


 アリシアは背を向けて、ミアは彼女の背中を見つめる。

 縋るように見つめるミアの視線に気づかず、アリシアは部屋の奥へと戻っていった。

 三人は部屋を出た。

 アリシアとの会話には何も意味はなかった。

 ただ顔を見ただけ。

 それは友人が許された行動でもあった。

 だが。

 二人の距離は明らかに遠かった。


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