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ただの人間

「――まったく、負けを認めて、すぐに帰ればよかったのに」


 ミアは目を伏せ、手を伸ばす。

 するとアキラは地面に落ちた。


「そこの。さっさと帰りなさい。

 この先は、あんたたちみたいな普通の人間が入れる場所じゃない。

 わかったでしょ? 死にたくないなら――」


 ギギイギギギイギ、と別種の軋む音が聞こえた。

 音に釣られて、ヒューイもミアを視線を移す。

 その先にいたのはアキラだった。

 呆気にとられていた二人は言葉を失う。

 なぜなら。

 アキラは四肢を脱臼した状態で立ち上がろうとしていたのだ。

 いや、違う。

 彼は、何かをしようとしている。

 背中を反り、地面に頭突きをすると、前方へ一回転した。

 その勢いのままに、身体をよじる。

 と、ガキガキと硬質な摩擦音が響き渡る。

 アキラは地面に着地した。 

 関節を外されていたはずが、空中で慣性を利用し、四肢の骨をはめた。

 ありえない。

 あり得るはずがない。

 だが現実に、アキラはそれをなした。

 立ち上がったアキラを前に、ミアはあんぐりと口を開けた。

 アキラは肩と足の調子を確かめる。

 そして正面で呆然としているミアに向かい言った。


「終わりか? だったら触るぞ」


 無造作にミアに向かい手を伸ばした。

 我に返ったミアは即座に手を掲げて、アキラの動きを止めた。


「た、大したものね。大道芸人にでもなった方がいいんじゃないの?」

「生憎、俺は芸がねぇからな。戦うことしか能がねぇ。

 それより、いいのか?」

「な、何がよ!」

「同じことばかりしてて、いいのかって聞いてんだよ」


 アキラの全身の筋肉が盛り上がる。

 震えるだけだった身体が、ググッと動き始めた。

 アキラはミアに向かい手を動かそうとしていた。

 ゆっくりではあるが、確実に動いていた。

 椅子に座っていたミアは、慌ててその場から離れてアキラから距離を取る。


「あ、ず、ずるい!」


 ヒューイが叫ぶと、ミアは顔を紅潮させた。


「何がよ! べ、別に動いちゃいけないなんてルールないじゃない!」


 確かにミアは動いてはいけない、なんてルールはない。

 だが、これでは明らかにミアが有利ではないか。

 そう思っての言動だったが、アキラはまったく意に介していない。

 むしろ。

 笑っている。

 あまりに嬉しそうに、狂気的に笑うので、ヒューイもミアも怖気を抱いた。


「ほら、さっさと逃げろ。触るぞ」

「こ、来ないでよ!」


 この会話だけ聞くと、変質者と追われる少女のように思える。

 だが実際、有利なのはミアだ。

 ミアは椅子から離れながら、手をかざし、アキラの動きを阻害する。

 しかしアキラはゆっくりと動く。しかも動きが少しずつ早くなっている。


「くっ! ど、どうなってんの!? な、何でただの人間が動けるのよ!」


 アキラが動く度に、大音量の音が響く。

 ガンガン。

 それは何の音なのか。

 関節? 骨? 筋肉?

