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強さの秘訣

 ゲート前に立つと、三人は立ち止まる。


「思った以上に未来だ……」


 ヒューイが感嘆し、見上げる。

 ゲートはホログラムで作られており、映像が流れている。

 『魔法使いお断り』と書かれている。

 ちなみに映像は超能力者が魔法使いを倒すような内容ばかりだ。


「こっちの世界で科学があるってことは、専門の人間がいるのか?」

物質分析能力者アナライザーとか物体転移能力者アポーターがいるからね。

 比較的、近代科学力を使って開発ができてるわ。ただ、制限はあるけれどね」

「こっち側でも文明を築いてるんだ……」


 ヒューイが感心する中、三人は街の中に入る。

 入り口に見張りらしき人間はいない。

 ただ監視カメラは無数にある。

 内部は見たことのない素材でできてる家屋が多い。

 遠目ではコンクリートか金属に見えるが、近くで見るとプラスチックにも見える。


「あなた達はどの年代くらいの文明の世界から来たのかしら?」

「俺はこの街よりも多少前程度の文明からだな。百年程度は遅れているかもしれん」

「僕も……同じくらいだよ。多分、アキラさんよりも少し先の文明レベル」

「その割には前時代っぽいわね、あんたたち。野暮ったいし、その鞄、中身食料でしょ。

 普通はもっと利便性の高いもの入れるのに」

「こ、この鞄はアキラさんの持ち物だし、この短剣はこの世界で手に入れたものだし!」

「別にいいけれど。そっちの弱いのはここで武器買ったら?

 超振動ナイフとか買えば少しは強くなるでしょ」

「物騒な名前だなぁ。うーん、でもその方がいいかも。どうやって買うの? 物々交換?」

「こっちに所属したら通貨も手に入れることができるから、それで買えるわ。働きなさい」

「ほぇー、通貨制度もあるのかぁ」

「色んな能力者がいるからね。大概のことはできるのよ」


 便利だが、その分、恐ろしくもある。

 彼らがいるだけで、どれほどのことができるのか。

 それはつまり、それだけの文明をどこでも築けるということでもあるのだから。


「とりあえず、役所に行って、手続きね。

 その後に所属者に与えられる無料の宿泊施設に案内してあげる。

 役所の手続き自体は仮登録だから。正式に登録しないと、街の設備とか使えないわよ」

「おお、色々とありがとう、ミアちゃん」

「……別に、所属者の最低限の面倒をみるのも仕事だからね。

 ただ、所属してからは自分たちでどうにかしてよね。

 働き口を見つけるなら役所でもできるし。

 言っておくけど、誰かに喧嘩売って序列上げようとかやめた方がいいわよ。

 一応、警備もいるし、住めなくなるから」

「ここは本格的な街と一緒なわけか……気を付けるよ。ね! アキラさん!

 気を付けますよね!?」

「ああ、わかってるっての。いきなり喧嘩売ったりはしねぇよ」


 人域では売ったりしたくせに。

 そう思っているから、ヒューイは心配でしょうがなかった。

 とにかく、所属はしてくれるらしい。

 ここで暴れればさすがに危険すぎることはアキラにもわかるはず。

 彼は無謀だが、明らかに無謀なことをするようなことはないはずだ。

 多分、いやきっと、そうに決まっている。

 そんな曖昧な希望を胸に、ヒューイは自分に言い聞かせる。

 街の中には、普通の人間のような見た目の人以外にも、様々な容姿の能力者達がいた。

 空中に浮かんで移動したり、異様なほどに身体が太く、やや赤、青、緑色の肌の能力者。

 身体の一部、あるいは大半が機械になっている人間。

 見た目はほぼ人間なのに、良く見ると目はレンズだったり。

 サイキッカー、ミュータント、人造人間、強化人間。

 様々な存在がこの街にはいた。

 その誰もが、圧倒的な存在感を持ち、強者の貫録がある。

 ヒューイは、ライオンの巣に迷い込んだ小動物の心境だった。

 帰りたいが、帰れない。


「へぇ……」


 アキラが興味深そうに周囲を見渡している。

 また何かしでかさないか心配でしょうがなかったヒューイだったが、アキラは特に何をするでもなかった。

 よかった、少しは成長したんだ。

 犬でも学ぶんだから、アキラさんも学ぶよね。

 そんな風に思っていたら後頭部を殴られた。


「いだいっ! な、なにするんですか!?」

「何となく、むかついた」


 声に出していないのは間違いない。

 この男、まさか心情まで読めるのか?

