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能力者陣営VS魔法使い陣営

「こっちよ」


 白い部屋を出た三人は、白い廊下を進んでいた。

 手狭な通路で、何とか三人が並べるくらいだ。

 陰影が薄く、距離感がおかしくなる。

 しかしアキラとミアは迷いなくまっすぐ進んでいるので、ヒューイも戸惑いは少なかった。


「このまましばらく歩けば外に出る。

 ちょっと遠いから、その間、この階層に関して説明してあげるわ」

「そいつは助かるな」


 ミアはちらっとアキラを覗き見ると、再び正面に視線を戻した。


「少しは驚くとかないのかしら。

 なんかあんたと話してると、自分の常識がおかしいんじゃないかと思っちゃうわね……」

「異世界に来てる時点で常識とかないだろ」

「言われてみればそうね。まあいいわ。話を戻しましょ。

 この階層、超人域は、名前通り人を超えた存在が住まう場所。

 超人っていうのはあたしみたいな超能力者とかのことね」

「超能力者以外にはいねぇのか?」

「色々いるわね。まあ細かいところは置いておいて、超人域には二大勢力がいるの。

 能力者側と魔法使い側が存在してるのよね」

「おい、いきなりファンタジーになってきたぞ」


 さすがのアキラも気になっている様子だった。

 動揺はしていないが。


「異世界自体ファンタジーじゃない。まっ、見ればわかると思うけれど。

 ちなみに、超人域に転移する際、能力者側と魔法使い側で振り分けられるわ。

 どちらの素養があるかによって行先は違うみたいね。

 あんた達は一応こっち側ってこと。魔法使いとあたし達は根本から構造が違うしね」


 ヒューイが頭を抱える。


「あ、頭痛くなってきた」


 確かにあまりに荒唐無稽。

 これが事実ならば、もう何でもありになる。

 しかしヒューイは思う。

 もうすでに何でもありじゃん、と。

 だから、すぐにあっけらかんとした。


「ま、いっか」


 段々、アキラに感化されていることにヒューイは気づいていない。

 非常識な存在と共に行動すれば、慣れるものだ。


「あ、あの、ミアちゃんは移動していいの? 門番的な役割は」

「別に問題ないわ。交代の時間だったし、そもそも昇ってくる奴なんてまずいないし。アキラの後に誰かがすぐにやってくるとは思えないもの」


 それもそうかとヒューイは納得した。


「で、話を戻すと、超人域では能力者側と魔法使い側で敵対してるのよね」

「敵対? どうしてなの? 個々人が敵対するっていうのはわかるけど」


 最強たる存在達が集まれば、誰が最強か戦うだろう。

 人域のように、強さを求め、戦うことはある。

 しかし、グループを作って戦うのならば話は違う。

 それは最強を決めるという行為ではない。

 単なる戦争だ。


「色々あるのよ……この世界の成り立ちは、数十年程度の短い歴史じゃないし。

 最強の存在を集めた世界、なんて突拍子もない条件でできている世界だけど、住んでいるのはほとんどが生物だからね」


 確かに世界には成り立ちがあり、今がある。

 ヒューイはこの世界に来て数年ほどだが、それ以前にもこの世界はあったのだ。

