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俺が叶えてやる

 三人はアリシアの部屋を出た。

 待機していた案内の女性に連れられ、廊下を進んで、階下へ。

 樹の塔を出ると、ミアが大きく息を吐いた。


「あはは、久しぶりに会って緊張しちゃった……」

「ミアちゃん……」


 間違いなく強がっていた。

 ミアの顔は引きつっていたし、手は少し震えていた。

 彼女はアリシアを友人と思っているが、アリシアは……。

 あれではあまりにそっけない。

 そんな二人を無視して、アキラは先を進む。


「おい、行くぞ」


 さすがにむっとしたヒューイがアキラの近くまで瞬時に移動して、耳打ちする。


「……アキラさん、ちょっとミアちゃんに何か言ってあげたらどうですか?」

「何かって何を?」

「い、いや、ほら、元気出せ、とか」

「元気出せって言われて出せる奴いるかよ」

「そ、そんな屁理屈はいいですから!

 や、やっぱり彼女かわいそうじゃないですか……一人で、何とかしようとしてるみたいだし」

「だから手助けしろって?」

「そ、そんなことは……僕には言えませんけど……」


 どんどん声が小さくなり、やがて無言になってしまう。

 俯いたヒューイとミアを見て、アキラは後頭部をガシガシと掻く。


「おい、ミア。ここの住民登録はギルドですんのか?」

「え? う、うん、そうだけど」

「だったらギルドに行くぞ」

「……アキラさん、こっち側で登録するんですか?」

「ああ。とりあえずはな」

「アキラさんのとりあえずは怖いんですけど」

「いいからさっさと来い。おまえも、ぐだぐだしてんじゃねぇよ」


 アキラはヒューイとミアを肩に担いだ。

 あまりに早い行動に二人は反応できない。


「ちょ、ちょっと! な、何してんのよ!?」

「や、やめてくださいよ、アキラさん! ま、周りの人が見てるぅっ!」

「うるせぇっ! ったく、うじうじしやがって、うざったくてしょうがねぇんだよ。

 さっさと来い。面倒くせぇんだよ!」


 アキラがかっちり掴んでいるものだから、二人は逃げられない。

 暴れても微動だにしない。

 ミアがテレキネシスを使っても同じだった。


「な、なんで動かないのよ!? あんたどんな腕力してんの!?」

「同じ技は通用しねぇっての」

「わ、技ってか、もう現象なんだけど……あ、ちょ、ま、待って!