 違う。

 ただの野生の勘というか、本能で感づいたのだ。

 最早動物、いやそれ以上の獰猛な生物なのだ。

 そんな風に考えていたら、睨まれたのでヒューイは頭の中をからっぽにした。


「ここよ」


 しばらく歩くと大きめの施設に到着した。

 自動ドアを通り、中に入ると、受け付けが目の前に見える。

 丸っこいロボットが電子音と共にこちらを見ていた。


「イラッシャイマセ、コチラハ、ショゾクシャヨウ、ウケツケデス。

 ゴヨウハ、ナンデショウカ」

「所属者の登録を」

「カシコマリマシタ。オンセイ、シモン、コウサイ、トウロクヲシマス」


 カウンターにホログラムが表示される。

 指示通りに喋り、手をかざし、目を見せた。


「データ、ニンショウチュウ…………カリトウロク、カンリョウ、シマシタ。

 ジュウタクバンゴウハ、アキラサマハ9548バン、ヒューイサマハ9549バンデス。

 オツカレサマデシタ、ユタカナセイカツヲ、タノシンデクダサイ」


 ピピッと電子音を鳴らしつつ、ロボットは首を垂れた。


「これで仮登録完了。あとはあたしがいなくても街の中で行動できるわ。

 街を見回るなら、一旦、宿泊施設に行って、正式登録してからね。

 そっちの登録が終われば、完全にここの住民になれるから。

 期限内に正式登録しないと解除されるから、今日中にしないとダメよ」


 空はもうすぐ赤に染まる。

 夜も間近だ。

 街中にはいろんなものが売っていたし、人域よりも治安はいい。

 ここの方が住みやすそうだ。

 ヒューイは少し浮かれていた。

 だが。


「いや、いい。それより、ここのリーダーの、カイとかいったか、そいつと会えないのか?」

「うーん、会えなくはないと思うけれど。

 人域から昇ってくる人なんて早々いないし、報告がてら挨拶くらいはできるでしょうね」

「なら、取り計らってくれ」

「ちょい、ちょい! ちょーいっ! アキラさん!

 また喧嘩売るんでしょ!? ぽんぽん大安売りしちゃうんでしょ!?

 ねぇっ!? ダメってあれだけ言ったのに! 言いましたよね!? ねぇっ!?

 どうせ、あんたが最強か? だったら喧嘩しようぜ、とか言うんでしょ!」

「おまえ、やっぱり俺に喧嘩売ってるよな?」

「売らないでって言ってるのぉぉぉっ! 売ってるんじゃないのぉぉおぉおっ!」


 ヒューイは一瞬にして泣いた。

 慟哭した。

 その様子を見て、アキラとミアは呆れた顔をする。


「別にいきなり喧嘩売るつもりはねぇよ」

「ねぇの!? 本当にねぇんでしょうね!?」

「ねぇって。

 ミアが最下位あたりの強さだってんならよ、他の連中はそれ以上に強いわけだろ?