 では創世記はいつなのか。


「あんた達は、ここに来て間もない感じ?」

「俺は三日くらいか」

「ぼ、僕は二年くらい」

「……そっちの、アキラだっけ? あんたは色々とおかしいわね、ほんと。

 で、何か気づかない? この世界には何かが足りないってことに」

「何かが足りない?」


 言われてヒューイは思考の網を張る。

 この世界に足りないもの。

 常識とかマナーとか倫理観とか法律とか。

 まあ、そんなものではないだろう。

 じゃあ、何だろう。

 何が足りないんだろうか。


「小せぇガキだろ」


 アキラが言うと、ミアは目を見開きながら答える。


「驚いた、ただの筋肉馬鹿じゃなかったんだ」

「ぶっ飛ばすぞ、おまえ」


 半眼で睨むアキラに向かって、ミアは小さな舌を見せつける。

 確かに子供がいない。

 最強だらけの世界なのだ。

 子供がいるはずもない。

 まあ、ミアは十二、三歳だろうし、厳密には子供だろうが。

 あくまで小さい子供、一桁以下くらいの子供のことだ。


「この世界では、子供ができないのよね」

「えらく俗っぽい話になってきたな」

「そうでもないわ。単純な話だもの。だって、最強が集まる世界なのよ?

 最強同士の子供が生まれたとしても、その子が最強とは限らないじゃない?

 というか生まれた時点で最強なんて子供、いたとしても極一部でしょ?

 つまり、子作りを許したらこの世界のコンセプトから外れちゃうの」

「最強達が住まう世界だもんね、そりゃそうか」


 ヒューイは感心しながら何度も頷き、僅かに思案する。

 というか。

 誰がそんな風にしてるんだろうか?

 神様的な?

 ここまで来ると、いた方がしっくりくるような気がする。


「で? それが何だよ」

「厄介なことに、明確な世代交代がないと環境って中々変わらないみたいなのよね。

 固定観念に捕われちゃうっていうか。超能力と魔法って大局的な存在だし」

「それでずっと争ってるってのか?」

「そ。発端はなんだったのかしらね。あたしは知らないけど。

 とにかく更に厄介なことに、上層へ行く鍵は二つあって、一つずつ双方のトップが持ってるのよね」

「つまり両方のリーダーから鍵を貰わないとダメってこと?」

「うん、そうね。

 ま、あんたがどれだけ強くても、カイとアリシアを倒せるとは思えないけど」

「強いのか?」

「そうね。カイは世界最強の殺りく兵器として生まれたデザイナーベビーで、数秒で数百人を殺せるほどの能力者。

 アリシアは世界を総べた一国の姫様で、水魔法を扱う魔女ね。

 戦力は互角くらいかしら。

 ちなみに、あたしは超人域だと下の方の序列ね」

「アキラさん、帰りましょう!」


 ヒューイは即座にアキラの腕を掴み引っ張る。

 泣き顔である。


「無理、無理です! もう、ほんと無理! ミアちゃんだってすんごい強いのに!

 なのに下の方の序列って、もうこの層はヤバいですって!

 そんな中で最強な殺りく兵器とか魔女とかと戦えませんって!

 しかも、この階層は個人じゃなくグループ組んでるんですよ!?

 つまり、リーダーに手を出そうとするなら他の連中も敵になるってことです!

 人域と違ってコンビネーション抜群! 連携してくるんですよ!?