 この恰好、イヤ! パ、パンツ見えちゃうでしょ!」

「見たい奴には見せとけよ」

「いやに決まってんでしょ!? お、下ろして! この、ばかぁっ!」


 背中をぽかぽか叩かれても、アキラは無視した。

 二人に任せていてはいつまでたっても進まないからだ。

 この男、鬼畜生である。

 ちなみにヒューイもミアもずっと荷物を背負っている。

 なので総重量はかなりのものだ。

 二人が暴れ続けるので、アキラは足を止めて、放り投げた。


「いだいぃっ!」


 ヒューイは地面に落ちたが、何とか鞄が衝撃を吸収した。


「あぶっ! ちょ、何すんのよ!?」


 ミアは地面に触れる寸前でテレキネシスで衝撃を緩和する。

 空中浮遊レビテーションのようなものだろう。


「ついたぞ。さっさと登録する。こい」


 二人の腕を掴んで、強引に引きずる。

 そのまま移動し、受付の女性に言った。


「所属登録。三人分、頼む」

「さ、三人分ですか?」


 訝しがりながら、左右にいる二人を見た。

 どうみても無理やりである。


「そうだ」

「ですが」

「おい、お前ら、さっさとしろ」

「痛いって! も、もう! あ、あたしも登録するわよ」

「僕もしますから! 離してくださいって!」


 言われて、アキラはようやく二人を離した。

 不満げにアキラを睨んだ二人だが、それ以上の圧力で睨まれて何も言えなくなる。

 署名し、登録が済む。


「入居者は無料宿泊施設が一か月利用できます。

 それまでに、どこかで就労し、生活費を貯蓄することをおすすめします。

 これで本登録ができましたので、街の設備は利用できます。

 何かご質問があればお答えしますが」

「いや、ねぇな」


 アキラに即答されて、受付の女性はたじろぐ。


「そ、そうですか。それでは、ゆ、豊かな生活を」

 手続きを終えると、またアキラは二人を抱えた。

「ま、またなの!?」

「や、やめっ、やめてぇっ!」


 そのまま移動し、人通りの少ない路地裏に行くと、二人を放り投げた。


「またいだいっ!」

「また、あぶっ!」


 先ほどと同じように、二人は地面に落ちた。

 不満そうにアキラを見上げる二人だったが、異常な程な威圧感に気づいて閉口する。

 アキラは腕を組んで、二人を見下ろしていた。


「おい」

「ひゃ、ひゃいッ!?」

「な、何よ」


 アキラはヒューイを視線で射抜く。


「まずヒューイ」

「は、はい」

「おまえ、何のためにここに来てんだよ。何のために俺について来てんだ?」

「それは……」

「おまえ、強くなりたいって言ったよな?」

「い、言いました」

「で? おまえは何してんだ?」

「な、何って」

「おまえは強くなりたい。一人でも生きていけるくらいに、ってそう言ってただろ?

 なのに、おまえはなんだ。何もしやしない。文句言ってるのはいい。不満もいい。

 だけどよ、何もせずにいるのだけは許せねぇ。てめぇはなんだ?

 なんでここにいんだ? なんで俺と一緒にいんだよ」

「そ、それは……」


 アキラの言葉通りだった。

 ヒューイは何もしていない。

 何も。 

 彼と共に過ごし、まだ数日。

 だが、その間、何もしていない。

 ただアキラについていっているだけだ。

 鍛錬も、アキラの戦いを学ぼうともしていない。

 アキラを見て、この人のようにはなれないと思っていただけ。

 結局、過去と同じ。

 強くなりたいと、弟子にして欲しいとそう思ったのに。

 結局何もせず、口だけ動かしていた。


「で、でも……でも、どうすればいいんですか!?

 ぼ、僕だって強くなりたい! ……けど、どうしていいかわからないんです……」


 アキラは嘆息し、優しい声音で言った。


「いいか、ヒューイ」

「は、はい」

「そんなこと、俺が知るか、馬鹿」


 言い切った。

 ばっさり斬った。

 ヒューイは泣いた。


「おまえがどうすれば強くなれるかなんて知ったことじゃねぇ。

 最初に言っただろ。俺はおまえを鍛えるつもりなんてねぇ。

 ただついてきてもいいってな。今まで、おまえは考えたか?

 真剣に、死ぬ気で、本気で、どうすれば強くなれるかを。

 そして行動したか? 少しでも強くなろうと貪欲になったか?」


 すべて否定だ。

 何もしなかった。

 確かにめまぐるしい日々の中、アキラについていくのがやっとだったから余裕はなかっただろう。

 だがそれは言い訳だ。

 ならばいつ余裕ができるというのか。

 この戦いの日々の中で。

 恐る恐るヒューイはアキラを見上げる。

 明確に。

 彼の瞳には落胆が浮かんでいた。

 もしかしたら少しは期待してくれていたのかもしれない。

 でも。

 それもなくなってしまった。


「次。ミア。おまえ」

「……あたしに何が言いたいわけ? 説教するつもり?