 その頂点にいる人間なら相当な手練れだろうよ。そんな相手にいきなり喧嘩売るかよ」

「ア、アキラさん……成長、しましたね……」


 アキラはヒューイを殴った。

 ガンと硬い音が響く。


「いっだいぃっ!」

「調子に乗るなって言っただろうが……で、ミア。頼めるか?」

「ちょっと待ってて」


 ミアは二人から離れるとポケットから携帯の端末を取り出す。

 耳に当てて誰かと話していたが、通話を終えて戻ってきた。


「いいみたい。行きましょう」

「えらくすんなり通ったな」

「面白そうだからいいよ、ですって。カイも変な人だから」

「アキラさん。『も』って言われてますよ『も』って」


 ゲンコツ。

 アキラに殴られたヒューイはうずくまる。


「頭蓋がぁっ! 歪んじゃうぅっ!」

「さっさと行くぞ」

「ううっ、わ、わかりましたよ、ほんとに喧嘩売っちゃダメですからね」

「しつこいな、わぁってるっての」


 辟易しているアキラを前に、ヒューイは懇願する。

 確かにアキラの戦いを見守りたいという思いはあるし、強くなりたいと思っている。

 けれど、それは無謀な戦いに身を置くということではない。

 自身のためにも、アキラのためにもここは引き留めなくてはいけない。

 アキラはこんなところで死ぬ人間じゃない。

 せめて、勝機がある戦いに臨んでほしいのだ。

 そんな思いもあり、ヒューイは真剣だった。

 いや、自分が死にたくないというのもあるが。

 というかそれが大半だが。

 アキラの動向を注視しよう。

 何かあればすぐに止めるのだ。

 殴られても死にはしない。

 殺される前に止める!

 そんな決意を胸に、ヒューイは二人の後ろに続いた。

 数分、歩き続けると、あの塔の前にたどり着く。

 高さがある以外はさっきの役所と同じような造りだ。

 未来的な構造なのに、なぜか個性が弱い建物が多い。

 もしかしたら技術というのはある程度のレベルまで到達すると単一的になるのだろうか。


 三人は中に入る。

 役所と同じように受付がある。

 人はあまりいないようだ。

 一体の受付ロボットにミアが話しかけると、案内してくれるらしく、スーと移動し始める。

 どういう構造なのかは不明だが、ロボットはホバリングしている。

 なぜかその背中がちょっと愛くるしく感じた。

 ヒューイの心境とは裏腹に、アキラの表情は僅かに硬い。

 やっぱり何かしでかすつもりなのだろうか。

 ヒューイの胸中に不安が渦巻く。

 長方形の部屋の中央奥にはいくつもエレベーターがあった。

 円柱型の、超人域に入ったところにあったものと同じだ。 

 エレベーターで遥か上空に上ると、透明の壁から外が見える。


「た、高いところはあんまり得意じゃないんだけどなぁ」

「別に落ちるわけじゃねぇだろ。慣れりゃ怖くなくなる」

「慣れればって……アキラさんも昔は怖かったんです?」

「昔はな」

「生まれながら筋肉ムキムキの戦闘狂じゃなかったんですか?」

「きりがないから殴るのはやめてやる。

 昔はかなり小柄だったし、どちらかと言えば、いじめられたぞ」

「あはは、うっそだぁ。アキラさんをいじめるなんて命知らずな人いないでしょ」

「俺は普通の人間だって言っただろ……ほら、どこにでもガキ大将みたいな奴いるだろ?

 三歳くらいの時だったか。公園で遊んでたらそいつにいきなり殴られてな。

 むかついて喧嘩したんだが負けた。相手の方が体がでかかったからな。

 それが異常に腹が立ってな。毎日喧嘩売って、ボコボコにされて。

 どうやったら勝てるか考えて、体格差をひっくり返すには戦い方を変えなきゃダメだと気づいた。

 そんで、色々あって勝って、場所が違えばまた同じような状況あうだろ?