 そのどれも違う。

 一体何がと疑問を持ったヒューイはアキラの顔を凝視する。 

 そうか。

 あれは笑顔でもあるけど、それだけじゃない。

 彼は、笑いながら歯を食いしばっているのだ。

 だから笑みになっている。

 だからあんな顔になっている。

 全力を出し、超能力に抗っているから。

 鍛え上げた肉体だけで超能力に対抗しているアキラがすごいのか。

 それとも鍛え上げた肉体を相手にしても、対抗できるほどの超能力を扱うミアがすごいのか。

 どちらも凄まじく、ミアには判断がつかない。

 はた目から見れば、地味なのだが。

 双方ともに死力を尽くしていることはわかった。

 アキラが近づけば、ミアは逃げる。

 この場所自体はそれなりに広く、ミアの逃げ場がなくなることはないだろう。

 ミアはアキラの動向に気を取られている。

 今なら、ヒューイが死角に移動しても、ミアは気づかないだろう。

 彼女の虚を突き、後方から拘束すれば、恐らく超能力は緩まる。

 彼女の力が増幅される時、彼女は手をかざしているからだ。

 もしかしたら勝てるかもしれない。

 そう考えたが、ヒューイは動かなかった。

 すでに自分は蚊帳の外。

 ここで水を差せばきっとアキラは激昂する。

 自分に、いや、今の自分にできることは見守ることだけ。

 それだけしかできないのだから。


 拳が痛い。

 気づけば、思いっ切り握りしめていた。

 逃げるミアを追うアキラの動きは、徐々に滑らかになっている。

 いや、そうではなかったのだ。

 アキラの力が上がっているわけではなく、ミアの力が弱まっているのだ。

 ミアは息切れをして、動きも緩慢になっていた。 

 そう、どんな能力も無尽蔵ではない。

 何かを消費し、力を生み出すのだから。

 ならば、ミアの能力が枯渇することも当然のことだった。


「はぁはぁ、し、しつこい……ど、どんだけ体力あるのよ……!」

「死ぬほど走って、死ぬほど鍛えてりゃ、だれでも体力はつくんだぜ」

「そ、そんな地味なことしてられるかっての!」


 ミアが両手をかざすと、アキラの動きは止まる。

 再び四肢を引っ張られるような体勢になった。


「もう手加減はしないから!」


 ミアが叫ぶと再び断裂するような音が響く。

 アキラの両手足は虚空に繋がれ、引っ張られる。

 そのまま行けば、アキラの四肢は引きちぎられるだろう。

 せめぎ合う力。

 先の光景を思い出したヒューイは、絶望の未来を想像した。

 ミアはこれで終わらせるつもりだ、アキラの死で。

 一度、四肢を脱臼したのだ。

 つまりアキラには抗えなかったということ。

 その先の、動きを制限する程度の力ならば、アキラには対抗できた。

 だが、短時間で強力なテレキネシスを使われれば。

 アキラに抵抗はできない。

 ミアの力が上昇する。


「アキラさんッッ!!」


 アキラの四肢が伸び。

 そして。

 戻った。


「あ、あ……あ? え? は? 戻った?」


 戻った。

 そのまま伸びると思ったのに、元の状態に戻った。

 アキラが両手両足を内側に曲げた状態になる、と拘束が解かれた。

 ミアはその場にくずおれている。

 力を使い果たしたらしい。

 アキラはスタスタとミアの目の前に移動する。

 と、ミアの頭をポンと叩いた。


「俺の勝ちだな」

「……はぁ、はぁ……あ、あんた、ほんとに、ただの人間?

 強化人間、とか、じゃないわよね……?」

「正真正銘ただの人間だ。ただ多少鍛えてるだけのな」

「鍛え……ぷっ、あはははっ! 鍛えただけで超能力に対抗できるとか、滅茶苦茶ね。

 はぁ、疲れちゃった……とにかくあんたの勝ち。

 あたしを殺すなり、この先にいくなり、好きにしたらいいわ」

「じゃあ好きにさせてもらおうか」


 すると、アキラはミアに向かい手を伸ばした。

 ミアはぎゅっと目をつぶった。

 ふるふると瞼を震わせて、怯えた。

 が。


「ぎゃんっ!」


 アキラはミアの額にデコピンをする。

 ミアは衝撃にのけ反ったか、すぐに姿勢を戻して額を抑える。


「ガキが殺せだの簡単に言うな。俺は戦いは好きだけどよ、誰かを殺したいわけじゃねぇ」

「……そんな甘いことを言ってたらこの先、生きていけないわよ」

「すぐに生き死にに直結させるほど、俺は弱くないんでね」


 ミアは、アキラをじっと見つめる。

 そして。


「くふっ、ふふっ、何なのあんたっ、ほんっと変な奴。

 もう色々と規格外すぎるわよ、あはは、ふふふっ」


 笑うミアを前に、アキラは鼻を一度鳴らして嘆息した。

 その二人の姿を見て、ヒューイは恐る恐る近づく。

 超人域の第一関門を突破した瞬間だった。


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