 無理! 無理無理かたつむり! 殺されちゃいますぅっ!」

「あー、もううっせぇな」


 アキラは面倒くさそうにヒューイを睨む。

 しかしヒューイは恐怖と絶望からもう帰りたくてしょうがなかった。

 なので睨まれても、諦めなかったのだ。

 超人域に来る前の意気込みはどこへいったのか。

 そんなものは忘れてしまったのである。


「そっちの弱いのの言う通りよ」

「よ、弱いのっていうのやめて!」


 ミアはヒューイを無視してアキラを視線で射抜く。


「あんたが強いのはわかった。けれど、ここからは単純な力技でどうにかならないわ。

 いろんな能力者がいるし、あんたにはどうにもならない、何もできないわ」

「いいじゃねぇの。絶望的、絶対に勝てない、何もできない、そりゃ結構。

 俺はな、そういうのを求めてここに来てんだよ。

 強い奴がごろごろいるなら、いかない手はねぇな」

「……死ぬわよ?」

「つまらなく生きるくらいなら、さっさと死んだ方がマシだね。

 俺は戦うために生きてきた。すべての時間を、何もかもをそのために捨ててきた。

 戦わないなら俺の生きている価値はねぇんだ。逃げるなんて手はねぇ」


 ミアはアキラを見つめる。

 美しい瞳は輝きを反射し、何かを見透かすようだった。

 そして。


「わかった。だったらもう何も言わないわ」


 ミアは嬉しそうにしながら笑った。

 どうして嬉しそうにしたのか、という疑問がヒューイの中で生まれる。


「さあ、着いたわ」


 気づけば、正面に一つの扉があった。

 ミアが扉を開くと、一気に情景が広がる。

 上空、数百メートル。

 見えた。

 ここが超人域。

 緑が外周を囲んでいる。

 周辺には壁らしきものはなく、人域と同じで空が伸びているだけだ。

 地上、手前には灰色と白の建物がいくつも見えた。

 無機質で、現代、いや未来的な建築物がそこかしこに立っている。

 金属や人工素材で構成されており、サイケデリックな印象が強い。

 中央には真っ白な塔が立っている。高く高く天井に届きそうなほどに高い。

 一言で表現すれば未来的。


 反対側、対抗するようにそびえ立っているのは巨木の塔。

 切り抜かれ、ところどころに窓や扉や廊下が見える。

 その周囲に時代がかった西洋風の家が並んでいる。

 煉瓦、木造、木々をくりぬいた構造。そこかしこに淡く光っている球が漂う。

 一言で表現すれば幻想的。

 地上の中央にはまっすぐ線が引かれているように壁が通っている。

 恐らく能力者側であるサイケデリックな街並みの方には金属質な壁が立っている。

 恐らく魔法使い側であるファンタジーな街並みの方には半透明な壁が立っている。

 塔と同じように天井に到達しそうなほどに高い。

 上空からの光景にヒューイはあんぐりと口を開けた。


「あ、あ、あれが、超人域の、能力者達と魔法使い達の、す、住まい」

「そう。対立構造がわかりやすいでしょ?」

「わ、わかりやすすぎでしょ!? 頑なすぎでしょ!? なんなのあれは!」

「さあ、降りましょう」

「ああ、そうだな」


 叫んでいるヒューイを無視して、アキラとミアは扉から先へ進む。

 正面にはエレベータがあった。

 透明な円柱型の筒があり、床が上下する構造のようだ。


「いや、え? ちょ、アキラさん、もっと何かないんですか!?」

「何も? 事前にミアが説明してくれただろうが」

「いや、そ、そうですけど、だからって、もっとリアクションしても」

「ほら、さっさと行くわよ」

「……なんだか腑に落ちない」


 ぶつぶつ文句を言っているヒューイだったが、アキラ達と共に筒の中にある床に乗った。

 乗ると、機械音と共に床は降りていく。


「あ、あのさ、序列とかってどうなってるの?