 その度に負けて、戦って、考えて、鍛えて、勝ってってやってたら、こうなってた。

 ま、途中から色んな格闘技を学んだり、自分から強い奴に喧嘩売ったけどな。

 結局、今は我流だ」

「そうはならないでしょ、普通は。なってたら世の中アキラさんだらけじゃないですか。

 そんな世の中、僕は嫌です。世紀末ですか。ヒャッハーしちゃうんですか」

「一言多い奴だな……とにかく、なっちまったもんは仕方ねぇだろ。

 俺は負けるのが嫌いでな。最初はその一心で鍛えて戦った。

 けど、いつの間にか負けることはなくなり、周りの奴が弱くなってた。

 それからも手を抜かず鍛えて、戦い続けてたんだが、そしたら負ける要素が微塵もなくなった」

「やりすぎちゃったんですね」

「俺から言わせれば、他の奴が手抜き過ぎるんだよ。

 強くなりたいんなら、何を犠牲にしてもどんな時でも強くなるように鍛えるべきだろ。

 それなのに休息だの、気分転換だの、ストレス解消だと生ぬるいこと言ってやがる。

 そんなんで強くなれるかよ。

 強くなりたいんなら、ずっと鍛えて、ずっと強くなることだけ考えてやがれ」


 ひどく短絡的。

 だがそれは正論だった。

 強さを求めるならば、強くなるためだけに行動すればいい。

 そうすれば強くなれる。

 それを実行できる人間はいないが。

 先に肉体か精神がやられるだろう。


「……なんか、ごめんなさい」

「別に、他人なんざどうでもいいがよ、弱いことを言い訳にする奴は気に入らねぇな。

 ま、それもこの世界じゃ、気にしなくてもいいみたいだけどな」


 あ、だめだ。

 この人、すっごいワクワクして笑っちゃってる。

 結局戦いたいだけじゃないか。

 そう思うヒューイだったが、もう何も言えなくなってしまった。

 彼は、ただ素質があったわけじゃない。

 すべてを犠牲にして、強くなることを考えて、行動してきた。 

 努力をし、ひたすら一人で鍛え抜き、それをずっと継続してきた。

 それがどれほど辛いことなのか、想像しかできない。

 その上に、彼の強さがあるのだ。

 すぐに言い訳をし、あいつには才能がある、素質がある、体格に恵まれている、そう言って自分を慰める人間ばかりの中。

 愚直に己を痛めつけ、叱咤し、戦い続けていたのだ。

 そのアキラという男に。

 ヒューイは尊敬の念を抱き、そして自分には不可能なことだと理解した。

 彼にとっては当たり前でも、それができる人間はまずいない。

 誰しも休みたいと思うし、逃げたいと思う。

 練習や鍛錬を続けることができても、必ず不調な時はある。

 だがアキラは純粋に強くなることだけを考え、手を抜かない。

 その純粋すぎる欲求は、一切濁らない。

 そんなことは普通の人間には不可能だ。

 彼は狂気的なほどに強くなることに真摯なのだ。

 だからここまで強くなった。

 おそらくは、これからも強くなる。

 そんな彼に追いつけることなんて、ヒューイにはできない。


「……強いのね」


 ミアがぽつりと呟く。

 その言葉を聞き、アキラは一言返した。


「他の奴らが弱すぎるだけだ」


 その通り。

 弱いから、逃げるし、言い訳をするし、負けるし、壊れる。

 でも、それが人間でもある。

 彼は強すぎる。

 ポンと音が聞こえると、エレベーターの扉が開いた。


「着いたわ」


 正面には白黒の廊下が伸びている。

 進むと両開きの扉があった。

 近づくと、自動的に開く。

 ステンドグラスから射す光が、一人の男を照らす。

 部屋の奥、そこには椅子が二つ。

 一つは空席。一つには男が座っている。

 優男で白髪。肌は病的に白く、折れてしまいそうなほどに華奢。

 遠目でも覇気の欠片もないその男。

 だがヒューイは全身が粟立ったことに気づいた。

 独特の空気。

 一歩動けば殺されてしまう。

 そんな風に思ってしまう殺気のようなもの。

 それがこの部屋に充満している。

 部屋の隅には無数の本棚があり、蔵書が敷き詰められている。

 それが天井まで伸びていた。

 まるで図書館。

 でもなぜ外観と違って、内観は少しレトロなのだろうか。


「やあ、いらっしゃい」


 青年の声が部屋中に反響した。

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