 あたしの方が年上なのよ。あんたに言われるまでもないわ」

「年上だからなんだ? どうでもいいな。そんなことは。

 年を取れば偉くなれる、賢くなる、強くなるって思ってる馬鹿かおまえは?」

「な、何ですって!?」


 ミアは顔を赤くし、憤る。

 それを無視して、アキラは言葉を繋げる。


「おまえ、何がしたいんだ?」

「は?」

「何がしたくてここにいるんだよ」


 ミアは不愉快そうに顔をゆがませて、答える。


「戦争を止めたくて、どうにかしようとしてるんじゃない」

「どうにかしようとしてるか?」


 答えにそのまま問いかけられ、ミアは反論しようとする。

 だが、口を開いた瞬間、言葉を飲み込んだ。

 そして無言になる。


「魔法使い側に入れたのはおまえが、事前に今の仕事を得たからだ。

 カイやアリシアと友人だっていうのも事実だろう。

 おまえがどうにか争いを止めたいって思ってるのも事実だろうぜ。

 多分、以前のように仲良くなりたい、そんなとこだろ。違うか?」

「……だったら何よ」

「無理だ」

「…………え?」


 ミアは思わず聞き返してしまった。

 それがあまりに救いがない言葉だったから。

 それが真実だと思いたくなかったから。


「無理だって言ったんだよ。おまえは絶対に、戦争を止められない」

「ア、アキラさん、それは」

「おまえは黙ってろ」


 一睨みするだけでヒューイは何も言えない。

 アキラはミアに視線を戻す。

 ミアは憤るでもなく、ただ脱力していた。


「無理……」

「そうだ。おまえには何もできない。

 何もできず、戦争が起きて、殺し合いの中、ただ自分の無力さを嘆くだけ。

 でもよ、それがおまえの望みなんだろ?」

「そんな、ことが……望みなはずが」

「おまえはこう言ったな。

 少しでも希望がある方法をとれば、後に自分を慰める理由にはなるってな」


 アキラはミアの眼前に顔を寄せる。


「てめぇ、舐めてんのか?」


 ミアはびくっと震えた。


「戦争は殺し合いだ。それだけの理由があって起きる。発端なんてどうでもいい。

 起きれば止められない。この場所が血で染まる。

 ここにいる全員を巻き込む。死ぬ。殺される。そんな出来事を止められるはずがない。

 そう思うのは当然だろうさ。別にいい。それが当たり前だ。

 けどよ、おまえは止めたいと思ったんだろうが。

 そのために、色々と努力したんだろうが。必死になったんだろうが。

 じゃなきゃ、簡単に能力者側の街を出られるはずがねぇ。こんなところには来られねぇ。

 見ず知らずの、素性も知らない俺達に助力を頼んだりしねぇ。

 それくらいどうにかしたいって思ってんのに、なんで肝心のおまえが諦めてんだ?」

「あ、あんたに何がわかんのよ!」


 ミアが叫ぶ。

 瞳から涙を滴らせ、感情のままに言葉を繋げた。


「あたしだって……どうにかしたいって思ってた……。

 でも、もうどうしようもない。何をしても、どうしても、何も、できない。

 あたしだって頑張った。また三人で仲良くしたいって思ったから!

 能力者側と魔法使い側との交流を何とか維持して、関係を修復しようって。

 辛い目にあっても、酷い目にあっても、誰に理解されなくても頑張った。

 罵声を浴びせられて、殴られても、嫌われても、それでも諦めなかった。

 でも、だめだった……だめだったのよ。誰も、あたしに賛同してくれなかった。

 能力者も魔法使いも、この場所には誰も。あたしはたった一人で……ずっと。

 頑張って……ダメだって、思ったのよ……」

「だから?」


 ミアの心の叫びを受けても、アキラは冷静だった。

 たった一言。

 それだけでミアの思考は停止した。


「だ、から……ですって?」

「ああ。だからなんだ? 努力したからなんだ? 辛い目にあったからなんだ?

 理解されない、一人だった、だめだった、だからなんだ?

 おまえが諦めた理由になるのか? 言い訳並べているだけにしか聞こえねぇな。

 結局、おまえは戦争を止めたい、また三人で仲良くしたいって思いよりも、辛いことから逃げたい、諦めたいって思いの方が強かったんじゃねぇか。

 おまえは、逃げてるだけだろうが」

「そ、それが! それのどこが悪いのよ!」

「別に、悪くはねぇな。それがおまえの望みなら、別にどうでもいい。

 だがよ、おまえは俺に戦争を止めたいから手伝ってほしい、と言った。

 だから言ってる。おまえが俺に関わってきたから言ってんだ。

 どこにおまえの本気があんだ? 今までの言動で、おまえの本心はどこにある?

 おまえ、自分は諦めてるくせに、俺に手伝えって言ってんのか?」


 ミアははっとした表情を浮かべ、アキラを見上げる。


「てめぇらには必死さが足りねぇ、本気でやりたいってんなら必死になれ。

 他のことなんざどうでもいい。

 目的のためにすべてを犠牲にしても、やり遂げるって意志を持て。

 それがないやつに強くなることも、戦争を止めることもできやしねぇ。

 言い訳はもういいだろ。おまえらも、気づいてんだろ?

 どうすればいいのか。どうしたいのか」


 ヒューイはわなわなと震えて動けない。

 ミアはただ、アキラを見て、泣いていた。

 彼の言うとおりだった。

 ヒューイもミアも、言い訳をして結局諦めていたのだ。

 なのにアキラに縋ろうとした。

 真剣さがなかった。

 必死さがなかった。

 何を犠牲にしても、叶えたいと思っていなかった。

 それほどに大きな、手の届かないほどの望みだというのに。

 それさえを理解せず、ただ逃げた。

 二人は顔を上げる。

 アキラが不機嫌そうに二人を見下ろしていた。

 だが、アキラは膝を曲げて、視線を二人に合わせた。


「で、おまえ達はどうしたいんだ?」

「強く、なりたいです」

「戦争を……止めたい」

「そうか」


 アキラは一度だけ頷き、二人の額を同時に指ではじいた。


「いだっ!」

「きゃうっ!」


 額を抑える二人に背を向け、アキラは立ち上がる。


「ついてこい。おまえ達が本気で望むなら――」


 アキラは肩口に振り向き、少年のような笑顔を浮かべ、


「俺が叶えてやる」


 そう言った。


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