 人域だと、各順位の限定範囲内の人と戦って勝てば序列が上がる仕組みだったんだけど」

「一応、超人域内の順位、各グループの順位、総合順位はあるわ。

 けど、限定範囲内の相手に勝って、っていう条件はないわね。

 いきなりリーダーと戦うこともできる」


 アキラは自分のランキングを確認してみた。


●ランキング

 滞在域   :超人域

 所属組織  :不明

 所属組織序列:不明

 滞在域序列 :107,114位

 総合序列  :329,774位 


 項目が増えている。

 人域と多少は事情が違うらしい。


「え? そうなんだ? システムが違うのはなんでだろ?」

「そりゃ滞在域序列一位がそういう風にしてるからよ。

 一位だと序列関係とか色々と権利を得られるから。

 大した変更はできないみたいだけどね。

 人間だと複数を相手にすると大変だけど、能力者だと別に苦じゃないし。

 というかそれくらい自信があるんじゃないの?」

「ア、アキラさん!」

「帰らねぇぞ」


 即答されて、ヒューイは項垂れた。


「ううっ、僕の未来は消えてしまったぁ」

「まっ、戦うにしても何にしても、どちらかのグループに所属しないといけないわ。

 じゃないと街にも入れないし」

「え? でも、僕達は能力者側の方にいるし、魔法使い側には行けないんじゃ」

「行けるわよ。能力者側で登録した後でも、魔法使い側での登録もできる。

 ただ、認められるかどうかは別だけど。大概は転移した側の街に入るわね」

「……戦って実力を試すとかは、もうないの?」

「ないわ。それは門番の仕事だもの。こっち側はもう終わり。

 まあ、戦争でもない限りは戦わなくてもいいわ」

「よぉぉぉっしぃっ!」


 ヒューイは嬉しさのあまり、立ち上がり両拳を力の限り握った。

 ああ、よかった。

 もう少し生きられる。

 アキラが何かを言おうとした。

 瞬間、ヒューイはアキラに抱き着く。


「ア、アキラさん、いいですか!?

 こ、ここは能力者側のグループに入っておきましょう!

 お願いします! そうしないと、ほんとに死んじゃいますからね!」

「あ? 何言ってんだ、俺は」


 どうせ『所属とかどうでもいい、俺はさっさとリーダーをぶっ飛ばす』とか言うに決まっている。

 そんなことをしたら全員が敵になる。

 それだけは避けなくては。

 そう思ったヒューイは必死になった。


「そうしましょ! そうするべきです! い、いいですか? アキラさん。

 ここは人域と違って、集団が敵になっちゃうんです!

 アキラさんは強い敵と戦いたいんですよね!?」

「……それがなんだよ」

「一対一で強い相手と戦うのと、数百いる大して強くない相手と戦うの、どっちがいいんですか!?」

「そりゃ、強い相手と戦う方がいいに決まってんだろ」

「そうですよね! 戦争で無駄に死んじゃうより、強い相手とせめぎ合ってその果てに死ぬ方がいいですよね!?」

「死ぬ前提なのが、なんかむかつくな」

「ここは一旦、その無駄な戦闘意欲を抑えて、能力者側に所属しましょう!」

「おまえ、喧嘩売ってるよな?」

「売ってるわけないでしょ! 売らないでって言ってるの!!」


 ヒューイは目を血走らせて、アキラを見上げる。


「と、とにかく、ここは抑えて、能力者側の街に入りましょう!

 とりあえずでいいので! ね? ね!?」


 アキラはヒューイの顔を掴んでぐいっと突き放した。

 だが、ここぞとばかりに全力で抱き着くヒューイ。

 普段、平静を保っているアキラでもちょっと気持ち悪いと思っていた。


「わぁーったっての。とりあえずは能力者側に所属する、それでいいんだな?」

「あ、ありあしゃっすぅっ!」


 ヒューイは泣いた。

 号泣した。

 嬉しさのあまりちょっと震えていた。


「気持ち悪ぃから離れろ」


 アキラがヒューイを小突く。

 ヒューイは痛みから頭を押さえてうずくまった。


「話はまとまったかしら?」

「ああ、とりあえずはそっち側に入る。とりあえずはな」

「ふーん、まあ、あたしはどっちでもいいけど」


 アキラは横目でミアを観察していた。

 その視線には何か含みがある。

 目ざとく気づいたミアは、怪訝そうに口を開く。


「何?」

「別に」


 一瞬だけ不穏な空気が流れるが、ヒューイだけはそれに気づかない。

 思いのほか、アキラに小突かれた場所が痛かったのだ。

 何とか、痛みが治まったので、顔を上げた。


「あ、そろそろ地上ですね」


 とりあえずの安全が確保できたことで、ヒューイは喜びながら外を眺めた。

 危険が去った後の景色は何とも美しく感じた。

 ちょっと高揚してたりなんかして。

 エレベーターが止まり外に出ると、三人はコンクリートの道を進んだ。


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