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夢に出る女神の存在と解釈について

「女神様、なぜ私の夢に出てくださらないのですか――」


 学院の生徒であるカインがいつものように学院付属の教会にサボりに訪れると中から何やら熱心に祈っている声が聞こえた。覗いて見ると同じ学院の生徒の優等生、もとい勉強漬けの真面目君として有名なアルトであった。


 彼の礼拝を邪魔する気もないので静かに後ろの長椅子に適当に腰掛け、いつものようにぼうっと礼拝所の女神像を眺める。

 カインは教会が好きだ。理由はサボりで時間を潰していても大人に怒られないからだ。日中は人もほとんどいなくて静かだし、よく通っているとなんなら敬虔な信徒として褒められさえする。


 女神教はその名の通り女神を信仰する宗教だ。

 この王国ではほとんどの人が信仰していると言ってもよい。しかしその女神の存在は皆が共通で意識しているものの、実態としては「女神が人々の夢の中に顕現する」という神秘的な現象を根拠としていた。

 女神は基本的になにか具体的な奇跡などを施してくれるわけではない。しかし理由は不明だが人々が眠りにつくときに夢の中に同じような女性の姿をした神々しい存在が現れることがあるのだ。

 それが始まったのは千年以上前と言われており、人々はその理由をそれぞれで解釈していた。現在の女神教となる教会組織があるときこの皆の夢の中に現れる女性の共通認識は「女神」という神聖な存在なのだとした。


 夢の中に現れる女神は基本的に人々を何もせずただ見ているだけだ。話しかけて来たり具体的な何かをしてきたりはしないとされている。

 教会はそれはあなたが善なる存在であることを女神様が常に見て期待しているからだ、我々は女神様の願いを理解しそれを為していかねばならないと解釈した。人々の夢の中でただ見ているだけなのは共通とはいえ、どういった場面の夢に出てきたかには差異があるため、教会組織がさまざまな女神が顕現したとされる夢の記録から解釈を積み重ねそれを編纂しまとめたものが教会の聖書ということになっている。

 カインは聖書の原本を読んだことはないので司祭様から聞いた解釈しかわからないが、なんとなく自分も女神様を夢で見たことがあるような気がするのでふんわり本当なんだろうと思っている。


 ぼけっと眺めて時間を潰していたら礼拝を終えたアルトがこちらに気が付いた。

「カイン君、またサボりですか。そんなんじゃ女神様から失望されますよ」

 たしかサボっているのは間違いではないが、あいかわらずクソ真面目なやつだなぁとカインはうんざりする。しかしアルトのほうもどうなんだと思い言い返す。

「聞こえたぜ、お前もさっき女神様が夢に出てきてくれないーって祈ってたじゃん。お前みたいな"マジメな優等生君"が女神様に認められないなら、女神様はそもそも人に努力なんて期待されてないんじゃないかね」

 カインがそうやってからかうとアルトはぐっと言葉につまったような顔をする。彼はなにか言い返そうとしばらく苦悶したあと、やがてがっくりと肩を落とした。


 カインがちょっと言い過ぎたかと様子をみていると、アルトはぽつりと独白する。

「父も司祭様も努力すれば必ず女神様は認めてくださる、道を示してくださると言われていた。ただ憶えている限り僕は一度も女神様を夢に見たことがないんだ。日々努力し、祈りも毎日捧げているのに。何が駄目なのかわからないんだ」

 夢日記も字が書けるようになってから毎日つけているから確実だと言う。カインは彼の考え方が真面目過ぎてうげーっという気分になった。

「そりゃあ教えでは祈れば夢に女神様がでるっていうけどよ、正直俺もはっきりとは憶えてないぜ。起きた時になんとなく夢に女の人が出てきたなぁ、あれは女神様だったかもみたいな時はあるけどさ、母さんかもしれないし姉さんかもしれないしよく憶えてないよ。みんなが言ってる女神様が夢にでたなんてそんなもんなんじゃないの」

 アルトはううんと悩み、それも一理あるけどはっきりさせたいんだと言う。


「これだけ皆が共通で女神様の存在を肯定しているのだから、おそらくなんらかの共通した認識というか存在はたしかにあるんだとは思うんだ。ただ女神様が本当に存在しているのかいないのか、仮に存在しているとして本当に人生の指標としていいのか実際に見てみないと確信が持てないんだ」

 カインはこいつ真面目君なのにけっこう罰当たりなこと言うんだなと驚いた。

 カインは女神は存在しているとみんな言ってるし"なんとなくいるんだろう"ぐらいでふんわり捉えていた。そもそも存在しているのかや信じるに足る存在なのかなんて真面目に考えたことがなかった。しかしちょっとだけ真面目に女神様のことを考えてみるとたしかに変な感じはある。


「でもさ、女神様って夢に出てきてもこっちを見てるだけって話だったじゃん。結局なんも言ってくれなくて、それを自分で考えろというか解釈とかなんとかをしろって話だろ。それって例えばさ、母さんの機嫌がわるいからよくわかんないけどしかたがないから勉強するかーってのと一緒じゃない? なんか怒られるかもしれないから先に空気読んでおこうみたいな。でも本当は洗濯ものを床に放りっぱなしだったから怒ってて、結局勉強してるふりしてたのは無駄だったみたいなことあるじゃん」

 アルトは僕はちゃんと勉強もするし洗濯物は片づけるけどね、と苦笑しつつも言いたいことは汲んでくれたようだ。

「つまりは相手の期待は具体的に言われない限り正解はわからないから考えても仕方ないってことが言いたいんだね。それは女神様でも同じだけど、女神様は仮に夢に出てきてもただ見ているだけだから最期まで正解はわからないままと」

 カインは確信がなかったが、たぶんそうだと肯定した。

「実際にいる俺の母さん相手ですらそうなんだから女神様が本当にいようがいまいが信じられようがどうだろうがどっちでもいいんじゃないのかね。結局なんか自分で考えて怒られなさそうなというか正解っぽいことやるしかないんだし」

 アルトはそれを聞いてしばらく考えていたが、たしかにそうかもねと答えた。


 「ただまあ君がサボっていることに関しては本当に許されることなのかな、たしか今は騎士課の実技の授業中だろう?」

 「あー、女神様が今日の夢で怒った顔をしてなかったら大丈夫だろ」

 アルトはさすがにそれは都合が良すぎる解釈だなと笑ったが、まあでもそういう考え方のほうが生きやすいかもなとも思った。

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